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LOCAL PRODUCE BOOK (7) 「情報発信論」


続いて、「どのように?」伝えるかの「②情報発信」の仕方についてお話ししたいと思います。

このパートも広告代理店出身者的には得意分野なので、ものすごく長文になってしまいました…。一般的なプロモーションの考え方とローカルでの戦い方をミックスして伝えてみたいと思います。

まず、前述しましたが、前提に立ち返ります。そもそも情報が溢れ返っているし、情報の流通経路が複雑化しており、広く遍く情報を届けるのが難しい時代です。そんな時代にどのように情報を発信し、伝えたい相手に情報を的確に伝えれば良いでしょうか。

一方で、特定のSNSのネットワーク、コミュニティ、ジャンルには届けやすくなっているかもしれない。


「空中戦」と「地上戦」

まず、一般的にどのような情報発信方法があるか整理してみましょう。広告やマーケティング系の本には様々な方法が紹介されているので自分がやりやすい方法で覚えればいいと思いますが、ここでは僕がよく使う言葉・概念で分類してみようと思います。

「空中戦」はネットやSNS、メディアを駆使して情報を多くの人に届けるフロー型の発信方法。「地上戦」はリアルな空間で直接伝えるような場合を指す。ネットとTVを混ぜるのは違うのでは?という広告系のプロの方々の声が聞こえそうですが、感覚的に捉える方法として分かりやすいので、ここではこのような定義とします。

また、実際の手法を書き出してみると以下の通りとなります。大体いつも地域の仕事で情報発信をする場合は、このような施策を組み合わせています。

※上記の他には、販売する「商品」自体も情報発信ツールの一つとも言えるだろう
遠野市の仕事の魅力を伝えるプロジェクト「遠野しごと展」においても同様の考え方で情報発信の設計をしている。


そこまで大掛かりではない場合やちょっとしたイベント等の告知の場合は、「チラシ」と「SNS」を準備して、自分たちのアカウントやお願いできる場所に設置してもらうなどの発信がスタンダード。


こうした前提を踏まえながら、以下、日々駆使している情報発信のコツを紹介したいと思います。どんな仕事でも意識していることですが、その都度使い分けていたりするため、盗めそうなところ、参考にできそうなところを真似してもらえたらいいと思います。

情報発信のコツ①:社会の時流を意識する

情報には“旬”があります。これはTVのニュース番組やYahoo!などメディアを見ていれば分かりますね。W杯の時はW杯の情報がニュース欄を彩るし、有名タレントが結婚またはよろしくないニュースで世間を騒がせていればそのニュースが。政治と金の事件が起きた時はそのニュースが。また、都心で珍しく雪が降った時は雪のニュースが。

要は世間が求めている時に、旬の情報を流すことが情報発信においては基本です。旬であればあるほど、その情報に接触した人がクチコミなどで情報を二次発信してくれる可能性も高まります。

つまり、自社の商品やサービス、企画の情報発信をしようと思った時、社会のどんな時流に乗せるか、またどんな社会の"旬"な関心事とマッチさせるかを考える視点を持っておくといいでしょう。

「TVは終わった」「新聞は終わった」と叫ばれて久しいですが、ローカルにおいては、「ローカル民放TV」や「地方新聞」は変わらずめちゃくちゃ強いマスメディアです。ちょっとでも出演したり掲載されたりすると、たちまち色々な方から連絡がきます。一般的に地方の方が選挙の投票率が高いように、自分の住んでいるまちのニュースなど身近な情報に人々は関心を持つものです。

ローカルで活動する限り、その発信力・影響力を活用できた方が絶対に良いです。そうしたローカルメディア(内の記者やプロデューサーの方々)が取り上げたくなる旬なニュースであり、かつ社会性や地域性があるような、メディアに掲載してもらえそうな文脈や要素を、自分の仕事やプロジェクトにも内包させておけるといいですね。ローカルプロデュースの現場では、特に意識せずとも、前提として考えていることの一つです。

選挙投票日に全店舗を休業させて社員が投票できるようにしたというパタゴニアも、こうした時流に乗って行ったブランディングであり情報発信の一つだと思う。パタゴニアの場合、いわゆる一時的なBUZZを狙うような企業ではないし元々の企業スタンスがかっこいいので、尚更響いた。



ちなみに2021年にお土産として開発したアロマスプレー「遠野が香るアロマスプレー Sense of Tono」のことを知ってもらうために情報発信をする際は、コロナの文脈を取り入れました(というかあまりに巨大な関心事すぎて取り入れざるを得ませんでした)。

普通にアロマスプレーを作っても良かったのですが、アロマスプレーという香りを持ち運べるプロダクトの機能にフォーカスして、「(コロナによって移動できない中)離れていても、自分が行きたい土地を自分の家で感じることができる」という文脈を加えたPRをしました。結果、メディアに何件か取り上げてもらうことができました。


情報発信のコツ②:すでにファンを持っている人とのコラボレーション

ローカルでゼロから何かを立ち上げる場合、情報発信やイベントの集客は苦戦することが多いです。知り合いも少なかったり、最初から何百人・何千人とフォロワーがいるわけでもありません。

そうした場合によくやるのは、すでにファンを持っている人コラボレーションさせてもらうことです。これは最近ではYouTubeチャンネルのコラボなどでも見られる手法ですね。ファンの多いお店の店主、タレントさん、漫画家さん、読者を抱える雑誌など、特に最初の頃はそうした方々とご一緒させてもらうことで、自分ではリーチできなかった層に情報を届けることができます。


情報発信のコツ③: そもそも情報が届く母体を作っておく

なお、そもそもの話ですが、自らもアカウントなどを作って情報が届くファンやフォロワーなど一定数の母体を持っておくといいですね。

自分も以下のようにSNSを使い分けながらフォロワーを地道に増やしてきました。増やすこと自体が目的ではありませんが、自分が発信する情報を前向きに捉えてくれるような母体がいることは情報発信において重要ですし、心強いものです。

また、クラシカルな手法でいえば様々な「会員制度」があると思いますが、最近は昔ながらの手法「メールマガジン」をあえて復活させる事業者やプロジェクトを見かけます。

これも情報が溢れる世の中において、情報をしっかりと届けるための手法として、改めて価値あるものだと再認識されているのでしょう。復活させる理由もとてもよく理解できますし、情報の受け手としても信頼できる情報を確実にキャッチできる方法なのでいいですよね(お互いの精神安定的にも)。


情報発信のコツ④: あえてアナログ。個別アタック 

次に、いわゆる教科書的な手法ももちろん大事なのですが、ローカルでの情報流通経路としては、依然として「直接伝える」というストリートで原始的な伝え方が一番強いです。大きく発信するよりも、気持ちを込めてお誘いする方が効果的な場合も少なくありません。急がば回れ!です。

むしろこんなデジタルツールが全盛な時代の中で、「会いにきてくれた」「直接伝えにきてくれた」ことの価値は高まる。それ自体がまたニュースになったりもする。


情報発信のコツ⑤: ギャップ をつくる。

コツの5つ目です。これは、そもそも「ウワサ」が広まりやすい理由を考えてみると、情報発信のヒントになったりもします。超シンプルですが、ポイントは「ギャップがあること」です。

書籍化の際は引用元を掲載します
こういうニュースを見るのは好きではないですが、視聴数はこうした内容が稼げますよね


例えば、以下二つは遠野市の仕事です。行政やそれに近い機関は真面目な印象を持たれていますが、そのイメージの逆を張りたい。もちろん節度や品、道徳的な常識は踏まえた上ですが、うまくギャップを作れると、情報は届き、広まります

これは以前制作した、遠野市の移住促進冊子「ウェルカム」。目がチカチカするサイケデリックなデザインだったが、ギャップも相まってすごく情報を広げることができた。
先ほどの事例も、ギャップではある。




地域ならではの情報流通のメカニズム

ここまで情報発信のコツをお伝えしてきましたが、それらに加えて、地域ならではの情報が流通するメカニズムも覚えておくといいでしょう。

ここが都会のプロモーションとローカルプロデュースの違いとなります。情報発信は、情報を発信する以前の部分が結構大事という話です。

ポイントは3つ。これらを押さえておくと、ローカルで情報を発信する際に大いに役立ちます。

むしろどんなにいい企画だとしても、これらが分かっていないと情報もなかなか地域では広がりません。いずれも地域に入ったばかりの「ソトモノ」という信頼度が低い状況下において意識した方が良いポイントであり、いかに情報を発信する以前が大切か、ということでもあります。


まず「関係性」

ローカルでは、情報そのものというよりも、その情報は「誰が」発信しているのか。その商品・サービス・イベントは「誰が」企画しているのかというところを特に見られます。

移住者やソトモノが企画をしても様子見されてなかなか人は集まらないものですが、「あ、あの子が企画してるのか」または「あの人も関わってるんだ」と知ってる人が企画したものと分かれば、不思議と人が集まってくれるのです。企画そのものが面白いかどうかはあまり関係ないこともあり、きっと安心して初めて足が向かうこともあるんだと思います。

ついては、移住した初年度など、地域に入ったばかりの時は無理に何かを企画しようとせず、とにかく色々な場所に行って知り合いを増やした方が良いケースもあります。その頃に作った関係性が後から集客などの面で助けてくれることも少なくなく、後々ボディブローのように効いてきます。


次に「世論」

ここはすでに活動や人がメディアに掲載されていることを示します。例えば、岩手だと「岩手日報」と「NHK」に載ると一気に信頼度が増します。大手メディアが取り上げる人 ≒ 価値ある人、または信頼して大丈夫な人、というイメージなのだと思います。こうしたメディア掲載後に何かを始めたり、企画したりすると、情報発信として追い風になることが多いです。


最後に「実績」

これは何かの賞を受賞したり、有識者に認められたり太鼓判をもらったりすることです。小さくてもいいので地域の何かの賞を受賞したり、アワードにノミネートしたり、またグッドデザイン賞を受賞したり。この前後の変化は非常に分かりやすいです。人によっては、「最初からいい取り組みだと思っていたんだよ」とかいう人もいます(あなた最初そんな感じじゃなかったですよね、と思ったりすることもありますが…)。

上記3点のような要素を持ちつつ情報を発信できると、情報は追い風に乗って地域で流通していきます。情報が「利く」ポイントとも言えるかもしれません。


ローカルこそPR(パブリック・リレーションズ)を

最後に、上記のメカニズムを概念的に理解して終わりにしましょう(だいぶボリューミーになりすみません)。

広告業界的にいうと、PR(パブリック・リレーションズ)の考え方ともいえます。ところで、「PR」という言葉は一般的にもよく使われていますが、実はこれは「パブリック・リレーションズ」の略語です。日本語では「広報」と訳されたりもしていて、間違えられやすいのですが、「プロモーション」 とも異なる概念なのです。

このPRの考え方を説明しようと思うと、めちゃくちゃ長くなってしまうので割愛しますが、ざっくり言うと、周囲との関係性を築くためのコミュニケーションと説明されます。

世の中には「PR会社」というPRを専門的に行う会社もあり、企業のプロモーション情報がより「効く」ように、事前のコミュニケーションを設計しているのです。

例えばニュースメディアと連携した世論の形成です。仮にTVの情報番組で「豆腐特集」をやっているとしましょう。

これを何気なく見ている消費者は、「へ〜豆腐が健康にいいんだ」としか思わないと思いますが、こうした情報は、実は裏側でPR会社がメディアに仕込んで放映されている場合があるのです。

特定のメーカーによる自社の豆腐商品の宣伝であれば、ただの広告でありプロモーションですが、どこかの大学の研究所が調べたデータをもとに「実は豆腐が健康にいいらしい」というニュースになった場合は、消費者にとっては有益になることがあり、そうした旬なコンテンツを日々探しているニュースメディアと目的が合致すれば、ニュースで取り上げられるという流れです。
結果、店頭に並ぶ豆腐が売れることにもつながる。こうした世論のムードをつくる、社会とのコミュニケーションもPR会社の仕事の一つです。


例えば、アメリカ大統領選ではPR会社が莫大な予算をもとに、候補者に有利な、またはライバルに不利な情報戦を仕掛けていきます。昨今ではフェイクニュースなども絡まってわけわからなくなっている面もありそうですが、いずれにせよ、届けたい情報を届ける手前に、その宣伝が「効く」環境を作っておく仕事が立派に存在しているのです。

こうした理解を踏まえて、先ほどの「関係性」「世論」「実績」を思い出すと、これらはまさにPR的な動きだといえます。

発信する情報が届きやすいように、また広まるように、発信する前に土壌を耕しているイメージです。結局日々の行いが大事であり、急にこんな商品作りました!とかっこいい広告を打ってもダメ。日々の地道な活動で信頼貯金を作っておくことが大切なんだと思います。

もうすぐ6,000字です…。今までで最長のパートとなりました。
それだけ情報発信は気合が入りますね。ぜひ何度も読み返していただきながら、試行錯誤して自分の最適な方法を見つけていただけたらと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました!
次はプロジェクトマネージメントについて書きたいと思います。

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