見出し画像

旅するように、学生映画を応援しよう!『東京学生映画祭』現地レポート

夏は学生にとって特別な季節です。
学校から解き放たれ、一ヶ月丸ごと自由時間が与えられるのですから。

海に山に、ひたすら遊び回るのもよし。
部活やサークルに打ち込むのもよし。
特に何もせずダラダラ過ごすのも、それはそれで贅沢な夏休みでしょう。

超インドア派の私としては、自宅から5キロ圏内で夏のほぼ全てを完結させるつもりだったのですが、なんと、このたび、東京学生映画祭運営部さんから取材のご依頼をいただきました。

東京学生映画祭(愛称:東学祭)は、今年で34回目となる国内最大規模の学生映画祭です。
毎年、学生の製作した映像作品を募集し、コンペティション形式でグランプリを決定しています。
過去には『EUREKA』青山真治監督、『君に届け』熊澤尚人監督、『溺れるナイフ』山戸結希監督などを輩出してきた歴史あるイベントです。

映画を撮るのも学生、大会を運営するのも学生。
青春のお手本のような熱い企画に眩しさを感じつつ、会場である渋谷ユーロライブに向かいました。

ユーロライブ前

東学祭は3日に渡って開催されます。
学生作品のコンペティションのほか、8ミリ・16ミリフィルムの特別上映、オダギリジョーさんのトークショーなど、映画好きにはたまらない企画がぎゅっと詰め込まれています。

私が取材に伺った1日目では、

・8ミリ特集『TURN POINT 10:40』『いつでも夢を』『MOMENT』
・学生作品『花心ファーシン』

を観ることができました。


8ミリ特集『TURN POINT 10:40』『いつでも夢を』『MOMENT』+小中和哉監督・手塚眞監督トークセッション

そもそも、映写機を使って上映される映画を観たことがない…という方も多いのではないでしょうか。
フィルム映画には独特の揺れや掠れがあり、映写機の駆動する音が非常にいい味を出してくれます。
しかし、フィルム映画に対応した映画館は年々減っています。フィルム映画を鑑賞すること自体が、現代では貴重な経験なのです。

今回東学祭にて上映された3作品は、いずれも70〜80年代に撮影された学生映画でした。

『TURN POINT 10:40』(小中、1979)は、突如時間が逆行し始めた世界で、煮え切らないカップルが人類を救うという物語。宇宙船の特撮にこだわりを感じる壮大なSF作品です。

https://natalie.mu/eiga/news/532104より

『いつでも夢を』(小中、1980)は、昭和歌謡「いつでも夢を」に合わせて、高校生たちが歌う明るいミュージカル。本格的なミュージカル映画を作るための試作品として、ミュージックビデオ風に撮影されています。

https://natalie.mu/eiga/news/532104 より

『MOMENT』(手塚、1981)は、学生映画でありながら、試写会には会場に入りきらないほどの観客を呼び込んだという伝説の作品。怪しげな占い師に死を予言された女子高生ポッキーが、愉快な仲間たち、爆弾魔、心臓病の少年を巻き込んで過ごす最後の3日間をコミカルかつダークに描きます。

https://natalie.mu/eiga/news/532104 より

上映後は、小中和哉監督手塚眞監督が登壇し、約40年振りに撮影当時を振り返りました。

トークセッションでは、撮影秘話や当時の学生映画界隈の熱気など、興味深いお話をたくさん聞くことができました。
例えば、手塚監督の『MOMENT』には、金田一シリーズの作者・横溝正史がカメオ出演しています。それは事前に出演依頼したのではなく、偶然ロケ現場に居合わせたところをお願いして撮影させていただいたそうです。

デジタルカメラで簡単に映像を残せなかった時代に撮影された、高価なフィルムを大切に使って撮影された学生映画からは、「撮ること」の楽しさがひしひしと伝わってきました。
小中監督と手塚監督は、誰でも自由に映像を撮影し、公開できるようになった現在の難しさと可能性について語り、最後に、今の映画青年に向けて温かいエールを送りました。

「家族でも、友達でも、たった一人でも、それを見せる観客のことをよく意識して作品を作ってほしい」

これは映画に限らず、何かを伝えようと努力する学生が忘れがちな、大切な言葉だと感じました。


実写長編部門コンペティション作品『花心 ファーシン』

https://www.takahara-dst.com/artwork/fashin/より

東学祭の肝は、やはり学生映画のコンペティションです。

全国から多くの作品が集まり、今年は21作品が決勝に選出されました。イベント最終日には、審査を勝ち抜いたグランプリが決定されます。
最終審査を務めるのは、石井岳龍監督をはじめ、映画界で活躍されている豪華ゲストのみなさんです。

1日目に上映された『花心 ファーシン』(安本、2023)は、長編実写部門から選出された作品でした。
主人公の祐ニが、写真家である祖父の写真展の手伝いをしていた矢先、祖父の訃報に接します。「魂を吸われるから」と写真に映ることを忌避していた祖父をこっそり撮影していた祐ニは、その死に対して責任を感じます。
撮ることの恐ろしさと抗いがたい魅力に揺れる彼の前に、祖父のモデルを務めていた女性・麗が現れます。
「私を撮って、殺してほしい」
彼女の驚くべき嘆願に戸惑いながら、二人は少しずつ距離を縮めていきます…。

こちらも上映後に、安本監督、キャストの岸水小太郎さんと紗葉さん、ゲストの首藤凛監督によるトークセッションがありました。

『花心 ファーシン』は、安本監督の実体験がきっかけとなり、撮影されたといいます。
安本監督のお祖父様もまた写真家でした。
そして、監督がこっそり写真を撮った直後、実際にお祖父様が亡くなられたという点も、主人公の祐ニと重なります。

学生映画は特に、作品と監督の体験とが強く結びついている場合があります。
上映とセットで製作時の想いを聞くことで作品への理解が深まり、監督の今後を応援したいという気持ちが強くなりました。


まとめ 旅するように…

今回、東学祭に取材に伺い、新旧合わせて4本の学生映画を観ました。
いずれの作品に対しても感じるのは、若い感性が作り出したものの中には、そのときにしか見られない何かがあるということです。

その何かの内実は、時代を経て変わっていくでしょう。
もしかしたら、このようなイベントで観客が学生の中に見取った何かが、5年後、10年後の映画界隈の雰囲気を形作っていくのかもしれません。

今年の東学祭のテーマは「旅に出よう」だそうです。
作品を世に送り出した学生監督たちは、まさにこのイベントが広大な映画の世界への旅立ちとなるでしょう。

そして、私たち観客も、ただその後ろ姿を見送るだけではありません。
もし東学祭を通して「イイ!」と思えるような監督に出会えたとしたら、そこから私たちも旅の同伴者になります。
数十年後、雑誌か映画館で再びその名前を見つけたとき、いわゆる最古参として、長旅の成功を共に喜べるはずです。

だからみなさんも旅するような気持ちで、学生映画を応援してみてはいかがでしょうか。

東京学生映画祭のみなさん、この度はすてきなイベントにお招きいただき、ありがとうございました!

(取材・文 とり)


この記事が参加している募集

映画感想文

よろしければサポートお願いします🙇‍♂️いただいたお金は記事化など、みなさんの目に見えるかたちで大切に使わせていただきます!