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政治家の責任

 本書は第二次安倍晋三内閣の不祥事を取り上げ、書名の通り「政治家の責任」を追及している。試みに、いくつか引用してみよう。

 《私は当時、民主党政権の節操のなさにあきれたものだった。まさかその後、政治の立て直しを期待されて復活した自民党政権のもとで、国会での虚偽答弁や公文書の改ざんといった前代未聞の不祥事が起き、しかもそれについて政治の側ではだれもが責任をとるものがないという光景を目にするとは、想像もしていなかった。責任をとるべき政治が逃げ回り、問題の処理を官僚に押し付けるという情けないパターンは、どうやら、どの政党が政権を担うかにかかわらず、近年の政治に共通してみられる劣化傾向を示しているようで、暗然たる思いにさせられる。》(本書61頁)

 《「モリ・カケ」問題では、これでもかこれでもかというくらい文書の改ざんや廃棄が明るみに出る。文書で証言のウソが明らかになったあとでも、「記憶にない」「答弁を差し控える」の一点張りでシラを切る。しかも、政治家は誰一人責任をとらず、官僚に責任を押し付け、自殺者まで出す痛ましい事態を招く。遺族の訴えにも耳を貸さない。しかも、それでもなお、いまだに真相を認めないまま、という異常さだ。》(72頁)

 非常にまっとうな議論であり、あえて言うなら、ありふれた議論でさえある。しかし、それでも本書には大きな価値がある。それは、本書の著者が読売新聞の主筆代理である老川祥一氏だからだ。老川氏は渡邉恒雄氏に次ぐナンバー2で、読売の紙面に大きな影響力を持っている。本書のあとがきには渡邉氏への感謝が記されているため、渡邉氏の同意のもと出版されたものと推測される。読売は安倍政権末期から政権批判を行うようになっており、現政権にも注文をつけているが、これも渡邉氏や老川氏の方針なのだろう。

 私は本書を読み、いま囁かれている安倍氏の再々登板の可能性はないと確信した。もし安倍氏が再び総理の座を狙っても、読売新聞に阻まれるだろう。(編集長 中村友哉)

(『月刊日本』2021年7月号より)

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書 籍:政治家の責任
著 者:老川祥一
出版社:藤原書店

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