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『有吉の!みんなは触れてこないけどホントは聞いてほしい話』を見た感想 テレビかじりつきVol.23


有吉弘行の冠番組を語るシリーズの番外編。

史上初めてNHK・民放キー局、すべてでゴールデン・プライムタイムに冠番組を持った有吉さんの偉業を祝し、各番組の見どころや有吉さんの魅力を綴ったシリーズをnoteに書いています。


今回は現状のレギュラーとは別に、放送されたばかりの新番組(現状は不定期)『有吉の!みんなは触れてこないけどホントは聞いてほしい話』(日本テレビ)について。

内容が素晴らしくて、どうしても感想を残しておきたかったので番外編として取り上げたい。

#有吉に聞いてほしい話


『有吉の!みんなは触れてこないけどホントは聞いてほしい話』とは

苦境や葛藤を乗り越えた芸能人が、語られなかった人生をサクッと解禁。周囲に気を遣われがちな芸能人が本当は聞いてほしいあの話。
そのリアルを通して芸能人が学ぶべきエピソードと教訓を楽しく伝えます

公式より

有吉さんは多様なジャンルの番組を持っているけど、これまた新鮮な角度。

近いものなら不定期放送の『真夜中の保健室』かも? あれも日テレの制作だったね。

『真夜中の保健室』とは
MCの有吉弘行を院長に見立て、女性芸能人が「人には言えないカラダの悩み」を相談する番組。

"常連患者"の女性芸能人とのトークを経て、有吉と医者が悩み解決につながる処方をする。
深夜帯だったこともあり、性的なテーマや過激な下ネタも多く扱われた。

今回初放送だった『有吉に聞いてほしい話』は、演歌歌手(大江裕)、お笑い芸人(中川家・剛)、天気予報士(小林正寿)の活躍ジャンルの異なる3人が『パニック症(パニック障害)』に関する実体験を語った。



公式サイトの文言を改めて確認すると、決して病気に限定しているわけでもないようだ。もしかしたら莫大な借金でもLGBTでも解散したバンドや芸人のエピソードでも良いのかもしれない。

「あの人ってなんかあったよな…」と共演者も視聴者も見かけるとモヤモヤする人たちに当時の状況を話してもらうのは興味深い。それは不倫スキャンダルとかの自業自得モノ以外で。

不可抗力でそうなってしまった=誰にでも起こりうる知っておくべき話のはずで、伝える意義も出る。

今回のパニック症も、名前こそ聞いたことはあっても、詳しい実態を知らない人が大半だったと思う。

何がキッカケでなるのか。
何が苦しいのか。
そのとき何をして何をしない必要があったのか。乗り越えた現在はどうか。

経験した人自身が順を追って語ってくれる場所をマスメディアに用意したのは貴重だ。民放のテレビ局で22時台から流れるのは大きい。時代の変化とはいえ、昔じゃ考えられない。啓蒙の意味でも素晴らしい企画である。

そもそもパニック症(障害)とは

なんの前触れもなく、めまいや呼吸困難などとともに激しい不安に襲われる。この発作に対する不安で生活範囲が制限されることもある。

パニック症は、100人に1人くらいの割合で起きるといわれています。
なんの前触れもなく、めまい、動悸、呼吸困難、ふるえなどの自律神経症状にくわえ、激しい不安に襲われる「パニック発作」を繰り返し起こします。

さらに「また、あそこに行ったら発作が起きるのでは」などという恐怖心がふくらみ、発作の起こった場所や状況を避けようとして、生活範囲が制限されてしまう状況に至ってしまいます。医療機関で受診しても、身体的な異常はみとめられません。

最近では、抗うつ薬や抗不安薬などが効果的だという報告がされています。薬物治療と同時に認知行動療法を用いるとさらに効果が高いことも認められています。

厚労省のホームページより



パニック障害という言葉を初めて知ったのは、「中川家の剛さんのときだったかもしれない」と有吉さんが語っていた。それほど当時は病名を聞くのも、それが公にされるのも珍しかった。
当然、本人も周囲の人たちも動揺し、理解も追いつかなかったことだろう。

個人的にもKinKi Kidsの堂本剛がパニック障害を抱えていたのを書籍かインタビューで知ったのが最新かもしれない。どっちの剛がキッカケだったのか記憶は定かでないが、いずれにしても芸能人がメンタル系の病気に悩めることを公表するのはまだまだ珍しく、インパクトがあった。

もちろん同じパニック症の人でも程度や症状に差異はあるだろう。置かれている環境も影響するはずだ。

今回の3人は主に人前に出る仕事をしており、労働環境も特殊だったといえる。とはいえ、メンタルを崩す理由で多いのは過重労働などのいわゆるキャパオーバー。家庭環境の歪み、社会における環境(立場)の劇的な変化など、誰にだって起こりうる。

芸能界なんておそらくここ10年でまだマシになっただけで、そもそもは労働基準法もへったくれもない超絶ブラック環境のイメージ。個人事業主だからといってしまえばそこまでかもしれないが、異常なことを異常な環境でやり続ける仕事。一般市民よりメンタルがぶっ壊れやすいリスクに溢れているのは間違いない。

それは番組中にも言及されていた。

アンガールズ田中「芸人になって人前で喋るって、やっぱ異常行動だと思いますもん。初めてのネタ見せで一言も出なくなっちゃって帰った人もいるぐらい、それぐらいヤバい仕事してる」

MEGUMI「今日だってね、何十万人の人が見てるわけじゃないですか。それで喋ってるって頭おかしい」


体力、時間、メンタル、プライバシー、すべてを常識の範囲を超えて日々消耗している芸能人は、おかしくならないほうがおかしい。

何かしらすでに壊れた人たちだからこそ芸能界に選ばれるのか、芸能界にいると麻痺していくだけなのか。売れている人なら得られるリターンの大きさで耐えられるようになってしまうのか…

ちなみに有吉さんは「仕事がないほうがキツい。忙しいほうがいいタイプ」と明かしていた。

根本的な資質の問題はやはりあるだろう。
経営者の人とかも忙しくないと落ち着かないとか、バイタリティに満ち溢れてそれを発散し続ける状態でないと不安になるタイプは多いと聞く。

精神疾患といってもその範囲は多岐にわたる。

だいぶ細分化されていて、病名もいくつも付いている。ひとえに発達障害といっても多様な症状があるし、複数の傾向が横断的に入り組んでいるタイプもいる。

パニック症は不安障害のひとつ。

今回のゲスト3人はいずれも男性だったが、女性のほうが男性の2.5〜3倍ぐらい発症しやすいといわれている。うつ病と併発するケースもあるから余計にしんどい。
脳のセロトニン不足が原因のひとつで、セロトニンを増やす抗うつ薬(抗不安薬)を処方されるケースが一般的。

なぜなるのか。

それも人それぞれ。
先天的な要素もあれば家庭環境にもよる。学生時代や社会に出てからの大きな出来事をキッカケに発症するケースもあるはず。

キャパオーバーを続けるのは特にリスキー。自分でやろうとは思ってなくても、不意の土砂崩れのように巻き込まれることだってある。
それと大きな負担が2つ重なると危ないともよく聞く。過重労働+家庭の問題(育児や介護)とか。

事情はそれぞれ異なる。簡単に括れないからこそ難しい。自覚がないまま追い込まれる。他人には話しづらいセンシティブな部分も絡むため、抱え込んでしまうのも珍しくない。基本的に完璧主義の人や生真面目な人に多い。

なぜこんなことを素人目線で書き連ねているかというと、僕個人も心療内科に通った経験があるからだ。そして周囲にもそういった人を見てきている。自分や身近な人が経験しているとリアリティが違う。生々しい解像度が出る。

番組のなかで会食恐怖症を告白していた小林さんは、心療内科に初めて行ったときのエピソードも話していた。

苦しみに耐えられず意を決して飛び込むと、5分ぐらいの診察で終わり、薬を処方されてあっけなく終わったと。でもそれがむしろ救われたというような話だった。
自分がこうなってるのはなにも特別じゃない。ひとりで思い悩む必要も取り残された気持ちになることもない。

小林さんはその後、徐々に克服し、薬はいざという時のために今も持ちながらも普通の生活を送れているようだ。

僕も初めて心療内科に行ったときは緊張や不安があった。

ただ小林さんが話すのと同じように、診察は意外とあっさりと終わる。60分ぐらい時間をかけてじっくり傾聴してもらいながら神妙な面持ちで診断を…と思っていたら、全然そんなことない。
まじで10分ぐらい。初診じゃないなら5分とか

いくつか問診されて、〇〇ですね。〇〇なので、〇〇しましょうとか。同情や心配を過度に匂わす雰囲気もない。「虫歯ですね。歯石がかなり溜まってるので綺麗にしましょうか」ぐらいの感じ。

もちろん症状にもクリニックにもよるだろう。
ただ心療内科は混む。先生も忙しいので、ほとんど何処もそんなもんじゃないだろうか。
診察前に待合室で取り組む心理テストのが長かったりする。

勝手に想像していた、じっくりと話を聞いてもらうような時間は特段ない。良い意味で拍子抜けする。検査や傾聴によって内省を促されるような時間については、別の臨床心理士によるカウンセリングを紹介された。

待合室には年齢も性別もさまざまな人がいて、外で会ってもまともにしか見えない人ばかりだった。普通の人たちがおとなしくして順番を待っている。薬も風邪で内科に行ったときと同じようにもらえる。

眠れないのなら睡眠導入剤も処方してもらえる。寝付きに効く薬と、深い熟睡感に繋がる薬など、睡眠薬も何パターンもあるので相談するといい。

うつ病であれば、今は医師の見立てだけでなく、血液検査を実施するところもある。いわば脳の病気なので、セロトニンの数を見てそれがどれだけ不足しているかをチェックするのだ。
結果の数値から根拠を持って診断し、寛解までの道筋を示してくれる病院は存在するのだ。

小林さんが言ってたことはよくわかる。

僕も同じように、そのいい意味での事務的な対応、さも日常かのようにサラッとした診察に安堵を覚えた。先生との相性もあるにせよ、ネガティブなシミュレーションは杞憂に終わった。

全然ふつうじゃん。必要以上に深刻になることもないのかもって。偏見なく話をすこしでも聴いてもらえて、状態に名前を付けられるだけでもありがたい。現状をありのままプロに話せるだけでもラクになる。

僕は不眠の症状があったので、薬によって寝られる安心感が出たのはとても大きかった。不眠は人間を確実に壊し、頭がおかしくなる。

飲まないで大丈夫になっても、手元に薬があるだけで安心感は違う。自分の現状を理解している、最適な手を打ってくれる場所があるのは心強い。

信頼できる病院に行きだすことに加えて、身近に寄り添ってくれる理解者がいると尚更ベスト。
むしろそれが一番大切かもしれない。行く末を左右する分かれ目というか。

周りに理解者がおらず、まともに取り合ってくれなかったり、なんなら否定されたりすると、完全に壊れてしまうと思う。当初の想定よりもずっと長い時間を修復に要することになるし、ほかの病気の併発にも繋がる。寄り添ってくれる人の有無は立ち直りまでに大きく影響する。

北島ファミリーの大江くんには北島三郎がいた。

彼が病み、ろくに仕事ができずに途方に暮れているとき、北島三郎に呼び出されたという。

クビだろうと思いながら大江くんが部屋に行き、土下座をすると、北島さんは頭を撫でて、優しい言葉をかけてくれた。

「おまえは今、休む時期だ」「俺のそばにいれば絶対怖くないから、俺のそばで仕事をしなさい」「またおまえの歌が聴きたい。時間が薬だ」と。

こんな満点回答あるだろうか。

メンタル系の病はとにかく良くなるまでに時間がかかる。焦らずにと思っても、差し迫る生活や人の目がそれを許さないこともある。

それを本能的に分かってるかのように温もりある言葉で包み、寄り添って守ってくれる北島三郎は偉大である。この年代の男性であれば、理解が及ばず真逆の対応をしたっておかしくないからだ。

このエピソードを話しているときにBGMで星野源の名曲『くだらないの中に』が流れていた。
僕は不覚にも涙腺が強く刺激された。


それを神妙な面持ちで聴いていた有吉さんも、心当たりをなぞるような真剣な表情を向けていた。
苦しいときに寄り添ってくれた人がいたこと、そんな大切な人にもっとできたことはなかったかと、誰よりも思い当たる節があるのはきっと有吉さんで、この番組を受けた理由だったのかもしれないと想像した。

でもすぐに大江くんの美しいトーク終わりに「(こんな出来すぎたエピソード)嘘だと思ってるもん」と茶化して笑いにしてたのもまた有吉さんらしかった。

中川家の剛さんにはさんまさんや弟の存在が大きかったという。

60分番組だったが、90分以上で見たかったほど濃くて引き込まれる内容だった。
MC側も同じメンバーでレギュラー放送してほしい。

有吉さんの隣に女子アナでもなく既視感の強いみちょぱとかでもなく、MEGUMIをキャスティングしていたのも良かった。緩慢になりかける流れをスパッと短い言葉で切れる人だし、有吉さんと同じように、強くいくときはいける人だから。

大人の女性で強いツッコミや流れを引き戻す度量があるのは、有吉さんの負担軽減を考えてもちょうど良かった。

教養ある立場で客観的にテーマを広げられるアンガールズの田中さんも純粋な疑問をぶつけるなどさすがの安定感。

西野七瀬は番宣あってのゲスト枠だったようだけど、年齢的なバランスとしても華を添える存在としても不可欠だった。デリケートな話題になるなかで、彼女の空気感と真剣に話を訊く表情は番組全体を柔らかくしていた。

あらゆるゲストを迎えて、いろんな病み(闇)を話してほしい。有吉さんの「明日は我が身」という言葉が象徴するように、1ミリでも知っておくだけで自分や身近な誰かがそうなったとき、理解や傾聴に繋がる。

ちなみに専門家の医師を置かなかったのはあえてだと思っている。
企画の段階でそんな話が出るのは当然なのにあえて呼ばなかったのは、専門家でもなんでもないあの4人がその場で聴いて、生のリアクションを取ってもらうことに意味を見出したのだろう。

罹患した本人たちの言葉に頼るからこそ説得力が出る。人それぞれ違うなんてのは3人の話からもわかるので、MC側以外の客観性も無くていい。余計なVTRや演出、解説が入らないからこそ見やすかった。

そしてだからこそ自分たちで考えるし、想像もするし、学ぼうと思う気持ちが芽生える。

そのあたりも絶妙だった。

続けていけばテーマによって燃えるリスクも背負う番組だろうけど、そのハードルを乗り越えてでも届けることに価値はある内容だ。

病や苦しみを腫れ物にせず、克服した人の姿や葛藤の過程を伝えたりして今も独りでもがいているかもしれない人たちに勇気やヒントを与えるのは素晴らしい。
コンプライアンスを言い訳にせず、こんな形で時代に呼応し、それでいて強気なテーマを真摯に扱えるのはすごい。

ぜひまた次回を見てみたい。

※すべて個人の感想です

サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います