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時の三叉路(顔×自動販売機)

 時の三叉路に遂にたどり着いた。ここは天国への道程。
 そこには意外なものが置かれていた。
 生前よく目にしていた『自動販売機』だ。
 しかしICカードも小銭も棺に入れてもらえなかったためあいにく持ち合わせていない。
 だが俺が愛飲していた日本酒もそこには入っており、見つけてしまったからにはそれをどうしても手に入れたい衝動に駆られていた。

『これを買うためには……と』暫の間自販機とにらめっこをする。小銭を入れる辺りにはIC読み取り機があり、そこに顔を近づけると自販機のボタンが全て点灯した。これは好都合だ。誰でも頼んでいいものなんだろう。

 早速欲しかった酒のボタンを押すと日本酒は升とさきいかと共に取り出し口に出てきた。天国へ急いでと門番には告げられていたが、ほんの少しの間愉しむのは悪くはないだろう。

 俺はその場へ座り込むと早速酒宴を始めた。
 酒を口に含みさきいかを咀嚼する。なんて至福なんだ。
 ふと、目の前の三叉路にある矢印マークへ目を向ける。
 ところでこの先右と左、一体どちらに進めばいいんだ?そんなことを考えていたがそのうち眠くなり、うつらうつらし始めた。
       ※
『人間一丁捕獲するなんて鬼の首を取るより容易いな』

 背中に自販機を模した『人間捕獲機』を背負った地獄からの遣いである鬼は、くるっと姿勢を反転させると眠りこけている男を側に置いていた網で掬い、矢印を隠すように貼っていたテープを剥がすと地獄へ向かって歩きだした──。

               (了)


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