見出し画像

僕らが描き始めた都市の未来|馬場正尊|【イベントログ】

2016年5月に蔦屋書店代官山店にて開催された『エリアリノベーション』出版記念イベントでの、編著者・馬場正尊さんによるトークのログです。行政主導の「都市計画」でも市民の良心に依存した「まちづくり」でもない新たなエリア形成の手法「エリアリノベーション」とは――。

馬場正尊

Open A代表/東京R不動産ディレクター/東北芸術工科大学教授。
1968年生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂入社。2003年建築設計事務所Open Aを設立し、建築設計、都市計画まで幅広く手がけ、ウェブサイト「東京R不動産」を共同運営する。近作に「佐賀市柳町歴史地区再生プロジェクト」「道頓堀角座」「雨読庵」「観月橋団地再生計画」など。近著に『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』など。
※編集部注:所属等、略歴はイベント当時

僕らは次の風景をイメージできているだろうか

 僕は「まちづくり」という単語があまり好きではありません。この甘い単語のせいで、日本のまちづくりは遅れているのではないかとさえ感じています。まちづくりという言葉の背景には、助成金や市民の自発的な良心に依存した手法がちらつくのです。僕はそれに代わる次の概念が欲しくて「エリアリノベーション」と呼んでみることにしました。

 この本『エリアリノベーション』を書かなければと思ったきっかけは、僕らは次の風景をきちんとイメージできているのだろうかと思ったことです。

エリアリノベーション
変化の構造とローカライズ

 東日本大震災の後、教えている東北芸術工科大学の学生に、未来に本当に住みたい街を描かせたことがありました。彼らが描いたのはぴかぴかの未来ではありませんでした。木造の家が点在するなかに田畑があり、住宅は太陽光発電などハイテクな技術は装備しているけれど切妻屋根の素朴な形をしていて、まちの中心には広場があって役所などのセンター機能がある、どこかなつかしい街でした。

 でも僕らが現実につくってきたのは、スーパーフラットな均質な街でした。

 全国どこにでもあるこの均質な風景は、人口増加時代に生み出された社会システムによってつくられました。つまり、僕らが稼いだお金が、国やナショナルチェーンに吸収されて地方交付税交付金などの感情のないお金になって再配分された結果、できた風景です。

 このシステムを変えるにはどうしたらよいのか。これまでのヒエラルキー型の都市計画でなく、ネットワーク型で都市をつくればよいのではないか。それには何から始めたらよいのか。そうした街の変化の起こし方を探るために『エリアリノベーション』を書き始めました。

6つの街で発見した、変化を起こす4つのキャラクター

 ケーススタディとして、次の6つの街を訪れ、キーパーソンにインタビューをしました。

東京都日本橋・神田――馬場正尊
岡山市問屋町―――――明石卓巳氏
大阪市阿倍野・昭和町―小山隆輝氏、加藤寛之氏
尾道市旧市街地――――豊田雅子氏
長野市善光寺門前―――倉石智典氏
北九州市小倉・魚町――嶋田洋平氏

 選んだ基準は、確実に力強く変化が起こっていること、粗削りだけどかっこいい変化であることを重視しました。

 キーパーソンたちに9つの質問を投げかけ、街の変化に共通する構造とエリアごとに変わるローカライズのポイントを導きだしたいと考えました。

 取材をするうちに、街に変化起こすには4つのキャラクターが必要だとわかりました。不動産キャラ、建築キャラ、グラフィックキャラ、メディアキャラ。

 不動産キャラは、物件を仲介するだけの昔の不動産屋とは違って、「まちの面倒をみる人」です。中長期のビジョンを持って「この物件をこう変えるべきだ」とオーナーを説得したり、能動的に動く人です。

 建築キャラも、設計をするだけの昔の建築家とは異なり、自分で施工までしてしまいます。

 グラフィックキャラも、クライアントの仕事を綺麗にデザインする人ではなく、街なかのサインのデザインやイベントの企画などにも自発的に関わる人です。

 メディアキャラも、昔はマスメディアが主流でしたが、今はSNSで個人の視点で切り取った情報を内にも外にも発信できるタイプです。

新しい都市計画とプレイヤーの変化

 僕らは2003年頃から、東京の神田や日本橋のエリアで、CET(Central East Tokyo)というアートと不動産を融合させたイベントをやっていました。このエリアは江戸の中心でしたが、問屋街だった倉庫等の空き物件が目立っていました。そうした空いた物件のオーナーさんから、2週間だけダダで借りて、アーティストがアートスペースに変えるというイベントでした。同時期に仲間と立ち上げた東京R不動産でアートイベントの物件をアップし始めると、空き物件を借りる人が次々に現れた。

 約10年で100件くらいの空き物件が埋まり、カフェ、ギャラリー、ショップなど新しい店舗ができた。やり始めた頃は、僕らがやっていることはアートアクティビティだと思っていたけれど、7、8年経ったときにふと、これは新しい都市計画ではないかと考えるようになりました。これまで日本で行われてきたマスタープランもなければ予定調和でもない、点の変化の集積がつながって面展開が自走する、そんな街の変化が起こったのです。

 今回、6つの街の変化を取材して、プレイヤーたちにも変化が起こっていることに気づきました。

 近代は、計画する人(建築家や行政など)→つくる人(工務店など)→使う人の順番で物事が決められ、空間がつくられていた。でも今は、使う人→つくる人→計画する人の順に、まず使う人が空間を使い始めて、自らつくりだして、それを計画に還元していくという、空間のつくられる順番が完全に逆転しているのです。

 つくられるプロセスが違うから、当然アウトプットされる空間も違います。使い手発想なので、いきいきとした空間になっているのです。

 もっと言うと、近代で分けられていた、計画する人/つくる人/使う人が役割を融合して新しい職能になっている場合もあります。それをとりあえず「当事者」と呼んでみますが、街の変化にはこの当事者の存在こそが重要だと気づきました。

計画的都市から、工作的都市へ

 『エリアリノベーション』を執筆しながら浮かんだのは、「工作的建築」「工作的都市」という言葉です。建築や都市は計画的なものから工作的なものへ変わろうとしています。プロが計画的につくるだけでなく、現場主義でつくっていく工作的な手法が今後どんどん増えていくのはないでしょうか。

 2016年度のプリツカー賞を受賞したのは、チリのアレハンドロ・アラヴェナ(Alejandro Aravena)という建築家で、南米のスラム街で街の人と空間をつくるプロジェクトが評価されました。工作的な建築の美しさが現代建築の最高峰として選ばれたのです。

 またロンドンのアッセンブル(Assemble)という20代の建築家や大工、デザイナーたちの集団が、2015年にイギリスの若手現代アーティストの最高賞であるターナー賞を取りました。彼らは街の人と一緒にモノを作りながら地域を再生する活動をしています。

 こうした海外の事例は、日本の街で起こっている変化ととても同時代性を感じます。荒削りだけど工作的な魅力に満ちた建築や都市、そこに僕らが描くべき未来があるのではないでしょうか。

[2016年6月14日代官山 蔦屋書店にて開催]

エリアリノベーション
変化の構造とローカライズ

馬場正尊+Open A 編著
明石卓巳・小山隆輝・加藤寛之・豊田雅子・倉石智典・嶋田洋平 著

建物単体からエリア全体へ。この10年でリノベーションは進化した。計画的都市から工作的都市へ、変化する空間づくり。不動産、建築、グラフィック、メディアを横断するチームの登場。6都市の先駆者が語る、街を変える方法論。

詳細|https://goo.gl/q8EW3N
Amazon|https://goo.gl/dgYvi3

いただいたサポートは、当社の出版活動のために大切に使わせていただきます。