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【読書レビュー】複雑な彼/三島由紀夫

私は無類の三島由紀夫ファンです。
作品はもちろん、その生き様も含めて
唯一無二の魅力をもった作家だなと思います。
彼が書いた言語で彼の作品を読める。
私が日本人に生まれ、日本語を母国語にしていて
本当に良かったと思わせてくれる作家です。

はじめて読んだ作品は「禁色」
私は映画「戦場のメリークリスマス」が好きで
私の好きなミュージシャンが
あの坂本龍一の曲に歌詞をつけて歌っていて
そのタイトル「禁じられた色彩」が
三島由紀夫の「禁色」から
取られたと知り読んでみたのがはじまり。

あの頃の、特にイギリスのミュージシャンには
三島由紀夫を読む人が多かったのです。
デヴィッド・ボウイとか。

当時、私はまだ高校生になったばかりで
同世代の子たちより本はよく読む方でしたが、
それでも難しい言葉が多く、
国語辞典を引きながら読んだことを覚えています。

三島は教科書や読書感想文の
推薦図書になりそうな純文学はもちろんのこと
45歳で亡くなったとは思えないほど多作な人で、
美輪明宏主演で有名な「黒蜥蜴」など
芝居の脚本の他、
自ら立ち上げた私設軍隊の活動資金を捻出するために
女性誌に軽い小説を連載していて
これが当時とても人気で
出版されるとすぐに映画化されていました。
私の母などは、私が三島にハマるまでは
三島は劇作家だと思っていたくらいです。

この「複雑な彼」は
そうした軽い小説のうちのひとつです。
安倍譲二という
私よりも年上の方ならきっとご存知の作家
(「塀の中の懲りない面々」など)を
モデルにしていて
彼のペンネームは、自分がモデルのこの小説の
主人公の名前から取っています。

驚きなのは、ドラマか映画でしかありえないような
きらびやかで波乱万丈な主人公の経歴が
ほぼ実話だというところ。
戦後の混乱期のなせる技なのか
安倍譲二という人のスケールの大きさなのか。

良家のお坊ちゃんだった三島が
自由奔放な彼のことを
羨んだのだろうなということが
行間から伝わってきます。

お金のために書いた軽い作品だからといって
けっして手を抜かず、
肩の力が抜けている分
三島がどういう人間の振る舞いやあり方を
美しいと考えていたのかが
かえって丸裸になっています。
表紙カバーが昭和の風味ぷんぷん。
高度成長期の日本の雰囲気も堪能できます。

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