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サッカーが憎い

2022年3月6日、キックオフ前のパナスタは午前中の雨が上がり、青空が広がっていた。まるで、新生ガンバの力強い一歩目を後押しするように。

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川崎を迎えたJリーグ第3節、自陣に押し込まれブロックを組むここ数年のガンバイズムはそこには無かった。
試合開始から倉田・未月の2ボランチを中心に「個人」でなく「集団」でボールに襲いかかる。
プレスを回避されても昌子・三浦が広いカバーエリアで粘り強く対応。

攻撃では簡単にボールを手離さず、パトリックが深さを取り、宇佐美・山本・小野瀬が相手の守備の隙をつき、チャンスを伺う。
33分山本のスーパーボレーで先制。
シュート自体は山本の個人技が光るが、相手を引き付け広げて押し下げた結果であり、必然のゴールだった。
6連敗中の川崎相手に理想的な前半、試合の主導権を相手に渡さずプレーするガンバは何年振りに見ただろうか。

ハーフタイムある一つのストーリーが頭をよぎった。
それは他でもない宇佐美貴史である。

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今オフ宇佐美は自身のキャリアにおいて大きな分岐点に立っていた。
王者フロンターレからの破格オファー。
W杯イヤーであり今年で30歳を迎える宇佐美、年々下がる得点数、もし彼のプロキャリアだけを考えれば、得点を奪うことに集中出来る川崎の環境は最適だったかも知れない。

ただ、宇佐美は残留を選んだ。いや、選んでくれた。そこには理屈ではないガンバに対する想い、深い愛情があった。
この瞬間から彼は真の意味でガンバの象徴になった。
何があってもガンバサポは宇佐美貴史を応援し、サポートし続けるだろう。

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苦悩の2021年、背番号7との別れを経て迎えた2022シーズン、新エンブレムを胸に、新監督に率いられたガンバが前年王者相手にホーム初勝利を掴む。
その中心にいるのは、川崎からのオファーを断りガンバの象徴となった男。

後半開始の笛が鳴り響く。ゴール裏の義務である手拍子も忘れ、ドラマの様な筋書きが頭を巡っていた。
54分、現実に引き戻される。何て事ない着地に思えたが、彼の見たことがない表情からただ事では無いと感じた。
静まり返る場内、顔を覆い担架で運ばれる宇佐美に拍手を送ることしか私たちには出来なかった。

「これで終わりじゃねえぞ」という昌子の声に再び現実に引き戻される。
そうだ、まだ終わってない。
後半に入って攻勢を強める川崎、58分には家長、小林を投入し、ガンバは徐々に押し込まれていく。
それでも、2CBを中心にゴールを割らせないガンバ、片野坂監督もフォーメーションを4-4-1-1→5-4-1と変化させ逃げ切りを図る。

75分途中出場の宮城にキックフェイントから決められ失点。
ゴール裏に悲壮感が漂う。しかし、選手たちは諦めていなかった。
キックオフからボールを失うと後ろに下がらず、プレスをかけボールを奪いサイドを突破、クロスを上げる。
これは合わなかったが再度ボールを回収し、セジョン→奥野を経由し小野瀬へ。キックフェイントから左足で放ったシュートは川崎DFの足をかすめ、ソンリョンの頭上を超えゴールに吸い込まれていった。
失点から僅か1分30秒、このゴールの軌道を私は一生忘れない。

リードしている終盤は何故こうも長く感じるのだろう。
それでも、パトリック・山見がボールを収め時計の針を進めていく。
87分最大のピンチもゴールポストがガンバを救う。

試合終了が近づくにつれ、新しいストーリーが頭に浮かぶ。
この勝利は宇佐美がくれた勝利なのかもしれない。
長期離脱となるエースに捧げる勝ち点3、復帰まで必ず上位にいるというメッセージとしての逆転劇なのだ。

「宇佐美残ってくれてありがとう」「復帰まで待ってるぞ」
そんな気持ちを抱きながら感傷に浸っていたその瞬間、悲劇は起きた。

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試合終了のホイッスルが聞こえ騒然とする場内、「開いた口が塞がらない」「愕然」という言葉は正にこんな時に使うのか。
サッカーの神様がいるのならば、流石に残酷過ぎである。

帰りの電車に乗ってツイッターを見てるとこんなツイートがあった。

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そう、どんなミスをしても次の試合はやってくる。
私もGKの端くれとして石川の気持ちは痛いほど分かるが、それでも来週の試合に向けてトレーニングに励んでいるはずだ。

今日3月8日宇佐美の怪我が公式でリリースされた。
「右アキレス腱断裂 全治未定」厳しすぎる現実だ。

ただ、ここで新しいストーリーを考えてみよう。
石川は東口復帰後、控えに回るもカップ戦で大活躍、タイトル獲得に貢献。
シーズン終盤に復帰した宇佐美が決勝点を奪う。

スポーツは「リアル」だ。
多くの場合は上手く行かず残酷な現実を我々に突きつけてくる。
もしかすれば磐田戦で石川が再びミスを犯すかもしれない。
もしかすれば宇佐美はコンディションが戻らずに苦しむかもしれない。

しかし、「リアル」だからこそ無限大の可能性がある。
石川が痛みのわかるGKコーチとして、宇佐美が監督として戻ってくる。
飛躍しすぎたがこんな風に、無限に物語を紡いでいける。

この「リアル」がスポーツの尊さではないか。
ねぎ焼きをビールで流し込みながら考えた大阪の夜だった。

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