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バシェ音響彫刻に見る、造形と音響の共鳴

超希少楽器、バシェ音響彫刻勝原フォーンのサウンドを求めて、11月にアーツ千代田で開催していたサウンド&アート展に行ってきました。

サウンド&アート展については、一応全部回ったけど、会場内が無秩序にうるさかったのが…(テーマ上仕方ない話で、作品が悪かったわけではないので、念の為)楽しかったり思うところもあったりするけど、割愛。

で、これがその勝原フォーン。

勝原フォーン

面構えが良すぎる。

バシェ音響彫刻って、なに

バシェ音響彫刻は、フランスのバシェ兄弟、音響技師の兄と彫刻家の弟の二人が考案・製作した、自由に演奏ができる造形作品です。誰でも触れるパブリックアート式の作品や、個人演奏家所有の小型のクリスタルバシェなど、様々な形状のものがあります。

音を鳴らす構造は発音部、共鳴部、拡声部などが、材質や形状、組み方まで綿密に計算されていて、機能性が見た目の優美さに昇華されています。設計図はあまり残っていないようですが、その音響工学的な技術は体系化されていて、バシェ兄弟による音響彫刻の解説書もあります。

勝原フォーンは特に大型で、大きなアルミ板を共鳴させて、電気を一切使わずに結構な音量が出せます。全体が共鳴する様にデザインされていて、どの部分でも叩く・擦る・弾くなど、自由な発想で演奏できるのが特徴です。

大阪万博とバシェ音響彫刻

そもそも勝原フォーンは1970年の大阪万博で展示・演奏されたバシェ音響彫刻群のひとつで、他に”高木フォーン”、”川上フォーン”、”桂フォーン”、”渡辺フォーン”の全5台が残っています。企画は日本を代表する現代音楽家、武満徹。

これらは大阪万博のためバシェ兄弟が設計して、日本人技術者の協力で製作されました。どれも大型で見映えもいいんですが、万博終了後はバラされて倉庫にしまわれていたそうです。昨今復元話が持ち上がり順次復元され、復元不能として最後まで残された勝原フォーンがなんとか復元されたのが2017年。

バシェ音響彫刻との邂逅

復元後はあちこちで公開や演奏がされてたようです。2020年には川崎にある岡本太郎美術館で開催された「F・バシェ生誕100年、日本万国博覧会から50年 音と造形のレゾナンス-バシェ音響彫刻と岡本太郎の共振」(長いな)で5台揃って展示されました。自分は知識としては知ってたけど、これがきっかけでバシェ音響彫刻に興味を持ちました。

期間中土日には演奏会などのイベントが予定されていましたが、時期が時期でほとんど中止になり、自分も混雑を避けて平日の朝イチで行ったものだから、肝心の生の音は聴けずじまい。

とはいえ実物の造形や資料を見ただけでもインパクト抜群で、俄然興味が湧いたので、帰ってすぐバシェ音響彫刻について音源や資料をインターネッティングしまくりました。先述のLes Sculptures Sonoresも、なんとイギリスから取り寄せてしまいました…。

Francois Baschet - Les Sculptures Sonores

そしたら日本からの注文が珍しかったのか、CDが大量にオマケされて届いた(笑)

サウンド&アート展での展示

そんなわけで生で聴く機会を待っていた自分は、先述のサウンド&アート展で勝原フォーンの演奏があると聞いて、秒でチケットを取りました。

プログラムとしては日本バシェ協会会長の永田先生によるトークとデモンストレーションで、バシェ氏の人となりや復元の苦労など、勝原フォーンにまつわるお話を聞いた後、実演を拝聴。

サウンド&アート展での永田砂知子さんによる演奏

才のない言葉で書くのも野暮ですが、鉄骨やピアノ線などの鋼材そのものの純粋な共鳴が、見た目も含めてこれほど優美に豊かに響くことに驚きました。バリで聴いたガムランのようなハイパーソニックみがある。設計図がなくチューニングも謎だったのを、永田先生は日本の音律で合わせたそうですが、へんにそれを印象付けすぎない、自然ないい響き。奏法も自由で、バチ、スティック、手指と、使う道具によってクルクルと表情が変わり、多彩な音を楽しめました。子供の頃、団地の柵を叩いて鳴らして遊んでたのを思い出した(笑

永田先生の勝原フォーンの演奏は、こちらの音源でじっくり聴くことが出来ます。2017年東京芸大でのライブレコーディング。気に入ったら是非買ってください(サポーターに俺しか載ってない!)

そしてパフォーマンスの後、まさかのお触りタイムが…!恐る恐る触りましたが、貴重な体験が出来ました。

感染対策でビニ手をつけてました
裏側

終演後に永田先生といろいろお話させて頂きました。バシェが書いた理論書「KLANG OBJEKTE」の和訳出版の嘆願が、この日もう一つの重要ミッションだったので、伝えられてよかった。ホント日本語の資料がないのでね…。

他の展示室では教育向けに作られた、小型のバシェ音響彫刻が展示されていました。自由に鳴らしていいと言われても、いざやってみるとヘッポコな音しか出せず、結構難しいものです。

おわりに

音響彫刻自体も魅力的ですが、音響工学的な技術が良いインプットになりました。やはり美しい音響は美しい造形から生まれるんだなぁ。電子音響も例外ではないのかもしれない。

その他のバシェ音響彫刻については、収録音源が配信などでも色々あるので、少し紹介しておきます

バシェの中でもクリスタル・バシェは平均律の鍵盤や弦楽器に近く、特に”映える”音響彫刻なので聴きやすい。YouTubeで検索するといろいろ出てくるはず。

以上、日記のような解説のような中途半端な記事になっちゃいましたが、少しでもバシェ音響彫刻について興味を持ってもらえれば。

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