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越前和紙の里 紙の博物館 会場レポート

「助田あつお回顧展 ふくいガリバンものがたり」が2024年1月5日~3月25日(月)越前和紙の里 紙の文化博物館で開催されています。野の花をテーマにした心優しく豊かな気持ちになる繊細な作品を近くで見ることのできる貴重な機会となっています。
 
 そして、今回の展覧会のメインとなる「さいはての花シリーズ」は、北海道の礼文島に助田あつおさんの父茂蔵さんが、通い描かれた野の花の絵をふたりで謄写版をつかって制作された孔版画作品。繊細や色の版を時には数十版も重ね、丁寧につくられた作品は、どれも透き通った空気をまとうような凛とした美しさを感じられます。

越前和紙の里 紙の文化博物館「助田あつお回顧展 ふくいガリバンものがたり」会場

ポスターにもなっている「レブンアツモリ」。肌色のような薄いベージュの花に落ち着いたグレイッシュな緑色とでもいうのであろうか、そのなんともいえない繊細な色味。そして、生き生きとしたこんもりとした形に宿る存在感、いつまでみていても飽きないのです。自然な姿が、そっと表現されているような、その野の花の佇まいは、助田さんを知る人であれば、きっと、助田さんの佇まいと重なるのではないでしょうか。特に助田作品の中でもより極められた1980年代の作品群をまとめて見れる機会は少ないので、貴重です。

助田さんの孔版画「レブンアツモリソウ」

実際に作品を拝見したのは2006年頃でしたが、この作品が本当にガリ版で制作されているのだろうかと、2015年に助田さんの実演を拝見するまで信じられませんでした。あまりに自由で完成度の高い色彩豊かな美しく手の味わいのある世界に魅了され、当時、新聞づくりでさえままならない私は、到底同じ道具や技法だとは思えず、きっとガリ版と呼ばれる広い世界があり、その特殊な別のガリ版なのだと解釈するくらい雲の上の世界だったのです。そこから、実演を拝見することにより、なんと同じ材料、道具、仕組みを高度な手技により駆使した正真正銘のガリ版と同じ方法であることをやっと認識できたのでした。

しかし、もちろん、戦前から謄写版の優れた職人として印刷所を営んでこられた父茂蔵さんの技術を受け継がれてきた方なので、同じであってもそこには神業のような手業や知恵や工夫があることは、明らかであると気づかれるでしょう。

しかし基本的には次のようです。

謄写版の版のロウ原紙をヤスリにおいて、鉄筆とよばれる道具をつかって、ロウ原紙に孔をあけて製版し、その版を木製の印刷器に熱ゴテなどで貼り付けて、油性のインクをローラーで上から圧縮するように刷るという流れになります。助田さんは、製版のときに特殊な技法を使い、1枚ずつ水彩画のような濃淡を表現されます。時には数十枚の版を色ごとに順々に刷って、深みと味わいのある世界をつくりだされるのです。

その方法は、今回のワークショップでもみなさんの制作時間の邪魔にならない範囲で助田さんの資料を使って少し紹介させていただいています。

気の遠くなるような仕事に誠実に向かい合い、時間と情熱を注がれた作品であることがより一層伝わると思います。


助田さんの孔版画「ザゼンソウ」

会場にある私家版もぜひ、じっくりご覧ください。そして、垂れ幕になっている助田茂蔵さんによる「ガリバン人生」もぜひ、読んでいただけると、ガリバンと共に歩む人生がとてもの面白く、そして、様々な可能性を秘めていることを改めて気付かされます。

助田さんの私家本


助田さんの私家本の一ページ

時代は刻々と変化していきますが、助田さんの作品の世界をみつめていると、時代に流されることなく等身大の自分でいることの尊さ、小さな野の花に宿る真の強さやしなさかさに癒され、勇気をもらうような気がします。

写真では写りきらない繊細な表現なので、ぜひ、本物の作品をみられる機会に足をお運びいただけたら幸いです。

                            水口菜津子

※許可を得て、撮影させていただいています。会場は写真撮影が禁止になっていますので、ご了承ください。

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