男性二人。
 
「何て嘆なげかわしいことだ」
「どうしました？」
 
「愛する市民が、
　愚民ぐみん呼ばわりされている」
「こればかりは人ですので…
　致いたし方かたないことかと…」
 
「そんなことあるか！
　何事にだって、
　解決方法というのはあるものだ！」
「そう言われましても…」
 
「そうだ！
　君は捨身飼虎しゃしんしこを知っているかい？」
「すいません、不勉強で」
 
「恐おそらく壁画で、
　見たことあると思うんだが…。
 
　谷底で飢うえた虎の親子を見つけ、
　それを憐あわれんだ釈迦しゃかが、
　自ら身を投げ、虎の糧かてとなる話。
 
　究極の慈悲・慈愛の精神を問う話だな」
「それなら存じ上げてます。
　確か、学校の教科書で見たことが」
 
「私もあれを見た時は衝撃しょうげきだった。
　私にこれが●●●できるだろうか…
　こんな高潔な行動を取れるだろうかと」
「常人には難しいでしょうね。
　誰でも自分が一番大事ですから」
 
「そこなんだよ！
　私が愛する市民は、
　本来、それができる人間なんだよ！

　浮かれるのは、この日だけなんだ！

　あんなパリピーなどと、
　呼ばせたくないんだよ！
　そして私も！
　慈愛の精神で…今年こそ！」
「一体、何をなさるおつもりですか？！」
 
【リポーター】
現場の鈴木です。
ご覧下さい！
 
道頓堀川どうとんぼりがわに水が…
水が全くありません！
 
どうやら市の要請ようせいにより、
東横堀川の上流が堰せき止められたようです。
 
そして水のない川底には…
何と、無数の熊が！
 
すいません。
たったいま、市長からコメントが。
 
【市長】
愛する市民を批判されるのは、
これ以上、私は黙認もくにんできない。
 
そこで私は捨身飼虎になぞらえ、
この川に飛び込む市民は、
あの釈迦のように高潔な人間であるのだと、
人々に広く知らしめたく、
このような対策を施ほどこしました。
 
方々の動物園に問い合わせましたが、
残念ながら虎は用意できませんでした。
 
そこで秋田県にご協力頂き、
熊で代用させてもらいました。
 
秋田県のご厚意に感謝するとともに、
虎でないことを深くお詫わびしたい。
 
阪神タイガース優勝おめでとう。
 
以上です。
 
「し、市長…
　あなたは愛するがゆえに、
　何て恐ろしいことを…」