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郷土的シチュエーション ~福島~

おだやかなBGMが流れる本屋。
 
(本屋ってなんか…
 この感じが良いんだよなぁ…)
 
男性はいつものコーナーで立ち止まる。
 
自分の好きな作者の文庫本を、
吟味ぎんみし始める男性。
 
自分以外の客は見当たらない。
 
(これも読みたいけど…
 これも気になってたんだよなあ…
 どれにしよう…)
 
すると通路を横切る人影。
 
ひとりの女性壁際の棚の前で立ち止まる。
 
棚を見上げ、
少し首をかしげている。
 
(あそこは確か…資格本のコーナー。
 あの人、年下だよなぁ…
 自分は資格なんて、
 取ろうと思ったこともないのに…)
 
すると女性が、
高い位置の本を取りたいのか、
必死に手を伸ばしている。
 
(その身長じゃあ…無理でしょ?)
 
辺りを見回すが、
踏み台は近くにない。
 
(どうする?)
 
女性はついに片足立ちになり、
とても辛そうな形相ぎょうそうに。
 
見るに見兼ねて駆け寄る男性。
 
「あの~、取りましょうか?」
「…?!」
 
「ど、どれですか?」
「……あの…」
 
「…ん?」
「…いえ、違うんです。
 私、このBGMが何て曲か、
 スマホで調べようと思って」
 
女性の手にはスマホ。
 
曲名検索アプリで、
天井かどにあるスピーカーに手を伸ばし、
音を拾おうとしていたのだった。
 
刹那せつな沈黙ちんもく
耳と顔の紅潮こうちょう
 
そして…
謝罪しゃざい恐縮きょうしゅく

 
二人は赤べこ。
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

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