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心の傷(トラウマ)、どうやって癒すか? 【生活の3原則と「やってはいけないこと」。PTSDからPTGへ】/野口嘉則先生動画まとめ

心の傷やトラウマの癒し方

過去に受けた心の傷が現在の感情や行動パターン、人間関係に影響を及ぼすことは多くの人が認識している。しかし、傷の癒し方、癒しの過程で避けるべきこと、トラウマを持つ人に対して周囲が注意すべき点については、知らない人が多い。
トラウマとは専門的には心の傷を指し、後々のストレス反応、特にPTSDを引き起こす。誰もがトラウマを持っているが、適切な手当てにより癒せる可能性がある。自然治癒力が働くことにより心の傷も癒える。トラウマの研究は1960年代から盛んになり、ベトナム戦争を経験した兵士や性被害を受けた人々の間で共通する症状が見られた。このような恐怖体験が人生にどのような影響を及ぼすかについての研究が進められた。

トラウマになり得る出来事には災害、事故、性被害、虐待、戦争などが含まれる。日常的な出来事もトラウマになることがあり、例えば家庭内の暴言や虐待が繰り返されると、子供にとっては特に深刻なトラウマになる。トラウマによる症状としてはPTSDが代表的であり、帰りや依存症もトラウマによって引き起こされることがある。トラウマの影響が強い人は、コントロールしづらい感情を紛らわすために、お酒や薬物、ゲーム、自傷行為、不特定多数との性行為などに依存することがある。トラウマに関する研究は進んでおり、効果的な治療法が開発されているため、必ずしも心配することはない。

トラウマの治療法にはさまざまなアプローチがある。重要なのは、トラウマを癒すプロセスで避けるべきことを知ることである。まず、トラウマに関する情報を探求し過ぎないことが大切だ。過剰な情報収集は状況を悪化させることがある。また、自己診断を避け、専門家の意見を求めるべきだ。トラウマの癒しには時間がかかることを理解し、焦らずに治療プロセスを進めることが重要である。自分自身や他人のトラウマを無視するのではなく、適切なサポートを求めることが必要だ。

治療法の選択においては、一人ひとりの状況やトラウマの性質に合った方法を選ぶことが重要である。一般的なアプローチとしては、認知行動療法やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)などが知られているが、これらはすべての人に適しているわけではない。また、トラウマに対する治療は、個々の症状や背景に合わせてカスタマイズする必要があり、場合によっては薬物療法が併用されることもある。

トラウマを持つ人々を支援する際には、その人たちの感情や経験を尊重し、安全で支援的な環境を提供することが重要である。無理に話を聞かせようとしたり、その人のペースを尊重しないことは避けるべきだ。トラウマを経験した人々は、自分の経験を共有する準備ができていないことも多く、強制的な共有はトラウマを再体験させる可能性がある。

トラウマの癒しは一人ひとりのペースや方法が異なる。自分自身のニーズを理解し、適切なサポートを求めることが重要である。また、トラウマを抱える人々を支える家族や友人も、情報を学び、サポートの方法を理解することが役立つ。トラウマは多くの人の生活に影響を与えるが、適切な理解とサポートによって癒しと成長が可能である。

トラウマ行為症としてのPTSDには3大症状がある。1つ目はトラウマ体験時の記憶が侵入症状として急に思い出されること、これをフラッシュバックと言う。体が緊張して恐怖を感じる状態だ。侵入症状には悪夢も含まれる。2つ目は過剰に覚醒する状態を指し、リラックスできない、イライラや焦りがある状態だ。これにより睡眠にも影響が出る。3つ目はトラウマを思い出す場所や人付き合いを避けること。これらは自己防衛の一環だが、社会生活に支障をきたすこともある。

複雑性PTSDでは、これに加えて家族内の暴力や長期的ないじめなど、繰り返しのトラウマが原因で、感情の制御困難、ネガティブな認知、対人関係上の困難が見られる。感情の制御困難では、ネガティブな感情が抑えられず、自分の感情を理解できない状態になりやすい。ネガティブな認知では、自己や他者を否定的に捉えがちで、これは認知の歪みによるものだ。対人関係では、適切な距離感を保つことが難しく、支配と屈従の関係を再現する傾向がある。これらは心の中の雛形として存在し、関係性に影響を与えるが、変えることも可能だ。

性被害を受けた人は再び同様の被害に遭遇しやすいとも言われている。性被害に関しては、PTSD発症のリスクが高いこと、再被害の可能性、さらに身近な人からの二次被害の可能性があることが指摘されている。特に二次被害では、被害者を責めるような心ない言葉が投げかけられることがある。これはセカンドレイプと呼ばれ、被害者にとってさらなる精神的苦痛を引き起こす。被害者が抵抗できなかったり、声を上げられなかったりするのは、人間の反応の一つであり、その人が悪いわけではない。
性被害を受けた人がリスクの高い性行動を取りがちであることや、性被害に遭った子供が自己イメージの低下や自己否定感に苦しむことも知られている。危険を感じた時の人間の反応は、闘争、逃走、凍りつくの3つがあり、性被害の際に凍りついてしまう反応は本人のコントロールを超えたものである。性加害者は被害者を選んでおり、反応を見て次の行動を決めることがある。心理カウンセリングを通じて、これらのトラウマや心の傷を癒す方法があるため、希望を持つことが大切である。

トラウマを受けた人の生きづらさの中核には無力感と孤立がある。無力感は、自分で自分の人生を構築することへの自信喪失を意味し、本来持っている力を見失っている状態だ。人は自分の人生を構築していく力を持っているが、トラウマを受けた人はその力を見失って無力感に陥ることが多い。
孤立は、他人や世界からの孤立で、人が信じられない、社会が信じられないと感じることがある。特に虐待や性被害、犯罪被害に遭った人は人間不信になりやすく、自分を助けてくれなかった人への不信感も持ちやすい。トラウマから回復していく上で目指すべきは、少しずつ力を取り戻すことと、人に助けを求められるようになることだ。力を取り戻すとは、自分の人生を自分で構築する力を取り戻すことであり、これは本来誰の中にも備わっている。人に助けを求められるようになることは、信頼できる人がいることを確かめ、信念を育てていくことだ。信頼できない人もいるが、世界はそういう人ばかりではない。心理カウンセラーなどからサポートを受けるのも良い。これは孤立から繋がりへと変えていくことで、トラウマからの回復に重要だ。

トラウマを受けた人の生きづらさの2つの要因、無力感と孤立は、有能感への変化と繋がりの確立によって克服できる。次に、トラウマを受けた人がPTSDの発症率が高い理由について考える。特に性被害を受けた人は、その体験を誰にも話せずに1人で抱え込んで生きていることが多い。これは孤立無縁状態であり、サポートや理解がない状態だ。話せない理由には様々なものがあり、自分にとって恥べきことと感じるため、または家族や社会の反応を恐れるためなどがある。
しかし、性被害を受けたことは決して被害者の恥ではなく、被害者は何も悪くない。男性の性被害者のPTSD発症率が特に高い理由として、男性がより理解を得にくい状況にあることが挙げられる。ジャニーズ事務所の性的虐待問題では、男性被害者に対する心ないコメントが問題となった。ジャニー北川市の問題では、長年多くの人が被害を抱え込んでいたが、BBCの報道をきっかけに多くの証言が出てきた。これは、分かってもらえないことが多くの人を孤立させていた証拠である。トラウマからの回復には、孤立から繋がりへの変化が重要であり、人に助けを求められるようになることが大切だ。


トラウマの傷を癒す方法について、生活の三原則が大切だ。一つ目は、安全で安心な環境を確保することで、トラウマのきっかけとなるものや人から距離を置くことが含まれる。特に、虐待や性被害を受けた経験がある人は、高圧的や侵入的な人との距離を保つことが求められる。二つ目は、生活リズムを整えることで、これは心の安定に非常に効果的である。日常生活を安定させ、変化や刺激の少ない環境を作ることが心を落ち着かせる。三つ目は、効率を求めない自由な時間を大切にすることで、散歩やお風呂、好きな音楽を聞くなどの時間が、心のバランスを整えるのに役立つ。また、睡眠の確保も重要である。

サポートを受けることも大切で、医療機関や心理カウンセラー、支援団体などからの支援を受けることが推奨される。PTSDの症状がある場合は、特に専門的な治療を受けることが望ましい。病院やクリニックを選ぶ際には、通いやすさや、治療方針をしっかり説明してくれるかどうかがポイントである。

心理カウンセラーのサポートを受ける場合は、その人の人柄や経験を知ることができるSNSやブログなどを参考にし、相性の良さそうな人を見つけることが良い。カウンセリングの際は、トラウマについて無理に話さないことが大切で、安定した状態で話せる場合に限り、信頼できる人に少しずつ話していくことが推奨される。詳細な出来事よりも、それによって感じた感情やその後の生活の辛さに焦点を当てることが良い方法だ。

トラウマ体験について話さなくても心の傷は癒せる。例えば、現在抱えている悩みをテーマにカウンセリングを受けたり、現在の生きづらさや人間関係の問題をカウンセラーと共に取り組むことで、心は癒されていく。カウンセリングの過程で、カウンセラーからの共感や理解を得ることで、孤立から繋がりへと変わり、無力感から有能感へと変化していく。トラウマ体験に触れずとも、現在の悩みを扱うことで、心の中核にある無力感や孤立が解消され、根本的な癒しが促される。

セッションを重ねることで、問題を一つずつ解決し、自分の人生を自分で構築する力を取り戻していく。トラウマ体験に焦点を当てず、現在の悩みを中心にカウンセリングを進めることで、心の癒しを進めることができる。

生活の3元則やサポートを受けることの重要性、無理をしてまで話すことの避けるべき点などについて話した。逆に、心の健康に良い行動として、良い記憶を思い出すこと、小さな楽しみを見つけること、体を整える習慣を身につけることが挙げられる。特に、体を整えることはトラウマの記憶と関連しており、心と体のバランスを整えることで、トラウマからの癒しを促進する。

PTSDを緩和する効果があると言われる心理療法として、EMDRやTFT、ブレインスポッティング、認知処理療法、持続エクスポージャー、対人関係療法などがあり、これらの方法を用いることで、トラウマの癒しを促進することができる。ただし、持続エクスポージャーは自殺リスクのある人などには適さないため、慎重に選択する必要がある。対人関係療法ではトラウマ体験そのものは扱わず、現在の対人関係上の問題を解決することで、繋がりを取り戻すことを目指す。

ここまでトラウマを抱える人への話と、トラウマを抱える人の周囲の人が気をつけるべき点について語ってきた。トラウマに対する心理的デブリーフィングについて触れ、それが災害や事故の被災者、被害者に対する心理的援助法としてジェフリー・ミッチェルにより開発されたこと、1990年代によく用いられた方法であることを紹介。この方法は、トラウマ体験した人にその体験について語ってもらい、体験にまつわる感情を表出してもらうものであるが、PTSDの予防に有効ではないばかりか、回復を遅らせる場合もあるという報告がある。そのため、現在では国際学会やアメリカの精神学会でも、被災者に対して心理的デブリーフィングを行うべきではないというコンセンサスが成立している。トラウマ体験した人にその詳細を尋ねることなく、本人が話してきたら静かに聞き、共感の言葉をかけて寄り添うこと、アドバイスや解決策を押し付けないことが重要である。

また、トラウマを抱える人に対して言ってはいけない言葉があり、その中には「忘れなさい」「気にしないようにしなさい」「頑張って」「早く良くなって」といった言葉が含まれる。これらは、トラウマを抱える人にとっては焦らせるような厳しい言葉になってしまうことが多い。
トラウマを抱える人々やその周囲に対する理解と支援の重要性について解説が続けられています。特に、心理的デブリーフィングがかつて用いられたものの、PTSDの予防や回復に必ずしも有効ではないことが語られています。その代わり、トラウマ体験の詳細を尋ねない、本人が話す場合は静かに聞き共感する、解決策を押し付けないなどの対応が勧められています。また、トラウマを抱える人にとって負担となる言葉が挙げられ、それらを避けるべきであることが強調されています。

トラウマの回復プロセスが螺旋上に進むこと、被害者が自己のトラウマに対して責任を感じるべきではないこと、そしてトラウマを乗り越える過程での成長、すなわちポストトラウマグロース(PTG)についての説明があります。この部分では、トラウマ経験を通じて人がどのように成長し、強くなり、より深い人間関係を築くことができるかについて言及されています。

これらのポイントは、トラウマを持つ人々への適切な対応方法や、トラウマに対する理解を深める上で非常に重要です。トラウマに対する洞察と共感を深め、支援を提供する際のガイドラインとして役立つ内容が含まれていることが分かります。


PTG(Post-Traumatic Growth/心的外傷後成長)

トラウマティックな出来事、すなわち心的外傷をもたらすような非常につらく苦しい出来事をきっかけとした人間の心の成長を指します。この概念は約20年前に提唱され、危機的な出来事や困難な経験との精神的な葛藤や闘いの結果、ポジティブな心理的変化が生じる体験を意味します。

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