風呂とあんぱん(公式)

ある地方都市の警察署の留置場に勤務する誠司のどこか間抜けなでも心が温まる物語。留置され…

風呂とあんぱん(公式)

ある地方都市の警察署の留置場に勤務する誠司のどこか間抜けなでも心が温まる物語。留置された方々とのちょっとしたやりとりを通じ、改めて生きる事、愛情、思いやり、家族を考えさせられるストーリー。この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。ご了承ください。

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推定無罪の日常の現場から。

誠司は、まだ眠気の残る目をこすりながら、春の朝の陽ざしを受け、海沿いからのまだ少し冷たい風とあいまって気持ちよい通い慣れた道を自転車を急ぎ漕いでいる。  元々小学生の頃に両親が購入した戸建てで同居しているが、この海辺の町は、昔は漁師町だった。だがこの20年の交通機関の発達で、オフィスエリアに通うサラリーマン家庭に手が届きやすい戸建ても増え、今では、落ち着いた海辺のベットタウンで人気の街並みで育っている。早朝や夜中にいまだに聞こえる漁船の音や通過するタンカーがほっこりして大好き

    • 留置場の日常~その6~

      タクマさんがお茶をコップに用意を終えていたので、2人で渡していく。きちんとお礼を言うものもいれば、「うーす」と荒く返答するものも、何も言わずにコップをとるものもいる。千差万別である。そんなことを思いながら、お茶配りをタクマさんと終え、誠司は次の入浴入れ替え対応に戻るのであった。  交代で入浴する者を数分に一度、小窓から見ないといけない。事故など予防的観点である。  たまたま今から詐欺社長だったのであるが、ふと見た背中は無駄な肉がなく、しっかり鍛えられた背中であった。留置初日に

      • 留置場の日常~その5~

         暗い話をするよりも、自分に今できることをしてくれる方が、心身ともに良い効果があるはずである。そんな事を少し考えていると面々が髭剃りを終えて、部屋へ戻ると伝えてきたので、誠司がそのまま誘導する。雑誌や留置場内で貸し出す文庫本を必要とする人にはロッカーから渡す。  八時半過ぎであった。留置場の朝は本当に早い。今日は入浴日である。  入浴は夏は基本的に番号順。つまり留置が古い人からである。  例外は検事面談や拘留請求がある者は8時から入浴することもあり、少し順番が変わる。  今回

        • 留置場の日常~その4~

           朝はアラームはつけるが、警察で働き出してからアラームの10分前ぐらいには目覚める癖がついていた。7時にリビングへ向かう。父は出かける寸前である。  「今日は仕事か?」 とぶっきらぼうに飛んできた。  「もちろん24時間勤務だ!」 と強く返事をした(笑)。 妹は休みなのか起きてこない。玄米、卵焼き、鯖、味噌汁、納豆という定番メニューをしっかり食べて、身だしなみを整えて、愛車の自転車で警察署へ向かうのである。  今日はあいにくの曇天。少しなぜか身構えて出勤する誠司であった。  

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        推定無罪の日常の現場から。

          誠司の日常~3~

           朝7時頃に目覚め、朝の早い父親はもう出勤していたが、母、妹と玄米、卵焼き、味噌汁、納豆といういつもの朝食を食べた。  8時に車をガレージから出し、車で45分程度の母校でもある大学へ妹を乗せて向かった。今回も気持ちよく晴れ渡っていたが、兄妹のとりとめもない会話をしながら妹を学校に送り、誠司は行きつけのジムに向かった。  元来、野球を長くやっていたので、運動は大好きである。加えて仕事柄、身体は鍛えるにこしたことはない。米軍式のHIITトレーニングに2年ほど取り組んでいる。所謂逮

          誠司の日常~2~

          少しリビングのソファでうとうとしていたらしく、20時前に父親の佳史が帰宅した音で目が覚めた。元来おおざっぱで細かいことを気にしない父親は息子である誠司のシフトは覚える気もないらしく、毎度毎度、 「今日は休みか。公務員は休み多いの~えーなー。俺は休みなしや~」 とだいたい同じセリフである。冷静に考えると3日に1日半は仕事でいないと気づくはずなんだが。  スーツを脱いで肌着姿で台所にどかっとスワルのがお決まりである。ビールと共に食事がスタートとなった。決まってアサヒスーパードライ

          誠司の日常~1~

          ある程度の留置メンバーの顔つきを見て、顔色、声のトーンを見つつ誠司の24時間勤務は終わりに近づいてくる。  日報と引継ぎ事項を終えて、着換えて業務終了である。それぞれに挨拶を住ませて誠司は自転車で帰宅する。天気もよく無事に24時間勤務を終えて帰るこの時間はとても清々しい。道すがら出勤する顔見知りにも挨拶を交わすこともある。  近所のコンビニで朝ごはんやお菓子等いくばくか購入して帰る。  入浴、食事をして、やはり疲れて眠ってしまうのがいつものオチだ。  夕方頃目覚めると台どこと

          留置場の日常~その3~

           普段おとなしい銅線を窃盗した倉庫盗み常習の50代元やくざが、夜中、窓を見つけたまま正座していたのである。23時頃の巡回だったので、あまりにも驚き、「ひー」という声も出てしまった。 「大丈夫か?寝れないのか?」 と問い、 「少し寝れなくて。嫁のこと考えていました。」 とあったが、寝るとのことでおやすみと交わしたのである。 倉庫盗み常習の50代元やくざは、58歳。左ひじから左胸まで、和彫りががっつり入り、右目上には刀傷である。20年前に6年刑務所に入った経験があるが、刑期を終

          留置場の日常~その3~

          個性とコミュニケーション3

           特に夕食時はスタッフも声掛けの一つとして、おかずの内容が豪華そうな時は、 「今日は当たり?」 というような会話をする時もある。電話、携帯、テレビなど、外部との接触を全て遮られていることは知っているので、少しでも笑顔が見えると少しこちらもほっとするものである。  ちなみに朝食は牛乳1パック、調理パン1個、菓子パン1個で600㎉程度である。昼食は少しさっぱり目であるが、夕食と同じ配食業者なので、栄養士の組んだ栄養バランスの良い食事メニューで適切なカロリーで提供している。多分一日

          個性とコミュニケーション3

          留置場の日常~その2~

          どこからともなく、将棋の指し声がするのである。 「四ー三ー歩」「三ー二ー桂馬」 留置場にもちろん将棋セットはないのである。いきなり頭ごなしに注意しても良くないので、係長のゲンに相談した。  ひとまず様子を見て、巡回の際に何をやっているか見てくることになった。  なんと、2つの隣どおしの部屋で、ノートをお互いに切り、将棋の駒を作り、指しあっているのだ。 思わずその執念は別の所に使ったら良いのにと言いそうになったけれど、その想像力には脱帽した。一旦現状をあるがまま、ゲンに報

          留置場の日常~その2~

          個性とコミュニケーション2

          解体屋の大食い社長と詐欺社長は21時の消灯後、23時頃にはぐっすり眠って、起床7時の少し前には起きて談笑している。彼らは睡眠剤も求めず騒がない。心の強さというかやるべきことをするしかないと考え、日々穏やかな表情で淡々とこなしている。感情が安定していることは間違いない。  スーパー万引き常習のガリ男は、あり得ないぐらい丁寧丁重なんだがタイミングも自分勝手で酷いのである。 「茶ちょーだい」 「本替えて~」 と子どものように発言する。 一番驚いたのが、昼食時に早朝のNHKラジオを録

          個性とコミュニケーション2

          個性とコミュニケーション1

           さて日常の一部を少し話したけれど、誠司も日々感じているのだが、各種犯罪者によって我々を呼ぶときの呼び方、伝え方、言葉の選び方は人それぞれなのである。なんとなくだが、中途半端な罪(罪において大小はないけれど)の奴ほど、えらそうにし、ぶっきらぼうだ。  「担当さーん」と読んでから依頼するものもいれば、巡回時のタイミングで「すみません、~~お願いします」と言うものもいる。  日常的に多いのが、「お茶ーー」「本替えてーー」「チリ紙ーーー」(トイレの紙)となぜか単語だけで依頼する奴も

          個性とコミュニケーション1

          留置場の日常~その1~

          誠司の所属するチームは、係長のゲン、主任の30歳の拓海、同期入社の健人で構成されている。拓海は何かしら格闘技をやっているような体格だが、ゲンと同様穏やかで温和な雰囲気で目がとても優しい。趣味はベンチプレスと聞いている。誠司と同期の健人は、元来正義感の塊で早く刑事になって凶悪犯を捕まえたいと鼻息荒いタイプなので、厳しい表情で留置者を見て、時にきびしめのコミュニケーションをはかっている。かく言う誠司は正直まだこの仕事の意味ややりがいは分からず、なんとなく家から近い、24時間勤務の

          留置場の日常~その1~

          お茶。爪切り。

           10時にはお茶がふるまわれる。もちろん7時起床、掃除のあとに歯磨き洗面をし、順番に朝食が渡される。朝食は基本的にパン2つと牛乳である。留置所の一般的なスケジュールは、48時間で解放されるのが一番良いとは思うが、起訴勾留を受けると、その後は、午前、午後は警察の取り調べを受ける。そして10日間留置の間に検事の取り調べも受けることになる。もっと言うとこの11名以外のケースではあるが、本来この留置場は48時間で勾留か否かの判断をするために取り調べを受ける。中には一回目の勾留請求で保

          はじめまして。

          ある地方都市の警察署の留置場に勤務する誠司のどこか間抜けなでも心が温まる物語。留置された方々とのちょっとしたやりとりを通じ、改めて生きる事、愛情、思いやり、家族を考えさせられるストーリー。この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。ご了承ください。 #あんぱん #風呂とあんぱん #小説 #留置場