冷たい雨が降る
ある冬の日…

クリスマスを来週に控ひかえ
せっかくの電飾で彩いろどった街中まちなかも
人通りはほとんど無い

傘かさを忘れた僕は
待ち合わせ場所の庇ひさしの下で雨宿あまやどり
分厚ぶあつい雨雲を恨うらめしく睨にらみ
震ふるえながら彼女を待つ

吐はき出した白い息の向こうに
走り寄よる彼女の姿が見えた

「ごめん…　だいぶ待ったよね」

済すまなさそうに謝あやまる君に
首を横に振って僕は答える

「全然だいじょうぶ
　僕も今来たところ…
　ハ…　ハクションッ！
　ハクションッ！　ハックション！

平気を装よそおって答えた僕は
続けざまに３回
大きなくしゃみをした

泣き出しそうな顔で
心配げに僕の顔を見上げる君を
愛いとおしさの余り
僕は思わず抱きしめる

「グスン…
　大丈夫だから
　風邪かぜなんて引いてないよ
　誰かが僕の噂うわさしてるだけさ」

華奢きゃしゃな君の身体が
僕の腕の中で小刻こきざみに震えてる

「君こそ、こんなに凍こごえて…
　とても寒かっただろうに
　冷たい雨の中を走って…」

相手の気持ちを確かめるかの様に
しばらく二人は抱き合い
互いの体温で温あたため合った

「それじゃあ、行こうか…？」

僕は屈かがんで
地面から君の傘かさを拾い上げ
一本きりの傘を二人で使う

「相合傘あいあいがさだね…」

付き合い始める前…
君の机の横を通りかかった時
君のノートの端はしに描かいてあった
三角に縦線の傘マークに
僕と君の名前を見つけた

たぶんシャーペンで描いた
他愛たあいの無い落書らくがきの相合傘…

その数日後…
僕は一大決心をして
君に交際を申し込んだ

君の答えは「YES」…

あの時の僕は
飛び上がりたいほど嬉うれしかった

じつは…
僕のノートにも
同じ相合傘の落書きがあったのを
君は今でも知らない

今、二人の身体を
現実に一本の傘が覆おおっている

でも君の傘は小さくて
二人の肩を濡ぬらしてしまう

「もっと、こっちへおいで…」

僕は君の肩を抱き
自分の方へ引き寄せる

君の右側に立つ僕は
右手で相合傘あいあいがさを握り
左手で君の左肩を抱く
その僕の左手に
君は自分の左手の指を絡からませる
君の右手は
僕のコートの左ポケットに納おさまった

「よし、これで完璧だ」

二人で笑いながら歩き出した途端とたん
白い息を吐はきながら君が言った

「見て見て…
　雨が雪に変わってるわ」

「ホントだ…
　こりゃ寒いはずだな」

「今年初めてだね
　ていうか、久しぶり…かな？」

「ああ…
　とにかく付き合い始めて
　二人きりでは初めてかな」

僕はもっとくっつく様に
君を強く引き寄せる
僕の顎あごに触ふれた君の髪かみから
とてもいい匂においがした

「クリスマス…
　もうすぐだね」

「ああ…
　クリスマスにも
　雪、降ふらないかな？」

「降れば
　ホワイトクリスマスだね」

「降っても降らなくても
　君と一緒にいたいな」

「当り前じゃない
　プレゼント交換しよっか？」

「お、いいね
　何もらおうかな？
　ん、何笑ってんの？」

「何も買わなくていいんじゃない？
　二人で一緒にいさえすれば…」

そう言った君は
僕に強くすがり付く

「おいおい、危ないよ」

はずみで傘が
二人の頭上から離れても
雨はもう
完全に雪に変わっていた

この程度の雪なら
かえってロマンティックだ
ちょっと残念だけど
もう相合傘あいあいがさは必要無いかな…

目をつむった君が
背伸びして顔を僕に向けて来た

僕はもう一度
相合傘で二人の頭を覆おおった

しんしんと
雪の降る寒い夜…
二人は路上でキスをした
周まわりの目なんて気にしない

だって相合傘が
二人を隠してくれるから…

来週のクリスマス…
彼女は何を
くれるつもりなんだろう？

僕はもう決めてある…
と言うより
彼女の手が入っていなかった
コートの右ポケットに
じつは、もう入ってるんだ

お揃そろいの指輪リング…

今年のクリスマス
僕はこのプレゼントを渡し
正式に彼女に告つげるんだ

「僕と結婚してほしい」

そして
もう一言、付つけ足たそう…

「君と僕で一生ずっと…
　二人の相合傘を差し続けよう」