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|010|田熊隆樹/台湾で修行中の建築家/28歳

台湾に来て3年が経ち、毎回帰国時に連れてきた本たちも結構な量になった。
事務所に転がっていた経歴不明の箱状の枠を二段の本棚にして、それでも足りなくなって、家の近くの工場で数十円で買ったブロックに木の板を載せて本棚としているが、これもそろそろ埋まってしまう。いずれ台湾を離れる時に全て持って帰らなきゃいけないことを考えると今から頭が痛い。


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大きい本棚には建築系の本や写真集、雑誌などが多い。最近熱心に読むのはアンリ・スチールラン『イスラムの建築文化』。イスラム建築をその歴史的背景とともに詳細に研究した、日本では数少ないイスラム建築書だ。学生時代に休学して、旅をしながら見て感動したアジア・中東のイスラム建築が多く登場するから、それを再び消化している気分である。訳者である神谷武夫氏の私家版『イスラーム建築』は、直接連絡して購入したシリアルナンバー入りだ。
Robert Polidori『Hotel Petra』はレバノンにあったホテルを解体前に記録した写真集で、台北の写真集専門書店で出会った。Steidl 社の印刷技術もあって色味が大変美しく、匂いも良いのだが、今見たら台湾の湿気で表紙が反っていた。ハリケーン・カトリーナの被害記録集『AFTER THE FLOOD』もとても良かった。
学生時代民家研究でお世話になった学研の『日本の民家』シリーズは全巻持っているが、台湾に一番近い「中国・四国・九州」編だけ持って来た。


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小さい本棚には文庫本が多い。小さいから持って来やすいし、躊躇なく書き込めるから良い。台湾では朝ごはんを外に食べに行くので、毎日何か一冊持って、勤務前に食べながら読む。日本語を喋る機会が少ないから、小説や哲学書など興味のあるものをバラバラと読むだけでも満たされる。最近はガルシア・マルケス『エレンディラ』、三木成夫『内臓とこころ』、吉本隆明『最後の親鸞』などに心動かされた。読み終われば日本に持って帰るのだが、名残惜しくて手元に残すものも多い。だから増えていく。

台湾に来てから、古本屋街、ネット古本販売の充実など、学生の頃当たり前のように享受していた環境が相当恵まれたものだったことに気づいた。台湾の本の装丁は現在相当レベルが高いと思うが、日本のような古本文化はあまり育っていないらしい。
これからもせっせと個人輸入は続きそうである。



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田熊隆樹/台湾で修行中の建築家/28歳
1992年東京生まれ。大学院在学中、休学し中国からイスラエルまで、アジア・中東11カ国の集落・民家をめぐって単独で調査旅行する。2017年早稲田大学大学院・建築史中谷礼仁研究室修士課程修了。2017年5月より現在まで台湾・宜蘭(イーラン)の田中央工作群(Fieldoffice Architects)にて建築家・黃聲遠に師事。日本と台湾、さらに黒潮沿いの地域を横断する「黒潮建築」を模索しつつ、一年の半分以上が雨の宜蘭で公園や文化施設、駐車場やバスターミナルなど様々な公共建築を設計中。

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