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七十五日

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

「人の噂も75日」と言う。全く身に覚えのない噂話を立てられても75日、つまり2ヶ月半もすれば誰も話をしなくなる。噂話程度のことはそれぐらいの期間で興味が失せるのは理解出来る。

噂なら75日程度でどんどん忘れ去られる方がよいが、最近では「本が売れるのも75日」というのを実感している。どんな本でも、とは言わないが、発売してから2ヵ月半もすると急速に注文数が減っていくのだ。
発売して1ヶ月目ぐらいをピークにその後はドンドンと下降線を辿っていく。そして2ヶ月を過ぎたあたりで注文数は潮が引いたようになるのである。

どうしちゃったの? みんな。
あんなに売れてたのに、もう買う人いないの?
そんな感じだ。たった2ヶ月ぐらいで人の興味は失せてしまうのだろうか。これでは噂話と何ら変わりがないではないか。

興味の持続時間が短くなっているのだろう。あれやこれやと情報が発信されていて、その情報に今持っている興味がかき消されて行く。
もしかすると、フロムの『愛するということ』、土居健郎の『甘えの構造』のような、時代がどんなことになってもテコでも動かぬ本が75日理論で片付けられ、書店の店頭から消えているのではないだろうか。
新しいとか今という価値観だけが支配している世界感は、過去から立ち上る熱気を素通りしてしまうらしい。

そういえばテレビドラマも10回ものが多くなった。つまり75日で完結。これ以上やっても人の興味が持続しないと考えているのかも。村上春樹の「騎士団長殺し」は何か月間平台にあったろうか?
そんなこともつい気になってしまう。



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