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パリーブレストーパリ出走⑥ ブレスト(BREST)

■明るいうちにBREST(ブレスト)に着くかもしれない
走行計画は平均時速20㎞で組んでいた。現在の時刻は17時54分。予定よりも3時間早くCARHAIX(カレ)を出ようとしていた。パリに来てから慌ててつくった走行計画では、BRESTに深夜1時45分に到着することを目指していた。フランスの夕方は長く21時をすぎないと日は沈まない。ここCARHAIX(カレ)を出発しようとしていた時は、日は傾きつつあるものの、夕方という感覚はまだなかった。CARHAIXからBRESTまでは約90㎞。平均時速25㎞~30㎞で走ることが出来たら、もしかしたらBRESTには陽が落ちる前に到着することができるかもしれない。フランスに来るまでにBRESTの街のイメージは私の頭の中で何度も描かれてきた。オレンジ色の陽の光を浴びながらたどり着いたという絵や、暗闇の中灯りを照らされてたどり着いた絵など。果たして自分で実際に見るBRESTはどんな街になるのだろうか。

CARHAIXを出発

■森に向かって
エネルギーをしっかりとったせいか、リスタートは体が重くだるい。30分ぐらいは我慢する必要があるだろうな。疲労もあるから、進むのに苦労するだろうなあと考えていたが、街を出たらすぐに下り坂になり、シャーっと音を立てながら脚を軽く回すだけで自転車は進んだ。下っている最中に顔にあたる向かい風は、とても爽快感があって気持ちがいい。「じゃあねCARAHIX」心の中で挨拶して街に別れを告げた。
下り切ったあとは、いつものとおり笑顔の参加者に抜かれた。リスタートはいつもそんな感じだ。重いペダルを何回も何回もまわしていると、サイクルコンピューターが右へ行くようにと指示するので、途中で右折していった。街の風景が変わり、いつもの田園風景がはじまるかと思いきや、どんどんと森が深くなっていった。その時18時はとっくに過ぎていたと思う。あたりは明るくて、日本で言うと15時半ぐらいの光の感触なのだろうか。陽は少しずつ傾きつつあるが、橙色と黄金色の光が混じっている。多分この先に今回のPBPで一番高いへとところへつながっている。重たい脚をくるくると回しながら登る事への準備をはじめた。

■PBP最高峰 Roc'h Trevezel(ロッコ・トゥルヴゼル)を登る
PBPの最高地点Roc'h Trevezel(ロッコ・トゥルヴゼル)は標高384mで。ずっとゆるやかで、斜度も最高地点間際まで2%程度で登るという感覚は実はあまりない。ただ、標高350mの地点まで登るという事を聞くと、否応にも体に力がはいってしまう。だんだんと力がもどってきており、調子もあがってくる。私を抜いて行ったライダーたちだろうか、進んでいくと少しずつ点でみえるようになってきた。不思議な事にPBPでは登りになるとペースがあがってくる。脚もだるくなく、どんどんと回るようになってきた。今まで
続いている道の先から、なんとなく黄色い小さな影が見えてきた。なだらかな坂道を登り続けていると、どんどんその影は大きくなってくる。段々とその形はベロモービル(ボブスレーのような形をした自転車)だとはっきりと分かってきた。PBPに参加すると普通のロードバイク以外に、普段見ない自転車を目にすることが多い。世界は広い。そう感じさせるような自転車が走っている最中に現れる。黄色いベロモービルが近づいてくると、頂上も見えてきた。電波塔が目印だ。そして段々と沿道で応援してくれる方も出てくる。頂上では水を持って待ってくれる年配のご家族もいた。黄色いベロモービルの方と並んだ時に「ボンジュール」と挨拶をすると、「ボンジュール」と素敵な笑顔で返してくれた。参加者同士声を掛け合うと心がつながった気持がして心地が良い。彼らと登り切ったら、パーっと西側に広がっている壮大な景色を見下ろすことができた。この先のどこにBRESTの街があるのだろうか。探そうと思ったが、明るいうちにたどり着くことを考えたので、急いで降りる事にした。この時点で19時43分

頂上付近
先に見えてきたベロモービル
そして応援してくれる方々
Roc'h Trevezel(ロッコ・トゥルヴゼル)からの眺め
海はどこだ BRESTはどこだ
大きく広がる景色

■音速のように駆け抜けていったベロモービル
頂上で抜いたイエローのベロモービル。ベロモービルは坂道では登るのに苦労しているのは、後ろから見ていてよく分かった。空力がとっても良く、地べたを進むようなフォルムはもちろん平地、そして下りは速いに決まっている。サーっとRoc'h Trevezelの頂上から下っていて、そろそろ「来るっ」と思うよりも1秒早く、ゴーーーーッという音と共にあっという間に視界から消えてしまった。なんという速さなのだろうか。同じ乗物とは思えないほどのスピードであった。そんな速さがきっとベロモービル愛好家を虜にしてくれるのだろう。しばらくすると、頂上で景色を眺めていた集団たちに飲み込まれた。速いけれど、着いていけるかなあと思っていたら、一番後ろにいるメンバーが一緒に走ろうと笑顔で声をかけてくれた。Roc'h Trevezelを登っていて感じたのだが、だいぶ陽が傾いてきている。この時期のフランスは陽が長いとは言え、あと1時間ほどで陽が沈むのだ。BRESTまでの距離は残り50㎞。明るいうちになんとかしてたどり着きたい。時速30㎞平均で2時間は切れそう。少し速そうだったが、この集団に頑張ってついていく事にした。

イエローベロモービル 何度もあって挨拶して
そのたびに笑顔で返してくれた
このモービルが恐ろしく速い



■港町雰囲気が変わった
集団のメンバーは約15人程度。この中には何人か一緒に走ったメンバーもいた。私が勝手に気になっていた、フラットバーのマルコさん(勝手に名前をつけてすいません)はいなかったので少し残念だった。Roc'h Trevezelを下る事や、暗くなることを考えたのかPBP反射ベストを着用されている方が多かった。直接暑さを差してくる陽の光は力をひそめていて、気温は18℃となっていた。フランスはこの時期、西部に行くほど涼しくなるというのは本当なんだなと思った。
PBPの集団走行は短いローテーションで回すことはあまりなく、先頭の人が長く引き、そして交代していく。交代のペースも様々だが5分~10分は固定されていることが多かったような気がする。その中で毎回不思議なことに集団のメンバー―の中でもリーダー的な印象の方がいる。この時は2人のライダーが並列して集団をけん引していた。一人は細身でオレンジ色のジャージを着て、ワイルドな髭と半袖からとても立派なタトゥーが見えて、モデルのようなかっこいいライダー。もう一人はがたいがとっても良くて、黒いジャージを着ていた。この2人は喋りながら牽引していた。周りのメンバーは彼らを尊重するように後ろに控えていた。ここに混ぜてもらった私は集団走行の市民権を得るべく、しばらく集団の最後尾でひらひらとし、少しずつ前にあがっていくことにした。
2人の牽引はとても素晴らしく、とてもいいスピードで進んでいく。一人の力で進んでいくライドと違って、引っ張られるような感覚を共にしながら、進んでいくのはとても居心地がいい。登りになると私のペースも上がって楽になるので、集団の前方にあがり、前の2人とその後ろの数名で集団をコントロールするメンバーの1人に入ることが出来た。おそらくみんなの気持ちは明るいうちにBRESTに辿り着く事だろう。西からの陽を浴びながら、いつの間にか集団の先頭を走ることになっていた。タトゥで髭のかっこいいライダーと、がたいのいい相棒さんに、このペースで良いのか、気持ちを探りながらペースを考えるライドはなかなか楽しかった。たまに顔を合わせて、ニヤってする時気持ちが通じ合っているような気がして、それがまたいい。

Landerneau(ランデルノー)の街
1時間ほど走ると今までの森の中で走っている風景が変わり、ここはもう海が近いなと思わせる川の町並みに変わっていった。Landerneau(ランデルノー)という街で、フランス国内大手スーパーE.LECLERC(Eルクレール)の創業の地である。この街の中心にはロアン橋がある。ロアン橋は、橋なのに住居やお店などが上に建っている。外から見ると建物の下に川が流れており、その姿はこの街とこの川の歴史を見ているような感じがして、なかなか面白い。この橋は「世界の車窓から」にも出てきたらしい。実はゆっくりと止まって、この橋を中心にしてでゆっくりと街を楽しみたかったのだが、PBPの最中ということと、いい集団に入っていたこともあって写真すら撮ることができなかった。エルロン川のほとりの街はとても美しかったという記憶は確かに残った。
海に近い事に喜びながら走っていたが、少々危険な車に遭遇した。フランスに来てから車の親切さに感銘をうけていたが、全てがそうであるという訳ではなさそうだ。危ない運転をする人、無理して自転車と並走して追い抜こうとする車はいる。集団でラウンドアバウトに入った時に、赤いスポーツカーが爆音を轟かせ、無理に追い越そうとした。近い距離で並んだ時に、集団のメンバーたちは怒った。更にグレーの車も同じように(おそらく仲間だろう)続いてきた時、メンバーたちは口々に「クレイジー」「クレイジーだ!」なんだあれ。ということを言い怒りをあらわにしていた。ただその後、すぐに話題にすることもなくなった。こういうことはよくある事なのだろう。そしてオーバーアクションすることによってしっかりと発散していたように感じた。

Landerneau(ランデルノー)の街
待ちに入ると、みんな立ち上がって応援してくれる
いつかはこの街にゆっくりと行ってみたい

■7つ+7つのドーナツ
BRESTの街に近づいてきた。600㎞近く走ってきて脚も疲れているのだろうが、集団のメンバーのペースがここに来てドーンと上がってきた。2人で先頭を引っ張ってきたリーダー達のペースは若干上がってきたが、その後ろにいたフランス人が更に上げたのが原因である。アドレナリンがババっと出てくるのがよくわかった。GUIPAVAS(ギパヴァス)の街ぐらいから、フランス人が先頭に立ち、そこに2人も後ろについてペースが上がる。私も前方にいたため、何も考えずにペースを上げる事に貢献することにした。ちょっとした登りで単独でフランス人が抜け出し始めた。そうなると集団は崩壊し、PBPというよりもロードレースのようになってきた。髭とタトゥーのリーダーと共に一緒に登りで追いかけていくことになった。そうなると今まで走ってきたラウンドアバウトのスピードも変わってくる。Landerneau(ランデルノー)からBRESTに入るまで、おそらく7つほどのラウンドアバウトに入っていったが、数をこなすうちにコーナリングというような感覚に近い内容になってきて、BRESTの街に入る頃には映画タクシーのようなスリリングあるスピードに感じるようになってきた。登りでペースを上げてフランス人に追いついた時、メンバーは4人程度になっていた。BRESTの街はでは大通りをずっと登っていて、車と同じようなスピードを上げて、この先の事を何も考えずに何度もラウンドアバウトを超えて行った。PBPはレースではないが、まるでレースのような時間であった。とにかく早くBRESTに辿り着きたい。そんな思いがあったのだろう。あたりはオレンジ色からピンク色の風景にかわりつつあったが、かろうじて明るさだけは残っていた。坂を登り切り、7つのラウンドアバウトを超えた後、吸い込まれるようにBRESTのチェックポイントに辿り着いた。この時21時33分を指していた。無事にBRESTに着いたんだ。
拍手をされながらゲートをくぐった先には、SANT-NICOLAS(サン二コラ)で会った小俣さんたちが待っていた。
陽が落ちて冷えている中、BRESTに辿り着いた満足感と共に、一緒に走ったメンバーに無事にここまで来れた事、協力しあったことに感謝をして、復路に向けての休憩をとることにした。ここまでで600㎞を超えた。あとは戻るだけだ。

無事にBRESTについた!明るいうちについた!
どんな街なのだろうか、何度も思い浮かべてきたけれど
実際に見る景色にそんな考えた事も忘れるぐらい、着いて嬉しかった。

※BRESTの7つのラウンドアバウト、実際にいくつあったのかは分からない。

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