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【消滅可能性都市にならない街は】

1.    消滅可能性都市とは何か

 総務省統計局によると2008年が人口減少元年で、現在はもう人口減少社会が定着しています。住まいに関する人々の意識や生活感覚も少しずつ変化して、県庁所在地の駅前にもシャッター商店街が出現するまでになってしまいました。街の活気が失われると人口流出に拍車がかかり、高齢化率が上昇し、限界集落への道を辿り始めます。そんなことには絶対になりそうもない東京23区内の豊島区が「消滅可能性都市」に選ばれたことは衝撃でした。「消滅可能性都市」とは日本創生会議が2014年5月に公表したもので、「少子化や人口移動などが原因で将来消滅する可能性がある自治体」のことで、「20~39歳の女性の数が2010年から2040年にかけて5割以下に減る」などの基準で評価されて896の自治体が選ばれました。

2.    何故消滅可能性都市なのか

 豊島区は何故そう評価されたのでしょうか。豊島区の人口動態統計は2006年から2018年までは増加傾向なのですが、①転出入が活発で定住率が低い。②単身世帯の割合が多く、その半数が若年世代である。などの理由で「消滅可能性都市」と判断されました。交通の利便性は良好で、職住遊接近型の暮らしができる立地条件で、若年世代には魅力的な地域であるはずなのに、建物が密集しているので大規模な公園が少なくて、ファミリー向けの住宅供給も少ないという街の形態が問題視されました。子育て世代になると転出するから少子化が加速すると判断されました。
限界集落も消滅可能性都市もその原因は若年世代の流出です。少子化という社会の変化で宅地の新規需要は激減し、放置された空き家が増加しています。そうなると既存の宅地が宅地とは言えなくなります。空き家や空き店舗の増加が止まらなければ、その街全体で土地や建物の価格が下落します。そして街の活気が失われ、周辺の集落は衰退し、徐々に消滅していきます。

3.    消滅可能性都市にならない街は

 若年世代が子育て世代となってもその街に住み続ける街は消滅することはありません。たとえ街に新規流入する人がいなくても、以前からの住民の家族が円滑に世代交代していけば、街の人口は減りません。その街で育った子供たちが大人になってそこで暮らし続ける街ならば良いのです。そんな街はいつまでも街であり続けます。人口増加社会なら、自然増や流入が期待できるので、街が消滅することはないのですが、人口減少社会に転じた今は、魅力が無い街は自然減と流出で徐々に消滅に向かいます。生まれ育った街が好きならば子は親の住まいを引き継いで、その街で暮らし続けようと思うでしょう。安全で快適に暮らせる街で、健康で文化的な生活を楽しめる施設があって、働くのにも学ぶのにも便利な場所ならば、そこはとても魅力的な街で、愛すべきふるさとといえる街です。消滅可能性都市にならない街はそんな街です。

4. 他の街とは違う独自の魅力

 豊島区は職住游近接型の暮らしができるのに、消滅可能性都市に選ばれてしまいました。街にはどんな魅力が足りなかったのでしょうか。千代田区には丸の内、中央区には銀座、港区には青山、六本木という魅力的な街があり、文京区は文教都市で、台東区は歴史の長い下町で、それぞれ魅力的な特徴があります。ところが繁華性で比較すると残念ながら豊島区の顔である池袋という街は渋谷や新宿にも劣後して、埼玉から東京への玄関口で、華やかさに欠けたイメージでした。サンシャインシティと東京芸術劇場と西武、東武の両百貨店があるだけでは都心を象徴する商業地域としてはまだ不十分で、他の街とは違う独自の魅力が不足していたのでしょう。

5.日常を楽しめて、歴史や文化を誇れる街

 地方の街で育った子供たちが、人気の大学や企業が集積する大都市に流出し、その後再び親元に戻らないことが問題です。その理由は、①親と話が合わないので一緒に暮らしたくない。②生まれ育った街に魅力がない。からではないでしょうか。①親と話が合わない原因は、テレビや新聞を情報ソースとする親の古い価値観と、ネットニュースやSNSを情報ソースとする子世代の価値観に大きな隔たりがあるからでしょう。会社や仕事、家庭や結婚、教育や人付き合いなどのどれをとっても親世代が考える「世間の常識」が、急激な社会変化で子世代では非常識になっていることを全く理解しようとしない親と、同居したくないと思うのは無理もありません。
しかし、この問題は全ての親子に該当はしないので、根本原因は②街に魅了がないことだと思います。職(仕事)と游(遊び)が確保できて、安全で快適な生活を楽しむのに必要な飲食、物販、サービス、行政施設が近くにあって、より高度の利便や楽しみを提供する大型施設への移動が快適な街が、豊かな自然に囲まれていて、街の歴史や文化が誇れるものであり、古い価値観を押し付けられないで、自由に暮らせる場所であれば、若年世代も子育て世代も流出しないでしょう。

6.住民と行政が協力すれば解決へ向かう

 豊島区はそのファサードの役割を担う池袋に着目し、「危ない、ダサい、楽しめない」というマイナスイメージを「国際アート・カルチャー都市」という新しいイメージで、刷新しようとしています。地域内に大型オフィスビルを建設し、劇場やシネコンや大学を誘致して、都市公園の整備にも力を入れて、地域内の回遊性を高めるためにコミュニティバスの運行も始めました。その公園や劇場では持続的にイベントが行われ、リピータも増加し続けています。再開発ビルなどの施設を造っただけで人が集まることはもうありません。ほかにはない独自の街の魅力を備え、その魅力を持続してさらに高めるために、住民と行政が真剣になれば街が消滅することはありません。

7.  豊島区が実施した対策

 消滅可能性都市に指摘される以前から、消滅危機を懸念していた地元出身の区長が中心となって、街の魅力を高めるために豊島区は幾つもの事業を実施しました。
以下は2021年1月29日の豊島区長 高野之夫氏へのインタビュー記事からの抜粋です。

1999年頃の豊島区は財政破綻寸前でした。区の借金は872億円で、「基金」つまり貯金はわずか36億円で普通の会社なら倒産です。区長は10年間で財政を再建し、2013年に23年ぶりに貯金が借金を上回りました。ところがその矢先の2014年に消滅可能性都市との指摘を受けました。計算上では、30年後に若い女性が半分以下になる可能性があるという理由からです。しかし池袋は埼玉県民730万人のうちの100万人が東京に通う際の玄関口で、新宿に次ぐ大きなターミナルです。人口も底だった1997年の24万人から2020年には29万人に増えました。年間に亡くなる人数が、生まれる人数を上回っていますから毎年500人から1000人の自然減があるのに人口が増えている原因は、流入人口が多いからで、豊島区に住もうという人が増えているのです。
20代、30代の女性、F1層といわれる層が少なくなるということが根本的な問題だったので、『100人女子会』や『F1会議』などを企画して女性の声を行政に反映するために『女性にやさしいまちづくり担当課長』を新設してその人材を民間から採用をしました。「女性にやさしいまちということは、まず子育てしやすいまちということですが、豊島区では保育園が不足していました。そこでとにかく保育園をたくさんつくり、消滅可能性都市の指摘から3年後の2017年4月には待機児童ゼロを達成しました。そうした対策が功を奏して、家事に専従するのではなく仕事にも従事する女性が増え、家庭収入の水準も上がりました。5年間で2万人の納税義務者が増えました。区民税収入が毎年過去最高を更新しています。
財政が厳しかった時代には、出張所や児童館などの施設を統合したり、廃止したりして、区民には閉塞感がありました。行財政改革を進めながらも明るい目標をもたないと本当の意味での再生はできないなと気付いたからです。文化は目には見えないけれども人の心を豊かにしてくれる。文化があればにぎわいが生まれます。区の文化担当の職員は、1999年には3000人の職員の中で兼務を含めたったの2人でした。今は2000人の職員の中で100人に増えています。消滅可能性都市の指摘を受けてしまったことで、『国際アート・カルチャー都市』をつくると宣言し、様々な改革を早急に実行するチャンスが得られました。
2015年5月に竣工した49階建ての庁舎も官民連携のお手本とされています。上は分譲住宅で下が区の施設です。小学校の跡地で敷地の6割が区の所有でしたから借金ゼロで建設できました。元の区役所の敷地は、民間に定期借地で貸し付けて『Hareza池袋』が建設されました。官と民の三つの建物に八つの劇場がある『国際アート・カルチャー都市』の拠点となる施設です。
豊島区は『アニメの聖地』をも自任しています。アニメの原点は漫画です。漫画の原点は『トキワ荘』です。文化に優劣はないですし、アニメには国境もなく、どの国にも抵抗なく受け入れられます。外国人も多く住む国際的な豊島区にふさわしいシンボルの一つです
東京都豊島区は2020年7月に、内閣府によって20年度「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の両方に選定されました。ダブル選定は東京の自治体では初めてですが、特別区の一つがなぜ改めて未来都市と言われるのか。その背景には、2014年に23区で唯一「消滅可能性都市」と指摘された「ショック」がありました。 

2021年1月29日の豊島区長 高野之夫氏へのインタビュー記事からの抜粋

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