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個性とコミュニケーション3

 特に夕食時はスタッフも声掛けの一つとして、おかずの内容が豪華そうな時は、
「今日は当たり?」
というような会話をする時もある。電話、携帯、テレビなど、外部との接触を全て遮られていることは知っているので、少しでも笑顔が見えると少しこちらもほっとするものである。
 ちなみに朝食は牛乳1パック、調理パン1個、菓子パン1個で600㎉程度である。昼食は少しさっぱり目であるが、夕食と同じ配食業者なので、栄養士の組んだ栄養バランスの良い食事メニューで適切なカロリーで提供している。多分一日で1800㎉程度は摂取出来ているはずである。
 夕食後は、20時から洗面歯磨き、寝具の用意があるものの、それまでは自由時間である。概ね皆読書しているか、早々に寝る人もいる。
 しかし将棋もそうだが、やはり空腹を満たされると面々が盛り上がり、会話が弾む事が多い。我々職員は、彼らの食事後は、毎朝の清掃道具の準備もしないといけないので、大忙しである。また加えて、当然だが、それぞれの担当弁護士も面談に来る時間帯として、18時~21時が多く、我々もバタバタしがちである。このあたりのエピソードもまた別途お送りします。
 さて、なんだかんだで20時の洗面タイムである。相変わらず面々が洗面しながら話し始めるのである。将棋を昼間に取組んでいた2名が案の定、話し続けている。しかも大声で。
 窃盗余罪大量のルパンとオレオレ詐欺余罪ありのツーブロックである。歯磨きをしながらなんと両者は自身の取り調べ状況と余罪を共有し始めたのである。
ルパンは、
「あと3件、A市、B市でやってるんやけど、証拠待ちと被害届の精査っぽいけど、まだまだあるからな~」
と気楽に構えて話し、
ツーブロックは、
「俺なんてC県D県でまだまだめくれてくるから、何も動けへん。検事と刑事まだまだ出てくるぞ言われてる」
「きっついなーいつまで留置なるやろうな」
とルパンが返答する。
「ほんまっすよ。俺なんて嫁まで参考人でパクられたみたいっす」
と年下のツーブロックが敬語でもないが丁寧語で返答していた。
まあ、そこまであけっぴろげて話せるのかと思いながら、係長のゲンが丁度いいタイミングで、
「はい、私語はあかんよ~はよ歯磨き終わらせるように~」
と伝えてくれて、一旦止まった。
 やはり留置者同士で共有され過ぎると他の犯罪、謎の人の繋がりが起きてしまうので、注意が必要だ。また改めてにするが、そういう話で留置者同士の喧嘩も誠司は過去に見たことがある。止めるのはなかなか難儀であった。
 一様に歯磨きを終え、21時の就寝消灯となった。
 誠司は誠司で翌日の掃除道具の準備に入る。夜は見回り巡回も交代であるの、また22時頃から少し休んで、巡回業務がある。
 一部の面々はしりとりをしながら22時から23時で眠りについた。無音で誰とも話さずという状況下では、ストレス過多だろうから、バランスが重要だと思っている
 そういえば、この巡回中に久しぶりに誠司はぞっとする体験をしたのであった。


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