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懲役ダイヤリー 2016年12月30日金曜日 刑務所の冬やすみ

『ちょっといいっすか。昨日の夜、壁ドンしましたよね?うるさいんですけど。え、俺に喧嘩売ってるんっすか。』

隣の部屋の受刑者が多目的ホールで突然話しかけてきて、文句を言ってきた。どうやら寝返りの反動で膝かなんかで壁をドンと蹴ってしまったらしい。独居房であっても壁の薄い刑務所。こういうトラブルはつきもの。

『すみません。気がつかなかったです。』

『まぁ、気をつけてくださいよ。俺だから許しますけど。』

↑これ。刑務所や拘置所留置場でよく聞くワード。流行語大賞ノミネート。なぜか文句を言われて、謝った後に出てくることが多い。イキリたい人が多いんだろうなと感じた。

とにかく刑務所は音に敏感な人間が多い。いびき、寝返りの壁ドン。歯ぎしり、貧乏ゆすりの音。便所を流す音。食器を置く音、とにかく音にはうるさい。当然、立ち小便なんかをして、ジョボジョボ音が聞こえてきたら・・・

『汚ねえんだよ、カス!おめえさ、座ってしろよ。あ、コラ。あげるぞ?』

あげるぞ?とは、調査にあげるぞという意味で、この工場(ユニット)からいなくなるようにすることを意味する。

具体的にいなくする方法は、点検拒否。

朝夜に点検というものがあり、その時間は正面を向いて姿勢を正して座っておかなければならない。警備のアルソックさんが顔と番号を確認するのだが、点検拒否とはこれをしないでいること。横を向いたりしていると・・・

『点検の時間ですよ。』

とアルソックさんに声をかけられる。そこで点検を拒否すると、アルソックさんがその場で刑務官に電話をする。

刑務官がやってきて刑務官に詰められるも・・・そのまま調査へ連れて行かれる。

そしてガラガラと台車の音が工場内をこだまし、点検拒否をした受刑者の荷物が運び出されて、その部屋は空室となる。

そんな風に他の受刑者に詰められている人もいたし、実際に点検拒否をした受刑者もいた。

寝返りは打たない、いびきをかかないように意識、立ち小便はしない、食事をする時は貴族のように食事をとる。こういう事をしっかり守り、気を遣わないと生きていけない。刑務所では普段していたことが当たり前ではなく、まかり通らない場所だ。

ただ、守りに入ったらやられる。攻めの気持ちで。たとえいじられても、おいしいと思え。自虐して笑いに変えれば、こいつは面白いって認められて簡単に仲良くなれる。心を広く持つことが大切。だけど受刑者たちとはつかず離れずの関係。

そうではないと、色々な事故に巻き込まれる。例えば・・・

不正交談

不正交談というのは、話してよい場所、時間帯以外で受刑者同士で話をすること。

考査の時は全く不正交談はなかったが、この一般工場は不正交談だらけで驚いた。あっちゃこっちゃで話をしている。防犯カメラもあるのだが、何年もいる受刑者はカメラの死角を熟知していて、その死角で受刑者同士喋り出す。監視塔の目の前のホワイトボードにテレビ番組表や、その日の食事の献立が貼ってあるのだが、これを見ていると・・・

『テレビつまんなっいすね。』

『明日のマーボナス楽しみっすね』

とか、どうでもいい事をいきなり話しかけてくる。

完全にもらい事故する環境。人がいるところには近寄らない。不正交談が始まったらその場から立ち去る。こういうことを徹底しなければ、すぐに調査だの懲罰だのになってしまう。

巻き込まれないためには、近寄らない。離れる。大切なことだ。


冬休み中は映画やアーティストのライブが放送される。某有料衛星放送さんに感謝。

サイレントサイレンさんのライブ。めちゃ可愛い。癒される。

BABY METALさんのライブ。凄い。激しいパフォーマンス。メタル音楽と女の子のアンバランスな感じが私を虜にさせた。

そしてもう一つ受刑者が楽しみにしていることがある。

お菓子

冬休みの期間は毎日お昼にお菓子が配布される。このお菓子は1月3日の夜まで房で自分で管理することができ、受刑者たちは配布されたお菓子を溜め込んで年始に一気に食べたり、普段お菓子が食べられない時間帯に食べたり、様々な楽しみ方をしている。私も当然お菓子を溜め込んだ。

その中でも人気のお菓子が・・・

七尾製菓さんのチョコかりんとうドーナツ

毎年出るらしいがマジで・・・

これうますぎ。受刑者支持率90%のナンバー1お菓子なのだ。

娑婆に出たらたらふく食べたい・・・そんな風に思っていた。

今年最後の入浴。浴槽にはゆずの香りのバスクリンが入っていた。こういう気遣いは受刑者にとって嬉しい。官に感謝。

明日は初めての刑務所での年越し。

今年一年色々あったな。明日はしっかり振り返ろう。

早く帰って妻と子供と暮らしたい。会いたいよ。

二人とも本当にごめんな。本当にごめん。

全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。


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