ここは柳生家江戸下屋敷やぎゅうけ えどしもやしきから、そう遠くない山寺の境内けいだい…
　
　拙者は柳生茜やぎゅう あかね殿と一緒に、食後に夕涼ゆうすずみの散歩に出たのだった

　最初は、拙者一人で歩きながら考え事をするつもりだったのだが、茜あかね殿が拙者に向かって
「ぜひとも、ご一緒致いたしとうございます…」
と、直接に希望を申して来られた故ゆえ、断るのもはばかられ…　二人伴ともだっての山寺への散策さんさくと相成あいなったのである

　茜殿の兄、柳生十兵衛やぎゅう じゅうべえ殿に冷やかされたのには
拙者も茜あかね殿も真っ赤になって閉口へいこうした

　拙者は思いもかけぬ茜あかね殿からの申し入れを内心嬉うれししく思ったのだが、十兵衛殿の手前…面おもてに出さぬ様に非常に苦心した

　道中、喋しゃべるのはほとんど茜あかね殿だった
　拙者はと言えば、茜あかね殿の明るい振る舞いや愛くるしい笑顔に見惚みとれてばかりで、彼女の話に頷うなずいたり時々相槌あいづちを打つ程度だった

　それでも、茜あかね殿が問いかけてくる話題には真面目まじめに答えるべく口下手くちべたな拙者が柄がらにも無く、汗をかきながら考え考え一生懸命に相手をした
　あの沢庵和尚たくあんおしょうと禅問答ぜんもんどうをするよりも拙者には難しい事であった
　それでも拙者にとって、初めて経験する楽しいひと時であった

山寺からの帰り道…
　今宵こよいは、晴天に浮かぶ満月と満天の星々に照らされて足元も明るく、提灯ちょうちんが無くとも危なげ無く夜道を歩く事が出来た
　
　拙者と茜あかね殿が山寺の境内けいだいと麓ふもとの町を繋つなぐ小道を並ならんで下っている途中であった…
　
　突然、拙者の腰に帯おびし魔剣『斬妖丸ざんようまる』が激しく震ふるえ出した
　この剣の震えは拙者には馴染なじみ深い感触で、『斬妖丸ざんようまる』が妖あやかしに近付いた証あかしともいえる兆候ちょうこうである
　しかし、この激しい震え方からすると妖はかなり近い…

　拙者が身構えたのを見て、隣を歩く茜あかね殿も何事かが起きたと即座そくざに感じ取っていた
　流石さすがは女子おなごとは言え、柳生新陰流しんかげりゅうの剣の達人…
　拙者が注意を促うながすよりも早く、すでに胸元に忍ばせた懐剣かいけんに手をかけていた
　今宵こよいの茜あかね殿のいで立ちは女子おなごらしい装よそおいであった為ため、持ちたる武器と言えば胸元に差した一振ひとふりの懐剣のみ…

　拙者は茜あかね殿に寄り添そい、いつでも彼女を護まもれる構えを取った

「ふふふ…　流石さすがは『妖狩あやかしがりの侍』殿と言ったところか…
我われらの気配によう気付きおった…」

　突然、小道脇の林の暗がりから声がした

　拙者は『斬妖丸ざんようまる』に左手をかけ、鯉口こいくちを切った

「何奴なにやつじゃ、その方ほうらは…？
　何者どもかは存ぜぬが…今の其方そなたの口ぶりでは、拙者達の素性を知った上での襲撃と解釈せざるを得んが…」
　拙者は声のした方に身体を向け、茜あかね殿を背後に護まもりながら声の主に誰何すいかした

「ふふふ…　『その方ほうら』ときたか…
　こちらが複数なのも見通しておるとは恐れ入ったわ…
では、名乗り申そうか
　儂わしの名は猿飛佐助幸吉さるとび さすけ ゆきよしじゃ…
　先の戦国の世において、『日本一の兵ひのもといちのつわもの』と呼ばれし真田信繁さなだ のぶしげ（幸村ゆきむら）様が家来、真田十勇士じゅうゆうしと名乗りし集団の一人…」

　そう言いながら林の暗闇くらやみから静かに姿を現した人物は、黒っぽい忍び装束しょうぞくに身を包んだ身の丈たけ五尺三寸（159cm）ほどの中肉で、名乗りし名前の通り猿さるの様な面構つらがまえをした男であった
　しかし、この男には全くと言っていいほど隙すきが無かった

　そして…　林の木をメキメキと乱暴にへし折りながら、もう一人の男が暗闇から姿を現した

「拙僧も同じく真田十勇士が一人、三好清海入道みよし せいかいにゅうどうじゃ」
　気味の悪い笑いを浮かべた顔で名乗ったのは、身の丈たけが六尺八寸（約204cm）、体重が五十貫（約190kg）はあろうかという巨漢で法衣ほういを身に纏まとった見上げるほどの大入道おおにゅうどうであった

　『斬妖丸ざんようまる』は刀身の震わせ方で周辺に潜ひそみし妖あやかしが、この現れた二名のみである事を拙者に告げていた
　『斬妖丸』の妖あやかしを感知する能力に間違いは無い…

　拙者は身構えつつ、現れし男どもに言った

「ほう…　これは異いな事を承うけたまわるものよ…
　拙者の知る限りでは、史実において真田信繁（幸村）殿も配下の真田十勇士の面々も『大坂おおざかの陣』にて見事に討うち死じに致された筈はず…　　　　　
　今は亡き、音に聞こえた真田十勇士のお二方ふたかたが斯様かような場所に今頃おられるはずがあろうや…？
　その方ほうら二人から、妖あやかしの匂においがプンプンしておる事を説明して頂きたいものだが…如何いかがでござろう？」

　拙者は二名の妖あやしい者達に問いかけながらも決して油断はせず、茜あかね殿を護まもるべく自分の背中を彼女にくっつけんばかりに寄せた

「ふふふ…清海せいかいよ、やはり『妖狩りの侍』殿には隠し通せぬようじゃわい
いかにも、その通りじゃ…
　我われらは御屋形おやかた様もろとも『大坂の陣おおざかのじん』にて目覚ましい活躍を示した後、徳川方との合戦で既すでに命を落とせし身…
　今、其方そなたの目の前に居おる我らは、冥府めいふより妖あやかしの力を借りて黄泉帰よみがえりし者じゃ」

　拙者は妖あやかしを狩るのを生業なりわいとする身の上…　この者どもの語るのを聞いても何ほどの事もない
　だが…　さしもの柳生新陰流の達人の茜殿でも、本物の妖を目の前にしては恐ろしくても無理は無かった
　ひたすら懐剣を握りしめた茜あかね殿は、拙者の背に寄り添うように立ちながら可哀かわいそうにブルブルと震えていた

「で…？　その黄泉帰よみがえりし死人殿しびとどの達が、斯様かような時刻じこくに拙者達に何用でござる？
　用が無いのであれば我らは先を急ぐ故ゆえ、これにて失礼致しとう存ずる…」
　答えが分かっている事なれど、拙者は敢あえて口に出して相手に問うてみた

「ふふふ…　我らの用向きなど知れた事よ
　今宵こよい…　我らは御屋形おやかた様の命により、其方そなたの首をもらい受けるために参った
　話には聞いておるが、先日の様に柳生但馬守たじまのかみと十兵衛親子に加え怪しげな坊主ぼうずどもは誰一人として、この場には居おらぬ様子…　見れば供ともの者は可憐かれんな女子おなご一人だけ…
　我ら真田十勇士の猛者もさ二人を、その娘を護まもりながら一人で相手出来るかな…？
　其方そなたを殺した後で、その娘は酒の肴さかなに我らが代かわる代がわる容赦なく何度も犯し、さんざんに嬲なぶり者にしてくれようぞ…」
　下種ゲスな表情を浮かべた猿飛佐助さるとび さすけが、舌なめずりをしながら言った

　今の佐助の発言を聞いた途端とたん、拙者の頭の中で何かが音を立てて弾はじけ飛んだ…

「許さぬ！　貴様ら下種ゲスな死人風情しびとふぜいが、よくも茜あかね殿に侮辱ぶじょくを申したな！」
　拙者は言うが早いが『斬妖丸ざんようまる』を抜き放った
　そして、電光石火の勢いで猿飛佐助《さるとび さすけ》の所まで一気に跳躍ちょうやくし、『斬妖丸』を袈裟懸けさがけに斬きり下げた！

「手応てごたえあり！」

　普通ならば今の『斬妖丸ざんようまる』の袈裟斬けさぎりで、猿飛佐助の胴体を血しぶきと共に右肩から左腰まで斜めに真っ二つにした筈はずだった

　だが…　拙者が手応てごたえと感じたのは一本の杉の木であった

「おのれ、猿飛さるとび！　変わり身の術か！」

　『斬妖丸ざんようまる』が震え、握る拙者に振動で猿飛佐助の位置を報しらせてくれた

「猿飛さるとび、そこだ！」
　拙者は背後を振り向きざまに『斬妖丸ざんようまる』を横一文字いちもんじに薙なぎ払った

「ぐはっ！」
　気配を完全に断たち、今まさに背後から忍者刀で拙者を斬きらんとしていた猿飛佐助の右腕が、血しぶきと共に握った忍者刀ごと宙ちゅうに舞った！

「おのれ…　青龍せいりゅうとやら…　完全に気配を断っていた儂わしの正確な居場所と腕の位置が、何故なにゆえ貴様に分かったのじゃ？」
　左手で斬り落とされた右腕を拾いながら、猿飛佐助が憎しみに満ちた目で問いかけて来た

「拙者には、この魔剣『斬妖丸ざんようまる』がある
　『斬妖丸ざんようまる』は妖あやかしの血を啜すすり、その妖力を我が物と致す妖狩あやかしがりの剣…
　貴様らの様な魔界の者や妖には敏感に反応するのじゃ
　妖狩りを生業なりわいとする拙者にとって、妖を見つけ出す目であり耳であり鼻でもあると言える存在なり
　貴様が妖の一員であるならば、拙者にとって見つけ出すなど造作ぞうさも無い…」
　猿飛佐助の血が滴したたる『斬妖丸ざんようまる』を構え直し、佐助を見た拙者は目を見張った
　佐助が左手に持った切断された右手の断面同士を少しの間くっつけたままにしたかと思うと、佐助の右腕は拙者に斬きられる前の元の状態に戻ったのだ…
　拙者は驚きと共につぶやいていた
「こんなにも早く元通りに修復するとは…」

　すぐに佐助は復元した右手に忍者刀を握り、拙者に向かって構えを取って見せた

「へへへ…　どうだい、青龍せいりゅうさんよ
　儂わしは元来甲賀こうがの流れを汲くむ忍者だが、今のは忍法でもまやかしでもないぜ
　『大坂の陣』にて討ち死にした後に儂わしが手に入れた妖あやかしの力よ
　儂わしらは、二度と死なない身体になったのさ…」

 　自慢げに言い放つ猿飛佐助が見せた右腕の合わせ目は、既すでに癒合ゆごうが終わったらしく完全に消えていた　　　
　完全体に戻った佐助に対し、拙者が『斬妖丸ざんようまる』を構え直した時だった！

「キャーッ！」
　絹きぬを裂さく様な茜あかね殿の悲鳴が辺あたりに響き渡った

「しまった！　茜あかね殿っ！」
　拙者は佐助に対峙たいじしているどころでは無くなり、すぐさま彼女の悲鳴がした方を振り返り走った
　するとそこには…　もう一人の真田十勇士である三好清海入道みよしせいかいにゅうどうが、茜あかね殿のすぐ間近まじかに迫っているところだった
　
　見ると、七尺（約210cm）はあろうかという六角棒を左手に持った三好清海入道が長い右腕を伸ばし、大きな手で今にも茜あかね殿に掴つかみかからんばかりだった

　清海入道の伸ばす右掌に茜あかね殿がエイッとばかりに突き刺した懐剣かいけんを、何と言う事か…　抜きもせず刺さったまま握りつぶしてしまった

「いかん！　出いでよ、『水竜すいりゅう』っ！」

　拙者は茜あかね殿に向かって走りながら、『斬妖丸ざんようまる』を左手に持ち替え、右手で『時雨丸しぐれまる』を抜き放った！

「キシャアアァーッ！」
　抜き放った魔剣『時雨丸しぐれまる』は刀の付け根の茎なかごより激しい水流をほとばしらせた
　噴ふき出した水流は見る間に竜の形へと姿を変えていく（※１）

「水竜！　茜あかね殿を守れ！」

　拙者の命令を聞いた水竜は、清海入道せいかいにゅうどうの背後から右へと回り込むと至近距離で激しい水を口から噴き出し、大砲のような威力を持つ水流を清海入道の右わき腹に一気に叩き込んだ
　恐らく寺の梵鐘ぼんしょうを、数人がかりで思いっきり勢いを付けた撞木しゅもくで叩いたほどの衝撃だっただろう
　清海入道の右わき腹の肋骨ろっこつは、全てばらばらに砕けたに違いなかった
　激水流をぶつけられた清海入道は茜あかね殿に右手を伸ばした姿勢のまま、左方向へと間にあった木をへし折りながら四間余り（約7.5m）も吹っ飛んだ
　「バキバキバキッ！　ズシーン！」
　清海入道の巨体は、数本の木をへし折った末に太さが一間（1.8m）余りの巨木の幹みきにぶち当たってようやく止まった
　水竜の口から吐き出す放水はそれほどの威力があったのだ
　放水の後も水竜は、清海入道と茜あかね殿の間の空中に居座いすわる様に漂ただよったままだった
　水竜は拙者の命じた通りに茜あかね殿を護まもっているのだ

　普通の人間ならば巨木に叩たたきつけられた衝撃で当然、全身の骨が折れ五臓六腑ごぞうろっぷ全てが破裂していたに違いない
　だが…　佐助と同じく清海入道もまた、不死身の化け物であった
　水竜の放水でずぶ濡れになった身体のまま…何事も無かったかのように立ち上がり、まるで凝こった首と肩をほぐすかの様に両腕を勢いよく振り回し始めた

「まったく…　突然の水浴みずあびで、拙僧の一張羅いっちょうらの法衣ほういがずぶ濡れだわい
風邪かぜを引いたらどうするんじゃ…」
　何と…　清海入道は全身骨折の心配よりも、風邪を引く事の方を心配しているかの様にブツブツとつぶやいていた
　いや恐らく、如何いかなる病気にも罹かかる筈はずはあるまい…

「化け物どもめ…」
　拙者は元真田十勇士だった二人の、生ける屍しかばねと化した姿を順に見つめながら茜あかね殿の元へたどり着いた。

「茜あかね殿、お怪我けがは？」
　拙者にとって何より気がかりなのは、茜あかね殿の無事についてだったのだ
　恐らく現在陥おちいっている状況と彼女への心配の余り、当の茜あかね殿に対しても拙者は恐ろしい形相で問い質ただしたのだろう
　心配された茜あかね殿が拙者の顔を見て一瞬怯おびえた表情になったが、すぐに安堵あんどの顔に変わり溜ため息をついた

「龍士郎りゅうしろう様が来て下さり、茜あかねは安心致しました
　されど…　私を化け物から救ってくれた、この…水で出来た竜はいったい…？」
　今も茜あかね殿を護まもるべく空中に浮かぶ水竜を見ながら、彼女が拙者に尋たずねた

「詳しい話は、また後で…
　とにかく、この水竜すいりゅうは茜あかね殿をお守りする存在です
　拙者が保証致します故ゆえ、ご安心召されよ」

　拙者がそう言うと、茜あかね殿は相変わらず現状の恐怖に身体を小刻こきざみに震わせながらも、清らかに澄すんだ美しい瞳で真っ直すぐに拙者の目を見つめてコクリと頷うなずいた
　拙者は、自分を疑う事無く無条件で信じてくれる茜あかね殿の気持ちが、いじらしくも嬉しかった

　力強く頷き返した拙者は、自分の腰帯こしおびから魔剣『時雨丸しぐれまる』を鞘さやごと引き抜き、懐剣かいけんを失った茜あかね殿に押し付ける様に手渡しながら言った

「茜あかね殿…　この太刀たちは、水竜を刀身とうしんに封じし魔剣『時雨丸しぐれまる』でござる
　この剣を今より茜あかね殿がお持ち下され
　水竜は『時雨丸しぐれまる』を持つ者を必ずやお守り致す」

　茜あかね殿は、拙者を何の疑いも持たぬかの様にキラキラと輝く少女のような眼差まなざしで見つめながら、両手で『時雨丸しぐれまる』をしっかりと受け取った

「『時雨丸しぐれまる』よ、茜あかね殿を頼んだぞ…」
　
　そう言った拙者の背後から、林の地面を覆おおう腐葉土ふようどを踏ふみしめる足音がした
　振り返ると、三間（約5.4m）ばかり隔てた場所に猿飛佐助と三好清海入道が並んで立っていた…

「おいおい、青龍せいりゅうさんよう…
　若い姉ちゃんとイチャイチャする愁嘆場しゅうたんばは、その辺で終わりにしてくれねえか？
　もっとも、若い二人の濡れ場なら見てやってもいいがよ
なあ、清海せいかいよ…？　うへへへへ」

　猿飛佐助さるとび さすけの発した問いかけに三好清海入道みよし せいかいにゅうどうは、ニヤニヤと薄気味の悪い笑いを浮かべながら舌なめずりをして答えた

「いひひひ…
　佐助よ、拙僧はその見目麗みめうるわしい娘は未いまだ生娘きむすめと見たぞ
　これは頂上至極ちょうじょうしごくの極きわみじゃ、拙僧がその娘の初めての男となって遣つかわそうぞ
　もっとも、拙僧の巨大な逸物いちもつで攻め続けられては可哀かわいそうだが、初めての交合こうごうで娘の股間は使い物にならん事になってしまうかも知れぬのう…　うひひひひ…」

　拙者はまた頭に血が上りそうになるのを必死で抑えた…
　下卑げびた笑いを浮かべながら、茜あかね殿に下種ゲスな言葉を吐はく輩やからどもめ…許さぬぞ
　しかし…　この不死身の化け物どもを、拙者一人で二人も相手にせねばならぬのは真まことに厳しい状況じゃ…
　茜あかね殿の剣術は人間相手ならば、後おくれを取る事は無いであろうが…　いかんせん、相手が真田十勇士の成れの果ての不死身の化け物どもでは…

「む…？　『不死身』…『化け物』…　はっ！
　そうだ、ヤツがおった…
　正直言って…あまり使いたくは無いヤツだが、この際…背に腹は代えられぬ」

　不死身の真田十勇士の二人組を相手にするために、やむを得ず拙者にとっては禁忌きんきとも言える妖あやかしを使役しえきする事を決意した

　拙者は手に持った『斬妖丸ざんようまる』を空に掲かかげ、刃やいばの切っ先でくるりと円を描きながら叫んだ

「出でよ、魔人ノスフェラトゥ！」

　その拙者の叫びが消え入る前に、満月と満天の星々の浮かぶ空を俄にわかに現れた黒雲が覆おおいつくした
　そして、黒雲から地面に向けて一本の稲妻いなづまが走った！
「バリバリバリーッ！　ドッカーン！」

　我らの居おる場所のすぐそばに稲妻は落ちた
　その場所から火柱が上がり、黒煙が空へと昇のぼって行く
　その立ち上る火柱と黒煙の中から、ゆっくりと一つの人影が姿を現した…

「お呼びでございますかな？　我が主マイマスターよ…」

　現れたその人影こそ…
　拙者のかつての敵にして恐るべき不死者ふししゃ…ノスフェラトウであった　

　（※２）

【次回に続く…】

　（※１）幻田恋人著：妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「火車と『時雨丸』」（前編）　＆　（後編）　参照

　（※２）幻田恋人著：妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「伴天連の吸血鬼…」　参照