見出し画像

ネット備忘録 【とある元女医さんのブログが消えた】

そのブログ主はご自分のHNを「毒娘」としていて、「どう考えても人生終わってる中年引きこもり」と、自己紹介していました。

内容は、毒親への呪詛がひたすら延々と綴られている吐き出しブログで、多分、毒親育ちでなければ気持ちも分からず、すぐに閉じてしまうものでしょう。

私の場合は、両親が不仲で、母から父の悪口を毎日聞かされ、10代後半で対人恐怖や境界性人格障害のようになり、20代で双極性障害を発症(10代で既に発症していたのが表面化?)したので、毒親のタイプや人生は違えど、どことなく共感しながら読んでいました。

というか、そもそも毒娘さんの文章は上手く、とにかく人に読ませるというか、非常にネガティブなのにどこかユーモアがあり、引き込まれるのでした。

それもそのはずで、彼女は読書家でピアノも嗜み、教員免許と医師免許まで取得し、学生時代は一人で海外旅行もしたという行動力もある人でした。

そんなに能力がある人は大体いいとこのお嬢様かと思いますが、彼女の場合は育ちが恵まれているとは言えず、男尊女卑の土地柄な地方在住で、弟ばかり贔屓され、親族がほぼ全員毒。父親は中卒。賢い彼女の価値を心から理解してくれる親族はおらず、むしろ生意気だと貶されて育ってきたのでした。
父親には、小学校を卒業してすぐ、ランドセルを燃やされたというエピソードもあり。しかもそのことに物申すと、有無を言わさず怒鳴られたといいます。普通の親なら、子供が6年背負った思い入れのあるランドセルをいきなり燃やしたりしませんよね…。
また、母親からは「アンタは何にもできない奴だ」とこきおろされ続けてきたと言います。それで毒娘さんは客観的に見たら能力があるのに、自分には価値がない、と、何もかもどうでも良い、と引きこもるという、とても勿体ない状況にありました。

ネットのどこかのコラムで読んだのですが、過保護な母親(毒親)がいて引きこもる男性というのが日本では数多いパターンだけれど、女性の引きこもりの数はそこまで多くはない、と。しかし女性の場合、母親の重力が強過ぎるとき、男性よりもっと徹底した引きこもりになってしまう場合があるといいます。

人生がうまくいかない時、親を恨んでしまう人に対し、「成人したら親は関係ない、本人の人生は本人の責任だ」と思う方もいるでしょう。
でも、毒親に育てられると、他人に対しても信頼感や安心感を持てず、挫折に弱くなりがちなのです。ただその辺は、本人の回復の役には立たないと思われているのか、精神科医等はあまり触れたがらない気がします。実際過去は変えられませんしね…。
※ちなみに、神経症や後ろ向きな精神状態を劇的に改善する最強の精神療法「森田療法」があるのですが、これについては後述します。


毒娘さんは母親が痴呆気味になり、このまま介護かと益々人生に絶望して、ブログの更新も滞っていました。それでも私は気になって、ブックマークに入れて時折更新されるのを読みに行っていました。彼女が生きていて、また記事を更新してくれるのを願いつつ。

そんな中、突然、ブログが終了したのです。

それも多分、誰も想像もしなかった形で。




ある日のこと、毒娘さん自身の行動が、彼女の考え方を変えました。

たまたま調べ物をしていて見つけたサイトで、20年前に海外旅行をしていた時に知り合った男性を発見したというのです。
彼と出会った日は一晩中語り込んだほど、話の合う相手だったとのこと。

それで迷った末、思い切って、彼が公開していたアドレスから連絡を取ったそうです。「もし私のことを忘れていたら、このメールは無視してください」と添えて。

ところが、彼からの返事の第一声は、「○○さん、覚えてますよ!」だったそうです。
その返信を見た後、彼女は一日中泣いたそうです。

そして、自分の過去は嫌なことばかりではなかった、と。意義のある貴重な時間もあった、と振り返りました。

その後も、彼とメールのやりとりをする中で、自分が受け入れられているという感覚を初めて持ち、これまで後ろ向きだった心がどんどん癒されていったようです。毒親のことももうどうでもいい、と。

そういう訳で、もう愚痴を吐き出す必要もなくなり、ブログが役割を終えて閉鎖されたという訳です。

こんなことはなかなかないと思います。
私はこの驚くべき急展開を、書き残さずにはいられませんでした。
なんだか、フランス映画『カノン』のクライマックスを観た時の衝撃を思い出しました。

彼女の最後の記事の末尾は「それでは皆様、今度こそ、ごきげんよう」と結ばれていました。その数日後にブログ自体が消えていました。

もうこの方の文章を読めないと思うと、少し寂しくはありますが、彼女に救いがあり、このような終わり方を迎えたことで、思わず涙してしまいました。

また、最後の記事についたコメントの一つ一つに丁寧にご返事をしていましたが、その中で、「過去の後悔も、未来への不安も、自分の心が作り出している妄想に過ぎない。「今、ここ」に集中することが大事」という旨が書かれていました。

それは、発展途上国での事業に携わっている彼が、現地の人を見て教わり、メールの中で書いていたことのようです。


「今、ここ」に集中する。それこそ、森田療法における「全治」とも同じ状態です。心の中に勝手に湧き上がる不安はどうこうしようとせずそのままにして、目の前の仕事をより良くするための工夫に集中する。神経症の患者さんはこうして社会復帰していきます。
また、患者さんはそういう段階に行く前に、「絶対臥褥」という時期を過ごします。基本的に食事と風呂以外は何もせず、1週間寝たきりになります。言葉で書くと簡単そうですが、この時期が最も辛く、自分の心のみに徹底的に向き合うことになります。
最初は、過去の辛かったことや後悔が思い浮かび、のたうち回るほど苦しみますが、そのようなことをひたすら考え尽くすと、今度は誰かにしてもらったことや、愛されたことも思い出します。
すると、感謝の感情が湧き、自分ができることで社会へ恩返ししたくなります。少なくとも私はこういう心理状態の経過を辿り、人生が大きく変わりました。
そして、毒娘さんが浄化された経緯も、なんとなくそれに似ているような気がしました。

※ただし森田療法は効果が強過ぎるせいか、ガチの精神病者にとっては禁忌とされています。私は激しい躁状態になり、色んな人に迷惑をかけてしまいました。それでも、非常に申し訳ないですが…受けて良かったと思います。


今回は、ネットを通して、博識で文才もあり繊細な、非常に貴重な女性が、この日本のどこかに存在するということを知れました。
これからどんな道を歩むのか、最早私には知れませんが、彼女が生きることに前向きになれて本当に良かった、と思います。あのブログに出会えたことに感謝です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?