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新潮社クレスト・ブックスとしては珍しい作風の『レニーとマーゴで100歳』のおすすめポイント

こんばんは、古河なつみです。
私は海外の小説やエッセイなどを扱った「新潮社クレスト・ブックス」のシリーズが大好きです。このシリーズの本はきちんと時間を取って読みたいものが多いので制覇する事はできていないのですが……最近たまたま手に取った『レニーとマーゴで100歳』という小説がクレスト・ブックスとしては珍しい雰囲気だったのでご紹介します。

『レニーとマーゴで100歳』マリアンヌ・クローニン著/村松潔訳

余命僅かの17歳の少女・レニーと同じ病院に入院している老女のマーゴがアート教室で出会い、周囲の人々の理解を得ながら友情を深めていく物語です。歳の差の登場人物たちの友情物語は感動系の映画や小説でよくありますし、闘病物の主人公が少女である設定もよく聞くのですが、この小説の主人公であるレニーの性格が「健気系」ではなく「物申す気難しいティーンズ」な所がおかしみを出していて、ちょっと切なくて、いい感じに読者の感情を振り回してくれるので読んでいて楽しかったです。

物語の途中から老女であるマーゴも語り手として過去の思い出話をするのですが、その内容も波瀾万丈で一章終わるごとに「早くまたマーゴの続きの話を聞きたい!」とレニーと一緒に待ちわびてしまいました。

他にも、レニーが病院内の教会にいるアーサー神父に「なぜ神様がいるのに私は助からないの?」という疑問をストレートにぶつけて困らせ、レニーのその質問に対して率直にアーサー神父が「わからない」と答えたシーンも印象的でした。当初は祈ることについて懐疑的なレニーがそれでも教会へ通い続けて行く様子が「どうせ私は死ぬんだから救いなんてない!」と思いながらも「なにか救いはないの?」と縋るような焦燥を抱えているように感じられて、この小説を読んでいる間ずっと「レニーとマーゴはラストでどうなるのだろうか? なにか、奇跡は起きるのだろうか?」と考えていました。

そして、どうしてこの小説が新潮社クレスト・ブックスの変わり種なのかというと、この小説の著者であるマリアンヌ・クローニンが1990年生まれの若い女性作家であり、『レニーとマーゴで100歳』がデビュー作にあたるからです。

今まで私が読んできたクレスト・ブックスシリーズはある程度の評価が定まっている、それこそノーベル文学賞候補者になるような中堅以上の海外作家を紹介しているイメージがあったので、こういったティーンズ小説のような読み心地の文体をした若い作家のデビュー作が収録されたのは非常に新鮮に感じました。おそらくこの物語を原作とした映画が製作されている事も関係していると思いますが、収録作の選定において大変実験的な試みだったのではないでしょうか。

図書館では一般書(大人向けの本)として所蔵されているかとは思いますが、ぜひYA世代(中高生)の方にもお勧めしたい一冊です。

ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ


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