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じぶんの”美”を、はじめて美しいと思えた。

わたしの下の名前には、”美”が入っている。その”美”が、昔から嫌いだった。

一生書きたくない、というわけではない。名前が必要な時はもちろん素直に書く。でもなんか嫌だった。

理由はこうだ。

まず、書く時、横棒それぞれのジャストサイズを見極めるのが難しい。何度も書いてるのに、バランスよく綺麗に書けた試しがない。美しいを、美しく書けない。

もうひとつは、名前に”美”が入っているのに、じぶんの外見に自信が持てない。”美”を書く時、なんだか縦長なフォルムになってしまうように、じぶんも不意に下から撮られた時の、縦伸びした顔ほど悲しいものはない。

来世では石原さとみのような、どこから見ても美しく見えるという黄金比とやらは手に入れられるだろうか。

変な愚痴を聞かせてしまい、ごめんなさい。そのような感じで、名前の書き方を誰かに説明する時、最後に付け加えるのは、「まぁ、顔は美しくないんですけどね」

自分でもわかってますから、という悲しい保証付き。そんな名前のこじらせと共に今までずっと生きてきた。

でも、ある話を聞いて、30年間、1mmも動かなかった、わたしの”美”への見方が一気に動いた。

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2019年、5期生として通っていた「企画でメシを食っていく(企画メシ)」という企画術を学ぶ講座。その主宰、コピーライターである阿部 広太郎さん(@KotaroA)の新刊発売イベント内のお話。

「本当の自分をさらけ出すには?」という質問に対して、阿部さんはこんな例を出していた。

「美」という漢字は、「羊」に「大」と書きますよね。羊の群れが狼に襲われた時に勇気を出して前へ出る。身を挺してでも守る。そんな大きな羊を"うつくしい”と言ったことから、漢字が生まれた説があるそうなんです。

続いて、阿部さんはこんな解釈をしていた。

自分をさらけ出す勇気について。決して無理をして自分を出すって感じではないのかなぁと。今、ここでやらなきゃ、言わなきゃって、自然に思えるタイミングがきっと来る。そういう時に勇気を出せるかどうか。そしたら、その動きに任せればいいと思います。

ハッと、させられた。今まで知らなかった"美"の一面。表に出てる美しさばかりに目がいっていたけれど、その下に隠れていた大切な面に触れた気がした。

「今、ここでやらなきゃ、言わなきゃって、自然に思えるタイミング」

自分にもその瞬間が確かにあった。それは、企画メシに応募した時だ。

阿部さんと企画生がトークする「企画メシ」のプレイベント。登壇側にいるのは、わたしの親友。4期生として参加していた彼女。たくさんの人々の前で、堂々と、楽しそうに笑顔で話す姿。すごく眩しかった。

小心者で、面倒くさがり屋のわたし。いつもだらしなく靴紐がほどけかけていた。歩いてる時、気になるけど気にしないふり。でも立ち止まって、きちんと足元を見た。意を決してしゃがみ、紐を強めに、きゅっと縛め直す。そして助走をつけた。向こう側へ、思い切ってジャンプしたくなった。

じぶんの場所からは結構、距離があると知っていたけれど、走るスピードに身を任せ、思い切り踏み込んで、応募のエントリーフォームにラブレターを送った。綺麗なフォームじゃない。不安とか悩みとか、素直にそのままぶつけた。




そして、奇跡は起きた。届いた。嘘で塗られたあの時の志望動機ではなく、ありのままの言葉が伝わったのが、単純に嬉しかった。「伝わる」ってすごい。

今、思うと、前に出たあの瞬間は、きっと、じぶんの名前と繋がっていたんだと思う。偶然かもしれないけど、必然と呼びたい。なんだか、じぶんの"美"が愛おしく思えた。そして、はじめて、じぶんの"美"を美しいと思えた。


阿部さんの本の中には、こんな言葉がある。「名は体を表す」「名前は思いを背負う」

”美”の名付け親は両親だが、育ての親はじぶんなのかもしれない。

わたしは企画メシに入り、「企画」とは企てる人、そしてフォロワーになる人がいて、はじめて成り立つことを知った。そして、わたしは先頭に立つよりも、誰かの「企画」を後ろから支える方が好きだなと思えた。

先陣切って、みんなの統率をとれる羊にはなれないかもしれないけど、群れのみんなが勢いよく走り続けられるように、後ろから強く守れるようにな、そんな羊にならなれるかもと思った。真っ直ぐに美しい、出来れば、ふわふわっとした、やさしい毛をもつ羊。それぞれがもっと前へ行きたいと思えた時の、その”瞬間”を応援できる羊になりたい。

企画メシで見た阿部さんは、まさに大きな羊だった。群れの様子を見ながら、時に先頭へ、時に一番後ろへ動き、もっと走れるよと、自らが走って教えてくれた。

阿部さん自身の名前は、どうだろう。本のエピソードにもあるように、下の名前である広太郎の"広”は、広告の"広”。コピーライターとして、世の中に伝わる、世の中を巻き込む言葉をたくさん届け続けている。

そして、わたしを含め、すべての人の、言葉の可能性を”広”げてくれる人だ。

本を読んでいる間も、やさしくも、力強い言葉で背中を押してくれる。読んだ後は、新しい世界へ走り出したくなる。

じぶんも書いてみて、わかった。書くって難しい。伝えたいのに伝わらないのが、もどかしい。書くからこそ、わかる阿部さんの言葉の凄さ。

頭や心に、すぅーと入ってくるやさしい文章には、きっと表からは見えない×や訂正線、何度も上書きされた跡がたくさんあるはずだ。

書いては、消して、また書く。あがきもがきながら、言葉の奥にあるものにたどり着く。その繰り返しの果てが、きっとこの本には詰まっている。

たぶん、わたしがジャンプしようとした時にしゃがんだ踏ん張りを、阿部さんが一番よくわかっているのだ。長い間、壁打ちのように自身が向き合ってきた言葉たち。それらはコピーライターじゃない人にも、下からポンっと軽く優しく、大きな弧を描くボールのように受け取りやすく投げてくれている。本表紙のイラストの手も、きっとその様子に違いない。

今回も阿部さんが投げてくれたボールをきっかけに、”美”の奥を知れた。そして、”美”の見方を味方にできた。相変わらず、バランスよくは書けないけれど、胸を張って、じぶんの名を書き、名乗ろうと思う。そして、これからも言葉を知り、言葉でじぶんを育てていこう。

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読んでいただき、ありがとうございました!

企画メシ5期生のメンバーと共に、活動している「命名札アルバムを作ろうプロジェクト」。阿部さんのコピー「名前には、命がある。」を中心に、みんなで広げ続けてきたものが、ついにひとつの形になりました。その名も”命名BOOKS”。その誕生の思いなども、ぜひご覧いただければ嬉しいです。(デザイン担当させて頂いてます)

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