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映画館マナー警察の厳しいお言葉に思う

 先日の夜、久しぶりに知人と飲みにいった。その数日前にはコロナ禍に赴任した隣の部署の先生と、ようやく飲みにいった。コロナ前に飲みに行くのを約束していた卒業生と、再び連絡をとりあって飲みに行く日程を決めたりもした。なんとなく日常が帰りつつあるのを実感するが、やはり「いま罹ると、来週の仕事が・・・」というのが気になって仕方なく、やはり落ち着かない。少人数で、平日の夜に、なるべく個室で、と繰り出すようにしている。

 そんな酒宴の席で「映画」の話題になった。いや、映画ではなく、「映画館」の話題といった方が正しい。新しく出来た映画館ではビールが売られているとか(ド田舎にしては珍しい)、ついに値段が2000円になって、もはや映画館の鑑賞は娯楽ではなく「贅沢」だよね、という話とかだ。

 映画館の話になり、昔のことを思い出して懐かしくなる。

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 私がまだ中学生だった頃は、2本立て映画ってのがあって、中学・高校生料金で2本の映画が見られた。なので一人で良く地元の映画館に通っていた。ぴあを買って調べては、母親に「この映画がみたい」と小遣いをせがんで映画を見に行くのが楽しみだった。なんというか一人で映画を見るというのが大人の仲間入りをしたような気分だったのを覚えている。休憩時間にトイレに行って戻ると良い席がとられていたりして悔しい思いをしたものだ。

 高校生になってからは一人で大都会にいって、いわゆる「単館」を回ったりしていた。ちょうど、そういう単館系がブームだった。とても有名になった単館映画も鑑賞した。単館を回るのが単純に楽しかったのだ。行ったことのない映画館に行くというのが楽しかった。周りにそんな友人はいなかったので、きっと一人で大人の世界に入ったつもりでいたのだろう。

 大学生の時には単館系の映画館で大失敗をやらかした。高校生の頃に付き合っていた彼女とは遠距離になってしまった。帰省の際に久しぶりのデートということでいわゆる単館系の映画館に誘った。その単館系の映画館は、入り口のすぐ近くに立ち食いの焼き鳥屋があり、そこで一杯引っかけてから映画を見るというのに憧れていたのだ(流石に高校生には立ち食いの焼き鳥屋はハードルが高かったので出来なかった)。しかも人づてに聞く話だと、その焼き鳥がたいそう美味いという。

 大学生になり、飲み会もそこそこ経験して、よしということで彼女を誘って、立ち食いの焼き鳥+ビールからの単館系の映画だったのだが、今になって冷静に考えれば、全てがダメだ。久しぶりの再開で、積もる話もあるのに映画はどうだろうと思うし、そもそも大学生になったとはいえ、未成年カップルが、おっさん達に交じって立ち食いの店で呑むというのも、どうかしている。だいたい自分の趣味を押しつけすぎだ。当然だとは思うが、結局はその後にふられた(ただし、そのデートそのものが原因ではなかったようにも思う)。

 そんなこともあってか、大学生になってからは、いわゆる単館に通うことはあまりなくなった。それどころか映画館にいく回数も減った。理由はレンタルビデオ屋でバイトを始めたからだ。そこは社割と称してもの凄く安い値段(旧作なら10本でいくらとか)で借りることが出来た。名画から新作まで、ひたすらに借りまくった。アカデミー賞を賞ごとに遡ってみたり、俳優縛りで遡ったりと、とにかくたくさんの映画を見た。映画館を巡る楽しみよりも、映画そのものに興味が移ったといえば格好いいのだが、たぶん、というか間違いなく、高校生の自分がちょっと背伸びをして単館を回っていた、あの「背伸びをしている高揚感」がなくなったからだろう。大学生になってからは、どちらかといえば娯楽というよりも教養に近い感覚で映画を吸収していたように思う。

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 今思いだすと、高校生の頃に単館に集まっていた人達は、(高校生だった私から見れば)本当に映画が好きな人達なんだと憧れていた。みんな凄くいい顔をして映画を見ていたように思う。上映後の拍手とかもあった。映画館で、映画をすごく楽しんでいたと思う。あの頃に一所懸命にみたマニアックな映画のタイトルは(その後の人生で繰り返し何度も見ている、ある映画を除いては)あまり覚えていなくて、頭の中に残っているのは、その映画館の佇まいと、なんとなく映画好きな1人になれた気がしたという思い出だ。

 もちろん先日の酒宴の席で、自分の映画遍歴などはみじんも出さなかった。おっさんの昔語りなんて酒の肴にならない。noteで書き殴るぐらいがちょうどいい。

 それに最近は殆ど映画館に行くことがないのだ。理由はシンプルだ。このところ、SNSなどで映画館でのマナーの悪さを罵るのを良くみる。しかも、それがバズるのだ。今日もあんなのは人間じゃないと書き込まれていた。いわゆる映画館マナー警察なのだが、このところの映画館マナー警察の取り締まりの厳しさは、映画料金の値上げも絡んで、その場に求める環境というか理想も上がっているのだろう。だからこそ、怒りも相当で、罵り方も激しかったりする。

 分かる、分かるよ、せっかくの贅沢で2000円も出して、集中して大きなスクリーンで堪能しようって時にマナーの悪いのがいたらむかつきますよねぇ。そうですよね。映画通の方々にとっては人外なんでしょうね、そういうのは。

 先日の飲み会で話題になった時も「ポップコーンを売らないで欲しい」というご意見が出ていた。なぜ????と思って聞いたら、咀嚼音がうるさいし、ぽろぽろ落ちてゴミになったりするし、甘ったるい臭いがするフレーバーがついてたりとかで集中できないしで、あれは売らないで欲しい、ということらしい。へーーーーーと思う。そういう考え方があるんだと驚く。

 なんというか・・・・・映画館が殺伐としているよなぁと思うのだ。自分の側がノイジーマイノリティなんだろうという覚悟のうえで書くのだけれども、エコーチャンバーの中でバズって同調意見とかが凄い勢いで集まるのを見ていると、、、ちょっと怖いんですよね。以前にも話題になった時に思ったのだけれども、あのようにきっつい口調で書き込んで同意が集まって、より汚い言葉でマナーの悪い客を罵り合うのって、正直なところ、見てて気持ち怖いのです。カルトっぽいというか。なんともいえない気持ち悪さがある。なんだか映画館って楽しい場所だったのに、いつのまにやら座して息を潜めて全集中で一心不乱に見ろ(それが嫌なら家でみろ)みたいな場所になったんだなぁと。

 僕が中学生・高校生の頃に通っていた映画館では色んな人がいて、すっごく楽しそうに映画を見ていた記憶があるんですよね。なんだかなぁと遠い昔を思い出して、もう映画館という場所は贅沢で高尚な趣味の方達の集う場所になったのかもと、映画館マナー警察の方達の活躍を見ていて思うのです。もう年をとってきてトイレが近くなったこととか考えると、トイレのために席を絶つことすら怒られるんじゃないかと思ってしまい、映画館からは必然的に距離をとってしまいます。

 ゆるく楽しく見たかったら、もう自宅で見る方が良いんですね、きっと。笑えるシーンで笑えるし。ビール飲みながら、ゲップとかしても許されるし。感動するシーンで鼻水すすっても怒られないし。トイレにもいけるし。SFとかは大画面で見たいと思うのですが、このところのマナー警察さん達の厳しい視線を考えると、家でゆっくりがいいなぁと思ってしまいます。映画館業界さん、ごめんなさい。あんなにかつては楽しませてもらったのに。僕ではお役に立てそうにないです。

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