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風変わりな主婦

スーパーで品出しをしている女性。
 
「佐藤さん。
 仕事はどうですか?」
「店長。
 まだ手際てぎわが悪くて、
 みなさんのようにはいかないです…」
 
「みんな最初はそうです。
 でもそうやって人と比較ひかくして、
 どこが違うのかを学ぼうとする
 姿勢しせいがあれば、
 今よりも必ず成長しますから
「私もみなさんみたいに、なれますか?」
 
向上心があるなら必ず。
 
 少しずつ前に進みましょう。
 あまりあせらないことです。
 
 スピードも確かに重要です。
 
 ですが、目まぐるしく変わる景色に、
 大事なものを見落とす危険もあります。
 
 そこは注意して下さいね」
「はい。
 気をつけながら頑張ります」
 
「今ので思い出しました。
 ひとつ教えてなかったことがありました」
 「え?
 研修終わりましたけど」
 
「いえいえ。
 それとは別です。

 まあ余談よだんのようなものです。

 このスーパーには、
 ちょっと風変わりな主婦の方が、
 来られてまして」
「風変わり?」
 
古くからの常連さんですが…
 その方は…
 いつも決まった時間にお見えになります。
 もうすぐですね…。
 その仕事は後にして、
 ちょっと一緒に行きましょう」
「はい」
 
生鮮食品売り場。
 
「あそこの大根を手に取ってる、
 ベージュのカーディガンの方です」
「お若いですね」
 
「でもあの方、
 このスーパーができた頃からですから、
 もう30年は通われてます…
 正確には分かりませんが、
 50代か60代だと思いますよ」
「ほんとですか!?
 どうみても30代ですけど…
 ああいうのを美魔女っていうんですね…」
 
「もう少し近くへ行きましょうか」
「あっ、はい」
 
買い物している女性。
 
大根は先週より30円下がった…。
 
 小松菜はもうこの値段より下げるのは、
 難しいのかしら…。
 
 1年前は100円切ってたのに…。
 
 このしめじ…傘が小さいわ。
 この値段設定は適正かしら?」
 
「店長…あの人…、
 とてもするどいこと言ってて怖いんですけど。
 めちゃくちゃ値段にきびしいし、
 クレーマーですか?」
「まあ、もう少し見てて下さい」
 
サンマはニュースで色々あったけど、
 やはり去年と同じね。
 
 タライワシがここはお安いし…
 サバ不漁と言われてるのに、
 ほぼお値段え置きね。
 
 あら、店長さん」
「あっ、いつもありがとうございます」
 
「そちらの方は?」
「今年入ったばかりの佐藤です」
 
「佐藤です。
 よろしくお願いします(?)」
「こんばんわ、佐藤さん。
 こちらこそよろしくお願いします。
 ところで店長さん?」
 
「はい?」
旬のしめじのお値段…。
 あれは何か理由がおありなのね?」

(うわっ!いきなりきた!) 

「はい。その通りです。
 実は業者さんには物価高騰ぶっかこうとうのおり、
 価格交渉で頑張って頂いたので、
 その時の帳尻ちょうじり合わせをさせてもらってます」
「そういうことなのね。
 以前は立派なしめじが60円で、
 大丈夫かしらと心配してました。
 それなら納得です」

(なに?社長婦人?)
 
「色々ご心配掛けまして…」
「でも、他の旬のお野菜や果物は、
 全体的にとてもお手頃価格で、
 素晴らしいと思います。
 
 特に◯◯農家さんの人参。
 
 ここに置くようになって2年。
 さらに美味しくなりましたね。
 
 店長さん。
 良い農家さんと契約けいやくしましたね
「そこはあなたに、
 教えて頂いたんですよ。
 お忘れですか?」
 
「あら、そうだったかしら。
 でも、こちらとしては、
 この時期にこの人参を頂けるのは、
 とても幸せなことですわ」
「そう言って頂けると、
 光栄です」
 
「あら、ちょっとお話がすぎましたね。
 お仕事中、すいません。
 では店長さん。
 佐藤さん。
 ごきげんよう」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 
「……
 あの方は?」
ただの常連さんだよ

「でも何か言ってることが、
 経営者みたいでしたけど…」
「ああ。
 あの方は伝説の主婦と呼ばれてる方だ」

「伝説の主婦!?」
「あの方に気に入ってもらえた店は、
 繁盛はんじょうすると言われてる。

 さっきの君へのアドバイスも、
 私がまだ若かりし頃、
 フロアをバタバタ走り回ってた時、
 あの人に言われたことなんだ
 
「まさに…
 スーパーを育てるスーパーな主婦ですね」
全国100店舗は、
 あの方のおかげなんです」
 

 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

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