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2023年に出会えたベスト本!

こんばんは、古河なつみです。
今回は年末と言うことで2023年に私が出会えた本の中で特に印象深かった本を笑った部門、泣いた部門、ベスト猫本などと勝手に部門を作ってご紹介します(※出版年だと2023年以前の本もあるのですが、自分が出会ったタイミングを基準で選んでおります)。

【今年笑ったベスト1】
 日本部門『空芯手帳』八木詠美著/筑摩書房

→太宰治賞を受賞した『空芯手帳』は職場での自分の扱いにキレた主人公が「私妊娠したんです」と嘘をついて過ごす日々が描かれた小説です。物語前半は「まだ嘘がつける範囲かな……?」という現実感があったのに、後半でどんどん嘘の難易度がレベルアップしても騙されていく主人公の周囲の反応に「そ、そんな馬鹿な~!!」と無性におかしくて笑ってしまった小説でした。

 海外部門『ロボットには尻尾がない〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集』ヘンリー・カットナー著/山田順子訳/竹書房

酒乱天才科学者のトンデモドタバタSF小説『ロボットには尻尾がない〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集』についてはこちらの記事で詳しく語っています。終始とっ散らかった展開で「酔っぱらった天才モードの自分が何を発明したのか?(訳:痛飲しすぎで自分が何したのか全然覚えてない!やばい!)」と悪戦苦闘する酒乱主人公ギャラガー氏の様子がとにかく面白かったです!


【今年泣いたベスト1】
 『太宰よ! 45人の追悼文集 さよならの言葉にかえて』河出書房新社編

私は「泣ける本」というキャッチコピーを見たら手に取るのをやめるタイプの人間なので(天邪鬼!)この「泣いたベスト1」という言い方もどうしようかな……と思ったのですが、泣いた事実に変わりはないので紹介させてください。太宰治が自殺した後に様々な文学者が太宰へ贈った追悼文を集めた本です。追悼文なので自然と読んでいる相手に語り掛けてくるような文章になっている人が多く、太宰の友人たち、太宰の信奉者、文壇で激しく争った(あるいは太宰が一方的に反発をした)小説家や評論家たちの複雑な心持ちが見て取れます。特に太宰と親しかった坂口安吾の「不良少年とキリスト」の終盤の文章は「今、死んでしまいたい」と思っている若い人へ届けたい内容でした。

 人間は生きることが、全部である。死ねば、なくなる。名声だの、芸術は長し、バカバカしい。私は、ユーレイはキライだよ。死んでも、生きてるなんて、そんなユーレイはキライだよ。
 生きることだけが、大事である、ということ。たったこれだけのことが、わかっていない。本当は、分るとか、分らんという問題じゃない。生きるか、死ぬか、二つしか、ありやせぬ。おまけに、死ぬ方は、たゞなくなるだけで、何もないだけのことじゃないか。生きてみせ、やりぬいてみせ、戦いぬいてみなければならぬ。いつでも、死ねる。そんな、つまらんことをやるな。いつでも出来ることなんか、やるもんじゃないよ。
(中略)
 然し、生きていると、疲れるね。かく言う私も、時に、無に帰そうと思う時が、あるですよ。戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。
 勝とうなんて、思っちゃ、いけない。勝てる筈が、ないじゃないか。誰に、何者に、勝つつもりなんだ。
 時間というものを、無限と見ては、いけないのである。そんな大ゲサな、子供の夢みたいなことを、本気に考えてはいけない。時間というものは、自分が生れてから、死ぬまでの間です。

「不良少年とキリスト」坂口安吾より
テキストデータは青空文庫よりお借りしました
底本『坂口安吾全集06』筑摩書房 1998年 / 入力 tatsukiさん / 校正 小林繁雄さん
https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42840_24908.html

前半はくだをまくようなかったるそうな雰囲気だったのに、終盤のこの切実な文章に勝手に涙が出てしまいました。引用文を読んで気になった方はぜひこの『太宰よ! 45人の追悼文集 さよならの言葉にかえて』か、青空文庫の「不良少年とキリスト」で全文を読んでみてください。


【今年の児童書ベスト1】
タテルさんゆめのいえをたてる』ステファン・テマーソン著/フランチスカ・テマーソン絵/清水玲奈訳/エクスナレッジ

→タテルさんが自分の家を建てようと建築家に依頼するのですが提案してもらえるのは変な設計図ばかり!タテルさんの家はちゃんと完成するのでしょうか?そしてタテルさんはその家で生活できるようになるのでしょうか……?家どころか暮らすための電気や水道の事まで考えなきゃいけないなんて……! くすっと笑える展開とマザーグースのような韻やことば遊びもたくさんあって、声に出して朗読するのが楽しい一冊でした。

【今年の絵本ベスト1】
ことりのメル おっこちる』 コーリー・R・テイバー作/よしい かずみ訳/化学同人

こちらの記事でも取り上げましたが、今年出会った絵本の中で仕掛けと物語が上手く響き合って、イラストもキュートだったこの絵本をベスト1に選びます。ある時、ことりのメルが木から落っこちてしまうのですが、メルが落っこちている間に森の仲間達がなんとかメルを助けようとする姿や、その後に迎えるとある「仕掛け」ににっこりできる素敵な絵本です。

【今年の詩歌集ベスト1】
 『あなたのための短歌集』木下龍也著/ナナロク社

→歌人の木下龍也さんが個人の依頼人ために作って販売した短歌の中で許諾の取れたものを一冊にまとめた短歌集です。不思議なのは木下さんが「その人のために」作った短歌が、この短歌集を手に取った「あなたのために」作られているようにも読める事です。言葉の奥深さを知れる一冊なので、本屋さんで見かけたらちらっとでもいいので中を覗いてみてほしいです。きっとそのままレジに持って行くことになります。こちらの記事でも少し話題として出しましたが、もし書店さんで対応可能であれば谷川俊太郎さんとの101首目も収録された増刷記念バージョンをオススメします。

【今年勉強になったベスト1】
 日本部門『宝石のひみつ図鑑』諏訪久子著/宮脇律郎監修/世界文化社

→日本部門の『宝石のひみつ図鑑』は児童書としてカテゴリされているようなのですが、内容が本気すぎて大人の私が驚いてしまった一冊です。掲載されている写真の美しさはもちろんのこと、主要な宝石はほぼ網羅されている図鑑パート、さらには宝石がどうやってできるのか、宝石の色の見え方の仕組みや成分による色の変化、硬度について、なぜ宝石は高いのか等々、宝石について考えた時に思いつく疑問の数々に答えてくれる解説パートが充実していて、宝石のことを知るための入門書として完璧すぎた一冊です。


 海外部門『チョコレートパイは、なぜ1個目がいちばんおいしいのか?』キム・ナヨン著/吉原育子訳

→海外部門の『チョコレートパイは、なぜ1個目がいちばんおいしいのか?』は経済の仕組みについての入門書であり、こども達に経済とは何か、と伝えるならどうすればよいかを教えてくれる授業のためのハウツー本としても超優秀な一冊でした。著者は韓国の学校で経済の授業を教えている人気の先生で、この本では実際にその授業で行われている経済を体験するロールプレイ型のゲームをたくさん紹介しています。
とってもおいしいチョコレートパイを1個、2個……と食べ続けていくとなぜか「もういらないよ~」という瞬間が訪れます。それを経済活動に見立てて説明していったりと、こども達の興味を惹きやすい解説が書かれており、親子でも、授業の一環でも、あるいは図書館のイベント講座としても成り立ちそうな経済体験ゲームが提案されているのでお子さんに経済感覚を早めに知ってほしいと考えている親御さんに特におすすめです(小学校高学年から中学生向けだと思います)。間にあるコラムにはきっちり数式が関わってくる上級者向けの項目もあるので、必要に応じて理解を深めることもできます。解説に出てくる数式がおおよそどの学年で出てくるかについても各章の扉に註がついている親切設計でした。


【今年の猫本ベスト1】

 絵本部門『ねこの看護師 ラディ』渕上サトリーノ文/上杉忠弘絵/講談社

→『ねこの看護師 ラディ』はやさしい仔猫のお話です。ポーランドの動物保護センターに重病の仔猫が運び込まれ、懸命な治療によって奇跡的に回復します。元気になった仔猫・ラディは動物保護センターに運び込まれてくる大怪我をした動物達にぴったりと寄り添って、まるで看護師のように励ますようになり……という実話を元にした絵本です。
私は途中に出てくる、もう死ぬのを看取るしかない状況の動物にも寄り添っていたラディの姿に深く心を打たれました。


 読み物部門『名作には猫がいる』ジュディス・ロビンソン、スコット・パック著/駒木令訳

→『名作には猫がいる』は様々な文学作品に出てくる猫について解説している一冊です。有名な作品や古典、詩に出てくる猫は想像していたのですが、作家と仲良しだった猫の多さよ……そして「しゃべる猫」「SFの猫」でそれぞれ一章構成できるとは……作家の創造性を膨らませる存在、それが猫ちゃんなのかもしれませんね。

今年のベスト本だけにスーパーロングなnoteになってしまいましたね。
最後までお読みくださり誠にありがとうございます。
それでは、またの夜に。

古河なつみ


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