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先輩は 空飛ぶ「ウルトラマン」

皆さんは  今までに何か危険な目に合ったことって  ありますか?

私はたった一度だけですが 絶体絶命のピンチに陥ったことがありましたので 今日はその話をさせてください

私は 会社の先輩である 千田さん(仮名)とよく 磯釣りに出掛けていました ある日のこと  その千田さんから 小魚しか釣れない磯釣りじゃ ちっとも面白くないので たまにはボートでも借りて ちょっと沖へ出てみようよ!  という提案があり 2人で手漕てこぎボート」を借りることにしたのです

4月の休日 相模湾を望む 漁港で借りた「手漕ぎボート」は 定員2名の小さなボートでした  ここで確認をさせて頂きますが …  漕ぎ手は ボートの船首に背を向けて座り 両手でオールを握って漕ぐことになります コレは結構 疲れます! 一方  残りのもう一人は  漕ぎ手と向い合わせに座りますが こちらは何もしないので  VIP気分でとても楽ちんです

千田さんは「じゃ俺が  先に漕ぐからさ~ … 後で換わってくれよナ」と言うと 釣り道具を抱えたまま  ボートに乗り込んで座りました 私も後を追う様にして ボートに乗り込みました

ふと時計に目をやると 朝の10時を少し回った頃でした

防波堤の内側は波が小さくて とても穏やかなので 千田さんがオールで漕ぐ度に ボートは海面をスーッ  スーッと滑る様に進みます  やがて  防波堤の切れ目付近に到達すると 千田さんは迷うことなく 外海へと漕ぎ出しました!

ところが … 防波堤をほんの少し 超えただけなのに 海底の色は  青色から  深くて濃い群青ぐんじょう色へと変化し 海が格段に深くなったことを容易に 想像させました そして更に10mほど沖に出た途端 … ボートが更に沖の方へと  流され始めたことに  気が付きました! 潮の流れは 防波堤の中とは まるで違っていたのです!

千田さんは 速い海流の勢いに負けまいとして オールをフル回転させていたのですが あれよ  あれよという間に 防波堤は  はるか彼方に小さく見えるほど 遠くなってしまいました! こりゃヤバい!と思ったのですが … 千田さんは この時 すでに ヘロヘロな状態です

もう釣りどころの騒ぎじゃなくなった私は「千田さん 換わるよ!」と叫びました 千田さんは黙って大きく頷くと おもむろに立ち上がりました … それは  “ 漕ぎ手を私にする” ために 2人が座る位置を  入れ換える必要があったからです!

ところで  ここだけの話なんですが … この千田さんが誰に似ているかと言えば … そうですね … サザエさんに出て来る「マスオさん」みたいな体形の人なんです 一方  どちらかと言うと「ジャイヤン」みたいな体形の私でしたから  両者を比べれば 体重差は  優に10㎏はあっただろうと思われます!

その千田さんが立ち上がり 私は身を低くして ゆらゆらと揺れる 狭いボートの上で 2人は反時計回りに  少しずつ移動して入れ換わろうとしました 

ところが 千田さんが9時の位置に立ち 私が身を低くして3時の位置まで移動した丁度 その瞬間 ボートは突然  傾きだして 体重の重い私は海側に沈み込み 体重の軽い千田さんはピョーンと私の頭上を飛び越えて 勢いよく海中へと放り出されたのでした
そうです! ボートは見事に  転覆してしまった訳です!


気が付くと … 周囲は真っ暗で 何も見えません!! 酷くビックリした私は パニックになり掛けたのですが … よくよく考えてみると 私は転覆したボートの内側に閉じ込められた状態になっていただけ●●でした!

思い起こせば … ボートがひっくり返る瞬間 ボートの底に敷いてあった木製の硬いスノコが  私の頭に落ちて来て ガツンと当たり 一瞬 気を失った様でしたが … 海水をガボッと飲んだお蔭で  すぐに正気を取り戻しました

もしボートの内部に取り残されたまま ボートと一緒に海底に沈んでしまえば もう命は無い! … と思った私は 船底に残っていた空気を胸いっぱい吸い込んで 少しだけ海底の方向に潜って  何とかボートの外へ 抜け出ることが出来ました!

その日の沖合は さほど波が高くなかったことが幸いでしたが しかし海上に突き出たボートの裏側に這い上がろうとしても 船底がヌルヌルした藻で覆われていて滑るため 2人共「しがみつく」のが精一杯の状態でした

当時は携帯など無かった時代ですから そのまま誰にも連絡が取れず  1時間ほど漂流したでしょうか? 幸いにも 他の魚船に発見され 貸しボート屋に連絡できたので 何とか 陸に戻ることができました

思えば「手漕ぎボート」を借りた時 … 貸しボート屋の主人から「沖へは出ない様に!」と注意されたにも関わらず 大したことはないだろうと 高をくくって 沖に出てしまった!ために 命を落としそうになった訳です

時計を見たら もうすぐ正午になろうとしていました

着替えなど持って来ていない2人ですから 海岸にボ~っと突っ立ったまま 4月の寒い潮風に吹かれながら しばらく衣服を乾かしました

私は 船が転覆した時に千田さんが  私の頭上を「ピョーン」と漫画みたいに飛び越えて行く姿を  何度も  思い出していました

それはまるで「怪獣を倒して  エネルギーの残り僅かな「ウルトラマン」が  胸の「カラータイマー」をピコン  ピコンさせながら「シュワッ」と言って 大空へ飛んで行く姿みたいだったなぁ~」と想像した途端に  笑えてきました

その日以来「手漕ぎボート」という言葉は  2人の間では  “禁句” になりました!


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