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ゴングが勝手に鳴り響かないようにするために

 飲み会のお誘いが来るようになった。とはいえ、私の仕事場は色々とやんごとなき事情もあるので、参加するのは他の(教員ではなくて)職員さんの出勤状況とか、抱えている仕事状況とか(飲み会の2−3日後に発症して、1週間出てこられなくなった場合に大丈夫か?)を考慮してお返事することになる。コロナ禍前と違って、お断りしやすくなったなぁと思う。以前は「XXX(=私)は当然参加するでしょう」という感じで、最初から頭数に入っていたものだった。

 これは、これでいい変化だなぁと思うし、数年間も家飲みばかりを続けて、すっかり家飲みの居心地の良さに慣れてしまった自分もいる(結果的に酒の量は増えているのが問題だ)。なので、本当に語らいがしたい時に参加するというチョイスが出来る、良い時代になった。


 先日のこと。久しぶりに休みがとれて、私のような底辺研究者とは違う、とても偉い先生(もちろんだいぶ年上)と一緒にキャンプに行った。前回にテントを張ったのは去年の夏休みなので、本当にひさしぶり。とても良い天気の週末だったにも関わらず、キャンプ場は以前ほどの混雑ではなかった。顔なじみの管理人さんとも久しぶりにゆっくり話すことが出来たのだが、このところはこんな感じだよ、とのこと。どうやらキャンプブームも一段落かもしれない。でもブームのおかげだろう。キャンプ場のトイレがキレイに刷新されていた。キャンプブームに感謝だ。

 このブームでキャンプの楽しさを覚えた方々は、頻度は下がっても我々みたいにずっとキャンプに行くだろうし、うちみたいに次世代を連れて行くようになるだろう。楽しさが次世代へと伝わっていけば良いなと思う。私と妻は学生時代に(旅の宿代節約目的で)キャンプを始めた。子供が生まれてからは、子育てと仕事の両立に加えて、とにかく色々なことが重なって殆どいけなくなった。年に1度、河原でテントを干すだけなんてのが何年か続いたが、やっぱり家族でキャンプに行くようになった。こうやって再びブームが来て、色々なアイテムも買い揃えることが出来て本当に有り難かった(その代わり、荷物の置き場という問題は生じている)。夢としては、いつか孫を連れてのキャンプをしたい(ただ、子供には子供の選択肢があるので実現は難しいかもと思う)。

 そんなこんなを、とても偉い先生と久しぶりにゆっくりと酒を飲みながら話した。翌朝も良い天気だったので、テントもしっかりと日干し出来たし、丁寧に畳むことも出来た。これならしばらくテントを封印しても大丈夫だろう。梅雨よ、どんとこい。なんだか久しぶりにのんびりとした休日を過ごした。


 そして新年度が始まった。だが、いきなり怖い事が起きる。年度末の某委員会で空気を読まずに意見を出したのだが、その委員長(=キャンプに行ったのとは別の"ちょうえらいせんせい")に研究棟ですれ違った際に挨拶したら、露骨に睨まれて無視された。空耳だろうと思うのだが、舌打ちが聞こえたようにも思う。

 うちのボスには「敵を作るな」と教わった。それを徹底してきたつもりだったが、どうも失敗したか。結局のところ、貧乏が悪い。学内で限られた予算で出来ることには限界があるし、みんながそれに群がるなかで、恐ろしいほどに上がった光熱費をなんとかしないといけない。自分では正論というか正しいと思うことを言ったつもりだが「ちょうえらいせんせい」からすると下っ端のくせに、となったのかもしれない。いやはや、こんな魑魅魍魎の世界で、あとXX年も頑張れるかなぁ・・・と新年度早々に溜息ばかりしている。

 講義もどんどん始まり、新しいメンツでのゼミも始まった。3月のゴールまで、気を抜かずに頑張っていかねばならない。挨拶を無視された(+舌打ちをされた?)「ちょうえらいせんせい」とは、極力、顔をあわせないようにしよう。あのフロアには近寄らず、なるべく関わらないようにしよう。先代の教授はいい人だったよなぁと懐かしいことを思い出す。

 私は権力を欲する人々とはなるべく距離を置きたいと思っている。どこで自分が巻き込まれているのかよく分からないし、そもそも偉い人達の空気を読むことが苦手だ。確かに、とても身分が偉くても一緒にキャンプにいって、一緒に酒を飲む方もいる。私は身分とか年齢とかあまり意識せずに、分け隔てなく付き合っているし、相手の肩書きをみて意見を変えることはしない。ただシンプルに状況を鑑みて自分の立場から言うべき意見を出しているつもりだ。しかし、そう思わない人達もいる。飲み会の取捨選択がたまたま良くなかったかもしれない。

 そういえば学会でも面倒毎に巻き込まれたばかりだった。ちょうえらい先生とちょうえらい先生がバトルを始めたのだ。別の先生から両方の先生が納得いくようなゴールを作ってと依頼されたが、(以前にもこんなことがあったなぁと思いつつ)ちょうえらい先生が繰り出す必殺技が怖かったので逃げた。この怪獣バトルは自分には荷が重すぎるので、モブでいさせてください、と。

 世の中はよく分からんなぁと溜息が出るが、とにかくゴングが勝手に鳴り響かないようにしなければ。私のことを快く思っておらず、敵意を向けてくる人がいる。こういう時、SFならば、どこからか戦い方を導いてくれる存在が現れるのだろうけれども、私の前にはヨーダもガンダルフも現れない。天の声もない。逃げるが一番だ。面倒なことから距離を置くために、しばらくは耳と目を閉じて口を噤もう。飲み会も、暫く何らかの理由をつくって断ろう。学生と実験するのに集中したい。GWも論文書きに集中しよう。そんな誓いをたてた新年度の始まりだった。

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