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空想を頼りに。

この自粛期間とともにちょうど山菜やたけのこの旬がやって来て、つかの間、いつもの日常を感じさせてくれています。

山菜は、初春のふきのとう(ばっけ)から始まって、タラの芽(たらぼ)、うるい、こごみ、こしあぶら、ふき、わらび、みず…と5月末くらいまで3〜4ヶ月、旬が移りながら、季節限定の味を楽しむことができます。

私は仕込みの時、手にした食材の状態を感じながら、遠い産地を想います。

↓土の香りが芳しい朝掘りたけのこ 山形県鶴岡市 五十嵐大輔さん

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仕事にムラがあっちゃいけないけど、いつもより時間がある分、より手間暇かけた仕事、下処理が出来ます。

産地ではどう食べるのかなぁ?
生産者さんの食卓にはどんな形で上がるのかなぁ?

…空想は膨らみます。


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山菜とチーズやガーリックオイルが合うと知り、ピザを試作してみたり。

今まで通りの忙しい日々だったら、ゆっくり生産者さんと連絡とって、届いた食材の声を聞き、産地に想いを馳せる余裕なんてなかったかもしれない。

苦境ですが、ぽっかり空いた時間は大切なことを気づかせてくれます。

目の前にお客様がいるということが、どれだけ幸せか。

目の前で、美味しい〜と言っていただくことが、どんなに嬉しいことか、痛感する日々です。常連さんの顔にホッとして、ふいに泣きそうになったり。

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↑岩手県釜石市佐々木洋裕さんのドンコのたたき

私は、ライブ感を大事にしたいので、料理は出来立てに限ると思っています。

お刺身をテイクアウトにしているお店さんもあるようですが、鮮度や食中毒を考えたら、私は心配性なので不安です。

こんな時でも来てくださる方々は、本当に貴重です。そして、通常営業が出来ない今、空想を大事に、お持ち帰りくださるお客様の、食べるシーンを想像しながらなんとかやっていますが、やっぱりモヤモヤ。

たかだか1ヶ月半くらいの状況、されど…。

美味しいと分かっているものをじゃんじゃん出せないもどかしさ。

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一方、生産者さん達は、食べる人の姿をほとんど知らないで、黙々と作る、獲る。その苦労を想像すると、こちらのリアクションをお伝えしたい、しなきゃと思います。

最近は、仕込みの合間の空いた時間で、生産者さん達と連絡を取ることもできるようになり、美味しい食べ方をお聞きしたり、どんな料理にしたかご報告したりしています。

生産者さん達は、熱い想いと丁寧な仕事、抜群の鮮度で届けてくれます。空想をいっぱい働かせて食べる人の為に対応してくれているのです。その気持ちをありがたく受け取り、繋ぎたい。

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↑岩手県山田町佐々木友彦さんの赤皿貝のお刺身

自粛期間が長引く今、ポケマル 食べチョクといった生産者さん直送サイトが人気とか。

魚を下ろしたり、山菜を丁寧に下処理したり、パンをこねたり。忙しくてじっくり向き合えなかった料理を、楽しんでくれる人が増えたら、それはそれで嬉しいことです。産地から距離はあれど、生産者さん達の想いも直接受け取ることが出来るし、ごちそうさまを伝えられる。

食べものの来し方、成り立ちを空想し、触れ、実感することで食に対する関心を深めてもらえたらいいですね。

おまけレシピ

〜ドンコのたたき〜

ドンコといえば、どんこ椎茸を想像しがちですが、三陸でドンコと言えば、エゾイソアイナメという深海魚です。フワフワの身と肝の旨味が特徴で、鮮度落ちが早いので、新鮮なうちしかお刺身では食べられません。あとはぶつ切りにしてドンコ汁にしますが、旨味があって美味しい出汁が出るので、ドンコは丸ごと楽しめる魚なんです。

①ドンコをウロコと頭、内臓をとり、三枚におろします。

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②肝は塩もみをして、15分くらい置き、沸騰した湯で1分茹で、氷水で急冷します。

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③おろした身の皮と骨を除き、包丁で細かく叩きます。途中でネギ、大葉など薬味も入れて一緒に叩きます。

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④そのまま、わさび醤油でも、なめろう風に生姜と味噌叩きにしても美味。

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おいでくださりありがとうございます。 不器用な料理人、たぬき女将が季節の食材、料理、方言にまつわるよもやま話を綴っています。おまけレシピもありますよ。