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推定無罪の日常の現場から。

誠司は、まだ眠気の残る目をこすりながら、春の朝の陽ざしを受け、海沿いからのまだ少し冷たい風とあいまって気持ちよい通い慣れた道を自転車を急ぎ漕いでいる。
 元々小学生の頃に両親が購入した戸建てで同居しているが、この海辺の町は、昔は漁師町だった。だがこの20年の交通機関の発達で、オフィスエリアに通うサラリーマン家庭に手が届きやすい戸建ても増え、今では、落ち着いた海辺のベットタウンで人気の街並みで育っている。早朝や夜中にいまだに聞こえる漁船の音や通過するタンカーがほっこりして大好きである。
誠司はこの町で育ち、ある程度有名でもないが、地元の中では少々憧れの私大を卒業し、警察官になるべく警察学校を経て、交番勤務を終えて、今年からたまたま実家から自転車で通える警察署に勤務している。
職務内容は留置場での担当員である。西日本の中堅都市としてベッドタウンでもある地元での勤務は嬉しかったが、留置場での仕事は少々当初困惑が多い日常であった。
 大まかな仕事の流れは、8時頃出勤し、着替えと準備をして、8時半には留置場へ入る。何かしらで逮捕された男性が10日ないし20日、稀にもっと長いケースはあるが、取り調べのため拘束され留置されている場である。朝の運動として小さな運動場でひげをそり、爪切りなどをする時間があり、要はそこで何かトラブルにならないかを見張る業務からスタートする。
その業務から1日が始まり、様々な拘置者の対応や何かしらのアクシデント対応などしつつ夜は仮眠を取りながら翌日9時までの24時間勤務という訳である。

 今日も相変わらずのひげそり見守りからスタートである。GW明けの丁度心地いい季節に拘束されている留置メンバーの概要としては、覚せい剤3回目の50歳のキリスト、窃盗余罪大量の30代ルパン、大麻所持初犯の20代ボクサー。スーパー万引き常習の20代ガリ男、詐欺初犯の40代筋肉社長、前科8犯の解体屋の50代大食い社長、倉庫盗み常習の50代元やくざ、オレオレ詐欺余罪ありの20代ツーブロック、彼女と喧嘩しすぎた40代の大工の源さん、友だちと激しめの喧嘩しちゃったやくざの息子のマッチョ、覚せい剤6回目の40代バイク王の11人であった。留置場の担当員同士、留置担当員が彼らを名前で呼ぶ訳にもいかないので、担当同士はあだ名で認識しあう事が多い。もちろん場内では呼称番号であるが。
 誠司からすると何故犯罪をするのかが理解できないが、留置場という場所は犯罪を犯した疑いがある人物を取り調べするためが主目的であり、彼らの基本的人権は守られている。


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