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留置場の日常~その6~

タクマさんがお茶をコップに用意を終えていたので、2人で渡していく。きちんとお礼を言うものもいれば、「うーす」と荒く返答するものも、何も言わずにコップをとるものもいる。千差万別である。そんなことを思いながら、お茶配りをタクマさんと終え、誠司は次の入浴入れ替え対応に戻るのであった。
 交代で入浴する者を数分に一度、小窓から見ないといけない。事故など予防的観点である。
 たまたま今から詐欺社長だったのであるが、ふと見た背中は無駄な肉がなく、しっかり鍛えられた背中であった。留置初日に少し話したが、彼は、HIITトレーニングを2年続けており、身体管理に余念がないようだ。しっかり走りこみ、筋トレも丁寧に取り組んでいたようだ。今も彼は空いている時間はスクワットと腕立てをしているようである。特にふくらはぎの脚がバランスよくサラブレットのように鍛えられていた。詐欺社長はしっかり風呂にもつかり、最後は水シャワーを浴びて丁寧に入浴していた。そして入浴後、必ず体重を計測する。減量が出来ているようである。当然、朝も7時起床、夜も21時消灯。夜遅くに食事はしない訳で、糖分もそこまで摂取しない。故にどんどん身体から脂肪は落ちる。だが、同時に動かないので、筋肉も落ちていく。それが分かっているから日々どうやらトレーニングを部屋でしているようだ。
「予想通り、700g減量成功」
とのことである。
さて次は、前科八犯の解体屋社長である。彼は彼で留置場に慣れている。首下から足首までしっかり和彫りが入っている彼であるが、今回はどうやら飲み会後の友人を送迎しただけらしいのだが、その友人がその前の飲食店で喧嘩をした故の犯人隠避の疑いをかけられているとのことである。
 毎日の差し入れで彼の洋服には香水がふられており、良い香りがする。彼もさっと入浴を終えて、着換えてさっぱりしたようだ。彼も詐欺社長に影響を受けて、日々筋トレをしているらしい。ロッカーで本の差し入れを入れ替えて、嬉しそうに部屋に戻った。
 まもなく署長巡視である。日々のチェックを留置場スタッフが行い、その内容確認と署長自らの目で、留置場内全て確認する。これが1日二度ある。係長が署長と巡回し出入口施錠を対応する。
「出入口開錠よーし!!」
「ありがとうございました!!」
と敬礼よろしくである。
正午までにあろ二名を入浴させねばならない。スーパー万引き常習の20代ガリ男を呼び、風呂場へ案内誘導する。彼はどうやら傷害で前科ありで、変に慣れている素振りをする。でもなぜかそわそわしている。少し吃音があり、署内で共有されていることだが、親族は唯一は母親のみで事情がありグループホームで彼は暮らし、就労支援B型で働いてるらしい。誠司は家族がある当たり前の日常で育っており、ガリ男の状況は理解推測は限界があるが、なんとか若い故、未来に向けて頑張ってほしいと祈っている。


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