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面白いです。面白そう、じゃなくて/映画『ハケンアニメ!』感想

こんなに胸のすく映画は久しぶりだ。

大筋の構造とか展開そのものは目新しくないのかもしれない。けれど終盤に向かっての盛り上げ方とか見せ方に雑味がなく最後まで清々しい。無駄に胸クソな要素を入れ込まない匙加減が絶妙。

余計なことをしないで、堂々と期待に応えていく潔さに好感ばかりが募った。王道にひよらない姿勢が映画全体を通して備わっていて、鑑賞後はとてもポジティブな気持ちにさせてくれる。

『ハケンアニメ!』のハケンとは「覇権」のこと。
派遣のアニメーターが奮闘する、みたいな薄っぺらな作品を勝手に想像して敬遠してる人がいるなら今すぐその頬を引っ叩いて劇場に向かわせたい。

局が異なるだけで全く同じ時間帯に同時に放送されることになった2つのアニメがタイトル通り"覇権"を争う。その大きな指標が今もなお視聴率というのはなんとも前時代的だが、まだまだ現実はそうなのかもしれない。
テレビ局はよく「裏番組に(視聴率)勝った!」などというふうに同じ枠でぶつかる他局の番組のことを相当に意識すると聞く。最近ではテレビドラマがこのように時間丸かぶりで放送され、「視聴率で明暗分かれる!」なんてことも珍しくない。

本作では夕方の人気枠で新たにスタートを切る2つのアニメがバチバチにぶつかる。

中村倫也演じる天才監督率いる陣営と、吉岡里帆演じる新人監督の陣営だ。それぞれが途方に暮れるような時間と労力を費やし、心血注いで最終話までを世に届ける様は、アニメに関わるすべての人はもちろん、日々の仕事に奮闘する僕ら社会人の胸を間違いなく熱くさせる。

むかし一緒に仕事をした上司の言葉を思い出した。

「卑怯、妥協、逆境。仕事をするうえで、この3つに負けない。それがポリシー」
こんなことを言ってた。

劇中ではとにかく妥協せず、逆境にもめげない人たちが溢れている。過度にドラマチックに描いてるのではなく、コレがほぼリアルで日常なんじゃないかと信じられた。

ストーリーの中で重要な軸となる劇中アニメも妥協が見えない。それほど完成度は高く、おそらく緻密な設定とこだわりが裏付けされている。アニメに疎い僕ですら知ってる声優さんも複数登場していたし、内容をうやむやにしてる感じがしなくてどこまでも誠実だった。

主演を務めたのは吉岡里帆。

素晴らしい‼︎ 表層的なイメージしか知らないくせしていつも敵意剥き出しで彼女を叩いている一部のガールズちゃんねる匿名淑女たちは全員これ観てから彼女の善し悪しを判断したほうがいい。男にも女にも媚びることなく役者として堂々と屹立する吉岡里帆の姿がここにはある。

彼女はバラエティで見てもインタビューとか読んでもいつも根っこにある生真面目さが滲み出ている。同時に芯が強くてちょっと頑固なところも垣間見える。そしてそれこそが本来の持ち味だろう。
映画では周囲に翻弄されながらも妥協を許さない芯の通った監督役を好演。まったく持ってムリがない。なぜなら本質的に持ち合わせているものが綺麗に発揮されているから。髪がボサってメガネかけてすっぴんメイクしてる彼女のことをどんどん好きになる。それほどナチュラルに魅力が炸裂している。部屋で少年に語りかけた繊細のない世界についての言葉も印象的。

そして中村倫也。

まず登場シーンが最高だったが、それこそアニメキャラでよくいる飄々とした完全無欠の天才か?と思いきや、そうでない役柄がとっても良かった!
惑い、揺れて、人間味を帯びていく様は見応えたっぷり。それにしても本当に声が良いな。窪塚洋介みたいな雰囲気と声の強度になってきた(ちなみに窪塚洋介は中村倫也について以前共演した際にその能力をベタ褒めしていた)

尾野真千子も力強い。

ハマり役。てかハマり役って一言で片付けてしまうと「ラッキー」みたいなニュアンスになっちゃうけど、ハメられる役者と演出がすごいんだよね。巨大な期待を一身に背負う中村倫也演じる"王子"を支えるに相応しい説得力。

前野朋哉も工藤阿須加も小野花梨もみーんな良いんだ。本作がアニメを愛するすべての人たちを肯定して賛美してるように、役者の誰しもがまばゆく光って愛しく見えてくる。エンドロールのクレジットの見え方が変わるほど。最終話ラッシュに向かう先頭の吉岡里帆とスタッフたちのシーンとか忘れられない。

とはいえ頭ひとつ抜けて魅了されてしまったのは、柄本佑よ。

吉岡里帆陣営のプロデューサー役。
いやかっこよすぎでしょ。ヤな男として散々前振りしておいてやってくれますね。役柄がもうずるい。でも彼が演じることで本来託されていた以上の魅力が引き出されているのは間違いない。存在感がえげつなかった。エンドロールの最後まで持っていかれた。おそらくこれが連ドラなら柄本佑の役は毎週ツイッターのトレンド入り果たしていただろう。


といった具合に、特にケチのつけようもないぐらい素晴らしい映画だったんで、変な先入観持たれずに正しく評価されて広く届いてほしいなって思う。

世界は誰かの仕事で出来ている。
そんな言葉があるけれど、まさに体現。加えて「世界は誰かの覚悟で出来ている」のかもしれない。
自分の役割に確信を持っていて、それをまっとう出来ている登場人物たちがかっこよくて羨ましい。
誰かの本気はまた別の誰かの本気を呼ぶ。心地よい熱量の連鎖に、気付けば観客も引き込まれている。

僕が観た映画館では土曜の夕方だというのに客入りは3割程度と非常にさびしい様子だった。

ただ、良いモノは良い。

劇中の吉岡里帆の言葉を借りるなら
「今すぐには伝わらなくても、いつかきっと」「誰かの胸には必ず刺さる」と思う。

サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います