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人の心に残るのは結局、普段の何気ないごはんなのかもしれない。

友達にもらった梅で梅干し(土用干ししてないから梅漬け)漬けたのだけど、おばあちゃんの作ってたみたいな、しょっぱすっぱくはならなかった。


塩分20%でやったけど、意外と食べやすい。


寝かすとさらにまろやかになるというから、もしかしたらさらにマイルドになるかもしれない。いただいた梅の熟し方や特性もあると思うのだけど、なんだかフルーティでジューシー。

一昨年、別の友達にいただいた梅はアクが強くて、結構難儀した。やっぱり、料理はなんでもレシピ通りとはいかない。素材を見て、触って、その素材ごとの扱い方や味付けを考えなきゃいけない。

いつも私が目指したいのは、ばあちゃんのしょっぱすっぱい梅干しだ。ちょっと置いておくと岩塩みたいな粗い塩の粒が浮く。干してるのに柔らか過ぎず、適度なカリカリ感もあり、耳の後ろがギュンとなるほどにすっぱかった。

それはまさに、よそにはない、唯一無二の味。

そんなしょっぱすっぱい激しい味の梅干しなんて、苦手な人も多いかもしれないし、実際、小さい頃は苦手だった。けれど、小学生くらいになったら、ばあちゃんの梅干しがのったお弁当のご飯の、梅干し色と風味のついた部分のご飯がなんとも言えない美味しいとこになっていた。強烈な梅干しのおかげか、お弁当であたったことはない。

実家を離れてから、ばあちゃんの作ってくれた梅干しを恋しいと思う事があり、時々、お米や野菜と共に送ってもらった。

その梅干しは空いたネスカフェの瓶にぎっちり詰まっていたり、ふたの微妙に合わないタッパーに入ってきたり、きれいに洗ったペヤングソース焼きそばの容器に入っていたり。大雑把なばあちゃんらしく、毎回がちょっとサプライズだった。

今、郷土料理を守り繋ぎたいと思っているけど、師匠であるばあちゃんはもういない。唐突に居なくなってしまったから、最後の漬け物や味噌がとてももったいなく、冷凍庫に残されたいつ仕込んだかわからないあずきですら愛おしかった。料理始めてからも色んな料理の作り方を聞いていたけど、全然知らない事ばかりだなあと改めて思った。でも、気づいた時はすでに遅しだった。

ああ、あの梅干し、いま思い出すだけでも、唾がでてくる。

ばあちゃんは味噌も漬け物も上手だったし、普段の郷土料理も親戚や近所にも評判だった。料理番組をメモしたり、新聞のレシピを切り抜いて取っておいたり、勉強熱心でもあった。

ほめられると「田舎料理だども」と言いながら、恥ずかしそうに喜んでいた。「どうやってつくるの?」「どうしてもこの味が出ないのよね」と言われるところもよく見た。ずっと作ってきた人の感覚や手から出る謎の酵素?美味しいの素?やコツはどんなレシピにものってない。

私は料理人だから、どちらかと言えばハレの料理を作ってお出ししているけれども、本当に人の心に残るのは、何気ないケの日の料理なんだと思う。どんなにすごいシェフでも、家庭料理はマンマの味にはかなわないよ、と言うように。  

おうちで毎日一生懸命ご飯を作り続けている人は、それだけで尊い。

私も、人の心をじんわり温める料理を作り続けられたらいいな。

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↑お刺身の梅しそ和え


おいでくださりありがとうございます。 不器用な料理人、たぬき女将が季節の食材、料理、方言にまつわるよもやま話を綴っています。おまけレシピもありますよ。