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教養の身につけ方(私的)

前に質問があったので考えてみました。本当に良い人生に教養は必要なのか、といった問いはとりあえず横に置いておきます。活字中毒者は本を読むことを教養のためとは思いませんし、音楽や美術もそうです。

まず教養というのは、どれほど美化したり親しみやすくアレンジしたところで権威の体系です。「先人たちが良いとしてきたもの」に触れることは、権威主義に浸るということとほぼ同意であり、個人的に思う面白さや好き嫌いとは関係ないところに成立しています。

日本では教養は学知というより人格陶冶のニュアンスが強いですが、正直な話、教養があると性格が良くなるわけでもないのは身に染みて感じることなので、その辺りとはあまり関係がありません。

前置きはこれくらいにして、具体的に。

序 時間を作る

日々何かに忙殺されている人間には不可能です。何とか時間を作ってください。その点で、学生時代はやはり最適な時間だと思います。

①趣味の核を作る

人は知っていることを土台に知らないことへ進めます。ですから教養を拡大し育んでいくにもやはり専門のような軸を持つと楽です。歴史でも科学でもそれぞれの芸術分野でも同様ですが、自分の好みにあったものをまず積極的に取り組んでみてください

学習法としては美術史の例でいくと、最初から美術史の流れなど通史を読むのではなく、自分の好きな画家や時代をとことん深めてから、それらに接続した画家や時代に移って広げていきます。

自分の好みに準じて狭く深くやることが大切です。感性の中に太い杭を打ち込むイメージといっていいでしょう。それが全体の趣味の核になります。これを蔑ろにして最初から広く浅くやっていると教養はただの雑学になってしまいます。

②古典や原典に触れる

教養の核のようなものができてきたら、自分の気になる分野の中で突出して有名な人間がいることに気がつくはずです。引用されたりあとがきやまえがきで何度も名前が出てきたりする人です。

次のステップはその人たちが書いた本=古典を片っ端から読むことになります。これは文学に限りません。

ノートを用意して、気になった一節を書き抜きしながら読んでいくことで咀嚼していきます。そのノートを読み返すことでまた何度でも立ち戻ることができ、それを繰り返すと思考回路に影響が出てきます。知識で終わらず血肉にするためには不可欠です。

そんなに本を読むのが好きではない、時間がない場合は「批評」が役に立つと思います。いわゆる現代思想系ではなく、作品に対応して分析するオーソドックスな批評を読むと、見方や態度などのコツがぎっしり詰まっています。それを拝借するのは効率的です。コスパという意味ではなく、教養という目的のためには有効だというニュアンスになります。

目指す目標が作家や研究者になるのでなく教養人である場合、別にオリジナリティはいらないので、批評を読むことによるショートカットおよび学びはおすすめです。その場合も広く浅くではなく、この批評家の文章がいいと思ったら氏の批評を集中的に読むようにしてください。

③旅をする 

ヨーロッパの上流階級は勉学の総仕上げとしてイタリアに旅行し、古代遺跡などを巡るグランド・ツアーという営みをしていました。それと同様、旅による身体的な経験の蓄積は教養を磨くでしょう。

万巻の書を読むに匹敵する刺激的な旅というのもやはりあるわけです。特に海外旅行は言葉も文化も違うのでその刺激は一層深いと思います。

もちろん国内の旅行もいいと思います。ただ目的地はインスタで面白そうだったからという風ではなく、ちゃんとした目的意識や知識に裏付けられた興味の上で決めることを推奨いたします。展覧会に行ったり音楽会に行くことも同様です。

④何かに所属する

何のために教養をという根本の目的意識の話になりますが、だいたいの人がコミュニケーション的なところに行き着くと思います。自分の人生を豊かにしたいなど抽象的でカッコいいことを言う人でも、実態は教養によるコミュニケーションへの渇望があります。

その場合、気の合う人たちとサロンのようなものを結成したり、外部の読書会や勉強会に参加したりしてください。独りよがりな教養に他者の目が入ることでそれが洗練されていくはずです。

幸いSNS社会はこの手のサロン形成や参加がしやすくなっています。大学人がボランティアでやっている質の高いものもありますし、素朴な勉強の悩みに答えてくれる回答者もいます。かつてのように教養を習得するには高い金が必要で、教養=権力といった図式ではないことを寿ぎましょう。

同好の士がいることは何よりも心強く楽しいはずです。おそらく教養の醍醐味があるとするならここでしょう。教養によって繋がる絆が存在します。

もちろんのことですが、知識量マウント合戦が始まるようでしたら意味がないのであって、常に謙虚であるべきです。

おすすめ本をちらほら

最初はそれほど身構える必要はなく、どんな分野も雑誌の特集といったところから入っていくのをおすすめいたします。分野関係なく読んでよかったものとして、難しくないものをいくつか紹介します。

「教養」と言えば古典古代の文章というのは今日でも否めないので、足掛かりとして名言集の類をどうぞ。

短文が続くので読みやすいでしょうし、古来から帝王学のように読み継がれてきた一冊です。

日本人として生まれたなら日本の古典への教養はぜひ持っておきたいとなると、こちらの本をお勧めいたします。小ネタ集としても読むことができますし、広辞苑の編集者の冴えが感じられるものです。

ヨーロッパ最高の教養人が語る芸術へのエッセンスの数々は勉強になります。難しい本ではありませんし、なかなか自国の本を誉めないニーチェが最高の一冊と激賞しているものになります。私にとっても「教養」の言葉で真っ先に浮かぶ本です。

そもそも「教養」の概念とは何かと考える方がいらっしゃれば、キケロがその起点にいます。ギリシャ人が切り分けてしまった哲学と実践(弁論術)をどう再統合させるか、という難題解決のために考えられたものが「教養」です。ヨーロッパ的な意味の教養はここに出発します。

教養が人生を豊かにするのか私にはさっぱり分かりませんが、参考になれば幸いです。

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