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涙を乗り越えたバレンタインデー

バレンタインデーは我が家で最も期待されていないイベントのひとつかもしれない。

「今年のバレンタインは欲しいものある?」と夫に聞くと
「何かくれるの?」と意外そうな声が返ってきた。

そういえば去年はチョコをあげただろうか?
なにもしないことはなかっただろうけれど、記憶には残っていない(だいたい私は物覚えが悪いのだ)。

一昨年は、有名ブランドのチョコを、チョコ好きの姉に教えてもらい、ネットで取り寄せた。

全部でこの値段だから、一粒は、えーっとこの値段だね、などと言いながら2人で食べたチョコの美味しさがわからず、来年から高級チョコはやめようという話になった。

そもそも夫は甘いものがそれほど好きではない。
家の中にどんなお菓子がストックされているかを常に把握している私と違い、夫が把握しているのは冷凍庫の中にしまわれている肉である。

いっそのことバレンタインデーは肉パーティーにでもしようかと思ったが、折角だから甘いものを楽しみたい。

もはや夫の為というよりも自分の為である。
何にしようか…と考えてはたと思いついた。

先日、夫が娘と2人でカフェに行った。
そのとき注文したのがプリンだったそうだ。固めプリンと銘打たれたそのプリンは、名前の通りしっかりと固くて、帰宅した夫が「今度は一緒に食べに行こうよ!」と言うほど美味しかったらしい。
その話を聞いて以来、固めのプリンが食べたくて仕方がない。

そうだ、バレンタインデーにはプリンを作ることにしよう。

実はプリン作りには苦い思い出がある。
今まで3回ほど作ったものの、その度に「す」が入り、卵焼きのような食感になってしまった。
ああ、あのなめらかな食感はどうすれば作れるのか。

何はともあれ、さっそく家族にプリンを作ることを宣言した。
あくまで名目はバレンタインデーのプレゼントである。
娘にも「バレンタインデーはね、大好きな人にお菓子をあげる日なんだよ」と適当な説明をした。

そしていよいよ娘が昼寝をし始め、家の中に平和が訪れた午後3時。
プリン作りに着手。
今まで湯煎で作って失敗していたので、今回は初めてオーブンを使って作ることにした。

まずはキャラメル作り。
小鍋で砂糖を煮詰めていると、甘くほろ苦い香りが漂ってくる。
出来上がったキャラメルは型に注ぎ、そのまま冷凍庫に入れておく。

卵と牛乳、そして生クリームを混ぜたあと、ざるで濾してなめらかにする。

あとは、キャラメルが入った型の中に、プリン液を注ぎ入れるだけ。

それからはオーブンの仕事。焼き上がりをのんびりと本でも読みながら待っていればいい。

オーブンから焼き上がりを知らせる音がなる。
緊張して取り出すと、型の中でわずかに揺れる卵色のプリン。

見たところ「す」も入っていない。
これは、成功と言っていいのかもしれない!

料理がうまくいくと嬉しい。
小躍りしそうになるくらい嬉しい。

反対にうまくいかないときは、傍目にわかるほどがっかりしてしまう。

ある日夫が珍しくこぼしていたことがあった。
仕事で使うための音楽ソフトを購入したのだが、実際使用してみると期待していた効果が得られなかったらしい。

少しシュンとしている夫を見て、「わかるわかる、うまくいかないと悲しいよね!私の料理と一緒だね!」とまくし立てると、夫は「トライアンドエラーだよ。うまくいかなかったという事実がわかるだけだから、別に悲しくはない」と言い捨てられた。

私は過去2回、ケーキ作りで失敗して涙ぐんだ経験がある。
ケーキや料理に限った話ではない。何事も計画して頑張ったことがうまくいかないと、すぐに落ち込んでしまう。

その感情の急降下に巻き込まれる家族はたまったもんじゃない。
最近は何か大モノを作る際には「泣いちゃだめだよ」と夫に釘を刺されている。

それはさておき、プリンは無事に完成した。

プリンを前に、「大好きな父マンにあげる」と娘に言われ、有頂天になっていた父マンこと夫である。

イベントに乗っかって作った固めのプリン、美味しかったなぁ。


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