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お茶。爪切り。

 10時にはお茶がふるまわれる。もちろん7時起床、掃除のあとに歯磨き洗面をし、順番に朝食が渡される。朝食は基本的にパン2つと牛乳である。留置所の一般的なスケジュールは、48時間で解放されるのが一番良いとは思うが、起訴勾留を受けると、その後は、午前、午後は警察の取り調べを受ける。そして10日間留置の間に検事の取り調べも受けることになる。もっと言うとこの11名以外のケースではあるが、本来この留置場は48時間で勾留か否かの判断をするために取り調べを受ける。中には一回目の勾留請求で保釈されるケースも多々あるし、在宅での取り調べになることもある。
 つまり今、誠司の目の前でひげそりや爪切りに勤しむ11名は、それなりの犯罪を犯している可能性が高く、拘束して取り調べを受けないといけない面々である。11名を一同に見るために、留置場の担当員もみな運動場に出払って、並んでいるのである。運動場と行っても、2m×10mほどの広さの青空天井のコンクリートの空間である。思い思いにひげそりをし、爪切りをし、仲良くなった留置者同士で少し談笑している様子である。我々留置場の担当員も彼らと少し会話もする。健康状態や心理的な状態も見ないといけないからであす。
留置場にいること自体、やはりストレスがかかるものだと思う。せまい部屋で、その部屋は取り調べや面会がない限り出れない。
 そしてやはり娯楽が圧倒的に少ないからである。署内の貸し出し文庫は100冊あるが、皆が皆文庫を読むわけでもない。金銭的に少し余裕があるものは、週刊誌の雑誌と漫画は購入はできるか、差し入れでいれてもらえるものとしても漫画か雑誌になってしまう。
 誠司はよくもし自分が留置場に入ったらと置き換えてみるが、考えるだけでぞっとしてしまう。
 そう、やることがなさすぎるのだ。故に、少しでもストレスが軽減されるように、ちょっとした会話を通じて、表情、顔色、声色、リアクションの雰囲気で慮るようにみなでしている。
そういった教えは、係長の42歳のゲンさんが上手に背中で見せてくれる。いつも穏やかで留置された面々にも優しくコミュニケーションをとっている。右腰に古傷があるのか、いつも少し身体を傾かせて歩いているが、誠司は腰のケガなどの理由は聞いたことがなかった。


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