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未完成の美。人間を知りたいならこれを読め。

 夏目漱石は自筆の広告文で、『人間の心を研究する者はこの小説(こころ)を読め』と書いたそうです。『こころ』誰しも耳に馴染みがある小説ですよね。

 学生の頃に読んだという方も多いんじゃないでしょうか。漱石の広告文をふと思い出して、久々に手に取ってみたんですが、膨大な内容量ですね。文章が多いというよりは、量が多いと感じます。

小説って、ラストに向けて期待を大きくながら読みますよね。どうなるんだ!?という。

 唯この『こころ』は、ラストは予見出来るし、大きな変化もなく淡々と進みます。漱石の倫理観の結論も冒頭で出てくる。(読み返さないと気付かないけど)

 ただひたすらに微妙〜な心理描写を描き続けているんですよね。最初から最後まで読みきった人は意外と少ないんじゃないかなと思います。何度か飽きが来る。笑 一気に読めた!気づいたら日が沈んで暗かった!みたいな没入感たっぷりタイプの小説ではありません。

ただ私的にはめちゃくちゃ好きな小説です。何故か。未完成の美。『完成していない』からなんです。

 物語の中には無茶苦茶矛盾点も多く、かつ描かれなかった部分が無茶苦茶多いんです。色んな方の書評を見ると、総じて漱石は『続きを書くつもりだった』みたいですね。

 唯未完の様な形で終わらせた事に絶大な魅力を感じます。彼が生きた時代(明治天皇の崩御、近代から現代への激動の期間)での彼の葛藤や倫理観、答えを探すようで探せなかった矛盾と、その矛盾を読者に託した(読者というのは2019現在の読者も含めて)んだと思います。

時代により価値観や倫理観は変化する。だからその答えを後世に託した。

そう解釈するとめちゃくちゃ面白い小説です。

加えて。未完成の美。というのがあると思います。想像する余地、参加させる余地を残す事で、受け手により没入感を与える。

例えば地下アイドル。

アイドルとしては完成してないけど(失礼)、応援できる事(経済的にも仕組み的にも)、ライブを一緒に作ること(参加)があってこそ楽しいのかなと思うんですね。完成されたアイドルを唯見るだけじゃない。自分達(客)が参加する事でライブは盛り上がり、CDやグッズを買う事でアイドルが完成に近づくんだという『余地』が大いにあります。

例えば未完の漫画。

作者が亡くなったなどの理由で完結していない作品も多いですよね。
ファンの間であーでもないこうでも無い、想像して議論する事で、それぞれの世界観と結末を楽しむ事が出来ます。

この小説『こころ』も、読者に想像させる余地と、読者1人ひとりの『結末』を決めさせてくれる楽しさがあるんですね。

そして何より、登場人物が弱い。『人間らしさ』ってあったか〜い意味で使われる事が多いと思うんですが、そうでなく、慾も残酷さも、エグさもグロさも全部引っ括めた『人間らしい』を感じられます。太宰治の『人間失格』然り。

理想論で語られない『人間らしさ』には勿論矛盾も沢山あって、作品としても矛盾してる所がある事で、その『人間らしさ』も表現しています。

書評っぽくなってしまったのでこの辺で。

 これからは『未完の商品』が売れていくだろうなと思います。敢えて完成形を渡さないLEGOやジグソーパズル、デアゴスティーニ。昔からありますよね。

 心理学用語で『ツァイガルニク効果』と言います。『続きが気になる!』からの『続きを自分で作りたい!』というビジネス。
顧客参加型のビジネスモデルを増やしていきたいですね。

 小説もこの余白を楽しめる作品が最高です。教養書やビジネス書は全部答えを用意している点はつまらない。ビジネス書も画一的なものばかりなので、敢えて余白を作っておいて、Twitterなどでその余白を読者に埋めていってもらうスタイル、楽しそうじゃ無いですか?善悪や美醜の答えは受け手1人ひとりが決めた方が面白い。

そういえばサクラダファミリアはいつ完成するんでしょうね。そろそろでしたっけ?自分の人生を終えても完成しない作品、興奮しますね。笑

自分もそんな作品を生み出していきたいです。

#コラム #こころ #書評 #夏目漱石

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