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食品とテクスチャー

テクスチャー(texture)というのは、口触りや歯ざわりなど、口の中で起きる食べ物の感覚のことです。食感とほぼ同じ意味で使われます。
食品の研究開発や評価を行うとき、テクスチャーと表現することが多いですね。
テクスチャーには人が感じる官能的な部分と、物理学的な性質の部分があります。
人の感じる官能的な部分は、どうしても個人差が出てきます。
そのため、テクスチャを正確に評価するのはとても難しいんですね。
物理学的な性質のみだったら、絶対的な評価をすることも可能です。

食べ物を食べるとき、味や香りが美味しさに強く関わってきます。
そして、テクスチャー(食感)も美味しさを左右しています
例えば、歯ごたえや舌触り、口の中で感じる感覚というのがとても大きく美味しさに関係しているんですね。
もし食感がなかったらどうでしょうか?
想像してみて下さい。

どんな食事も味気ないものになってしまうと思います。
味や香りが素晴らしくても、食感がなければ食べ物の質は落ちてしまいます。何より、食べることの楽しみが半減してしまいます。

ここでもう一つ考えたいのが、味の無い食べ物です。
蒟蒻(こんにゃく)と寒天は味がありません
しかし、作り方によって食感が変わります
柔らかさ(弾力)・滑らかさ・脆さ(寒天の場合)などが変わってきます。
そして、味がないにもかかわらず、食感が違うと味の違いがあるように私たちは感じるんです

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蒟蒻と寒天はゲルの一種です、
ゲルは、高分子の分子鎖によってできたネットワークの中に、水などの溶媒を含んだものです。
ゲルは固体でも液体でもない固体と液体の中間の性質を持っています。
流動性や弾力、粘性を持っているので、滑らかさや歯ごたえ、口溶けのような、口の中で感じる特徴をいくつも持っています。
テクスチャーの評価を行う格好の材料と言えます。

ゲルの中には、圧力をかけると液状に変化するものがあります。
このようなゲルは、口の中に入れて咀嚼すると、流動性のないゲルから流動性のあるゾル状態に変化します
これはチキソトロピー性という性質を持っている材料に見られる現象です。
例えば、マヨネーズやケチャップがそうですね。
何も力を加えない状態では、しっかりと形を保っているんですが、チューブから押し出したり、スプーンなどで押し広げたりすると、流動性が出てきます。
知育菓子の「ねるねるねるね」も同じ性質を持っていますね。
こういったものは口の中に入れて咀嚼すると、途端に滑らかになって流動性が出てきます。

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タピオカミルクティーなどに入っているタピオカは、粘性の高いゲルでした。
ただ、安価なタピオカミルクティーに入っているものは、こんにゃくやゼラチンなどを混ぜて作られています。
中には、100%蒟蒻じゃないのかと思うものもありましたw

タピオカには味がありますが、多少味が違っていても、食感が似通っていれば本物のタピオカだと感じます。
同じく粘性の高いゲルにグミがあります。
グミはジュースなどをゼラチンで固めたものですね。
弾力が高く、変形させても元の形に戻ります。
また、粘性が高いため、ナイフを使っても簡単には切れません。
弾力と粘性の高さが、グミ特有の噛み応えを実現しています。
ちなみに、グミ(Gummi)はドイツ語でゴムという意味の単語です。
確かに、ゴムのような弾力がありますよね。

豆腐には木綿豆腐と絹ごし豆腐があり、柔らかさや舌触りが違います。
同じ豆腐でも、食べ比べると明らかに違いますよね。どちらが好きか、人によって好みも分かれます。
また、豆腐で作ったハンバーグは、表面の舌触りや噛んだ時の食感が似ていれば、味付け次第で本物の肉で作ったもののように感じます。

物理学的な評価では、粘性は粘度計で測定可能です。
弾力や柔らかさは、圧縮強度や引張強度などを測定すれば分かります。
物理学的な方面からであれば、テクスチャーの評価を詳細かつ正確に行うことができるんですね。

難しいのは、最初にお話ししたように、人が感覚的な評価をする官能的な部分です。
そこはどうしても個人差が出てしまいます。
単に味だけなら、絶対的な評価をすることのできる装置が開発されています。
でも、ここまでお話ししてきた通り、味は味覚だけではないんですね。テクスチャーも大きく関わっています。

テクスチャーを意識しながら食べると、より楽しく食事をすることが出来るんじゃないでしょうか。


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