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個性とコミュニケーション1

 さて日常の一部を少し話したけれど、誠司も日々感じているのだが、各種犯罪者によって我々を呼ぶときの呼び方、伝え方、言葉の選び方は人それぞれなのである。なんとなくだが、中途半端な罪(罪において大小はないけれど)の奴ほど、えらそうにし、ぶっきらぼうだ。
 「担当さーん」と読んでから依頼するものもいれば、巡回時のタイミングで「すみません、~~お願いします」と言うものもいる。
 日常的に多いのが、「お茶ーー」「本替えてーー」「チリ紙ーーー」(トイレの紙)となぜか単語だけで依頼する奴もいるのである。
 確かに公判までは罪状や量刑は決まっていないし、同じ人間ではあるので、寝食等の最低限は保証する立場にあるし、彼らとて孤独であろうから、よりよい関係性でありたいと思っている。しかしながら往々にして日常はこんな感じである。
 例えば、前科八犯の解体屋の大食い社長は首から足首までがっつり和彫りが入っているのだが、大きくはきはきした声で、
「担当さーん」
と呼び、端的な言葉で依頼してくる。そして丁寧に、
「ごめんやけどお茶もらっていい?」とか「お菓子もこれとこれと」と声の出し方も丁寧で、伝え方も穏やかである。しかも笑顔で頼み事をしてくるからこちらもつい気分が良くなってほころんでしまう。
 また詐欺初犯の筋肉社長は、我々が巡回で回るタイミングやお茶を出すタイミングを見計らって上手に依頼をする。ちなみに彼は詐欺をした(補助金が出ると言い切ってしまったのとどうやら書類にも明記した鈍くさい男だ)三か月後にきちんと謝罪し、補助金取れなかった顧客には謝罪し返金しているものの、一部の元クライアントに嫌がらせに近い形で被害届が出されていたらしい。3年前の事案と納品含めて34社取引があったため取り調べを受けている。不幸にも引越前で拘束されたらしい。
 解体屋の大食い社長は大人数で飲んでいて、その内一人が喧嘩となり主犯を送っただけだが、犯人隠避で勾留されている。詐欺社長と大食い社長は20日で保釈にはなるだろう。
 逆に倉庫などの窃盗多数元やくざはどうやら独自のタイミングがあるらしいが、いつもおかまいなしに、「お茶~」「お菓子とって~」とこちらが他業務で忙しく遅くなると連呼してくる。少しせっかちである。
 酷いと言って良いかはさておき、オレオレ詐欺余罪ありの20代ツーブロックは少し反応が遅れると何なら文句を行ってくる。
「なんで俺のときだけ遅いんですか?」
「無視は辞めてください」
と釣っかかってくる。また後程エピソードとして紹介するが、ツーブロックは夜の消灯後、騒ぐ。単純にうるさいのだ。余罪も多く、取り調べも多く、不安があるのか、何かと夜は寝付けなくなると“しりとり”、“マジカルバナナ”等のゲームをしたがる。何なら夜一人で合唱もする。ただ、それなりに上手く声も良いので、頭ごなしに注意できない部分もある。それぞれ心の孤独と不安と寂しさに向き合っていることが垣間見える。一部の留置者は、睡眠剤を処方されて、不安から逃げるように消灯と同時に入眠し、いびきの大合唱である。


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