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070_SONIC YOUTH「DAYDREAM NATION」

”やめて。まとわりついてくるなよ。おまえら、私の魂をくもらすなよ、頼むから邪魔しないで。”

「ほら、これ、見てみ。たぶんユカちゃんの裏アカじゃないかって、麻美と話してたんだよね。なんか、いろいろと言ってることがそれっぽいっていうか。しかもさ、内容がほとんど彼氏のグチっていう。超ゲスくない」
「うわあ、マジで、ちょっと見せてみ」
「あーでも、このショップでの投稿とか、テイストがなんかユカちゃんっぽいよね。さすが、我らが早学のファッションリーダー(自称)。マジ、ウケる」
「うーん、生徒に自分の愚痴アカ特定されるとか、教師としてきつくない?ないわー。私だったら、マジもう教壇立てない」
「そうそう、たまったもんじゃないよね、やっぱりさ、もう34歳だし、いろいろと焦ってんじゃない?四捨五入すればアラフォーって、もうなんか色々きついよね」
「てか、前、彼氏が一流企業に勤めているから安心だって、私らの前でのろけてなかったっけ」
「いや、なんかさあ、でもこれ最近のつぶやきとか読んでいるとちょっとヤバげみたい、いろいろと。なんか彼氏が実はバツイチで、子どもの養育権で離婚調停とかで裁判で揉めてて最悪って書いてんの。これマジ、結構終わってない?」
「うわー、それ、うちらが聞いててもリアルにきちーなー。だからか、最近、超機嫌悪かったじゃん」
「一昨日の授業とかさ、机にいきなり定規バンってやってたもんね」
「そうそう、それ。マジウケる。なんでそこで急にキレんの、っていう」
「教室の前の子とか、ビクーってなっちゃってさ。あの大人しい子、高野だったっけ」
「そういや、あの子、最近見ないね、休んでんの?」
「いや、確か、今日は来てるはず、まあいてもいなくても、わかんないからね」
「それそれ、そういうの、ひどくねー。それ、私がいない時にも言ってっしょ」
「ないない」

”私を形作る全ての形象的な物事は全て、私に立ち入らない、私を一個の神聖な神殿の中に、私の魂を住まわせている”

「まゆみさ、なんか最近冷たいよなぁ」
「あれか、バンドの練習忙しかったから、この前おまえに会えなかったの怒ってんの?ねえ、怒ってんの、って。聞いてんのに。お前は高校生で気楽かもしれないけど、大学生の俺も色々忙しいのよ?は、また無視かよ」
「最初は俺に、ベタベタしてたのにさ。つーか学校でなんか気になっている奴でもいんの?あ、そうか、早学は女子校か」
「早学の女子って、まじ清純なんだって思うじゃん?あの制服がそそるっていうか。まあ中にはそういうんじゃないのもいるかもしれないけど、俺はそう思ってたの。だからお前のカテキョの話来たときは、ウヒョーラッキーって思ってたのに」
「つか、じゃあ、お前がこの前からはじめたドラッグストアのバイト?そこにさ、男でもいんでしょ?」
「つーか、隠すなよ。もうさ、わかってるんだよ。なんか、俺にもう時間作るのめんどくさいって感じだよな。なあ、なんとか、言えよ」
触んな。
「最近、全然じゃん。なんか避けてるよね、体も触らしてくんねーし。だからさ、いーじゃん。俺、お前の彼氏だよ?お前の脚とかさ、綺麗だよね、俺脚フェチだから。マジそそる」
触んなよ。彼氏ヅラすんな。

”魂を見つけよ、そして純粋で気高い、透明で静謐な空気を形作るように、己の魂を住まわせる塔を立てよ
誰にも触ることのできない魂を見つけよ
自分だけの言葉で、自分だけの体で、自分だけの魂を形作れ”

「はーい、もう静かにして、じゃあ授業始めます」
「あ、やべ、ユカちゃん本人来たよ、これ」
「はーい、うるさいですよー。それが授業受ける態度?もう来年は受験なんで、みんながみんな同じ進路じゃないかもしれませんが、少しは皆さんの将来のこと自覚を持ってください。もう動いている人は動いているんですから。一人一人全員が、自覚ある行動をお願いしますね」
「じゃあ、テキストの56ページから、はい、太田さん、この2パラ目の「激しい慟哭の…」のあたりから、読んでください」
「うえ、あ、はい」
「はい、もう、どうしたの。早くその場で立って読んで。56ページ」
「あの、すいません、先生、私今日テキスト忘れましたー」
「え、太田さん、それ前回もじゃないの?どういうこと?ちゃんと自覚を持ってって、先生、はじめに話したばっかりでしょ、みんなちゃんと考えているの?」
「普段の行いっていうのが、自分の将来のことにつながってくるのよ。きちんとした大人になれないの。ちゃんとそういうのわかってる?」
「あーなんか、もうこれ雲行き怪しいよ」
「絶対、前回のひきづってるよね、このパターン。もうホント、太田ちゃんも空気読まないよねー。ウケる」

「くーちを大きく開けまして、歌ってごらーん、あいあいあい」

「ああ、また、初等科のあのクラス、教室の窓開けて歌ってるみたい。この前も注意されてよね、近所からも、うるさいって」
「なんか、子どもの声を伸ばすためだとか、なんかすごい独創的な先生らしいよ、初等科のあの音楽の先生」

「その歌、ぐんぐん広がって、だれかのこころにこんにちわ」
「私らも、初等科の時、あの歌、歌わされたよね、今考えると、意味不明だよね、この歌」
「ああーいいなあー歌声はあいあいあい」
「私は結構、気に入って歌ってたけどね」

”私の見ている景色は、やがて世界の終わる時の最後の景色になる
すべての言葉と情念と暴力をないまぜにして
純粋な形状を形作る。それは硬く、それでいてしなやかな禽獣の体と同じ。”

「もう、ホント、お願いだから、先生を困らせないで。親御さんからも、お願いされているのよ、あなたたちのこと。私の立場もわかって、ね。いいわ、じゃあ高野さん、高野まゆみさん。代わりに読んで、56ページ」
「高野さん。聞いてる?テキスト、読んで」
「ありゃりゃ、また、高野かー」
「すごいねー、高野、ユカちゃんのこと、まるシカトとか。大物すか」
「高野さん、ほら、テキスト持っているでしょ」
「ねえ、聞いているの?ていうか、あなた授業中に何やっているの?今は現代文の授業でしょ、何関係のないことをノートに書いているの」

「世界いっぱいいっぱいいっぱーい ララ、響きあう」

「うわ、高野、内職やってんの、もろバレてる」
「てか、一番前の席で内職やるとか、高野、完璧授業舐めてる、私は真似できんわ、ウケる」
「もう、いいわ、あなたはもう授業を受けなくていい。あなたの机もこの教室に入らない。もうどけるから。廊下にあなたはいなさい。わかった?」
「あー、ユカちゃん、スイッチ入っちゃった」
「ほら、もうあなたの机。いらないわ、この教室にいらない。もうあなた、出ていきなさい。ほら、早く聞いているの。私の授業中に関係ないことして、何これ、詩でも書いてるの?くだらない、今はそういう時間じゃないの。現代文の授業の時間なの、今日でテスト範囲終わらせないといけないんだから。こっちも大変なのよ。そういうことは家でやりないさい」

「歌歌え、歌歌え、歌えバンバンバンバンバン

うるさい、うるさい、喋るな、触るな。
私の魂を曇らすな、お前らの汚く下賤な手で私の魂に触れるな。私だけの私だけの、この神殿に入るな、私の、私の魂、透明で光り輝いて、風にたなびいて

「歌えバンバン、歌えバンバン、歌えバンバンバンバーン」

あーーーーーーーーーーー。ああーーー。ああーーーーー。
うう、ああ。ああ、私の、私。
ああーーー、あう、あ、私の私の、触んなよ、私の魂、曇らせんなよ。

「高野さん、高野まゆみさん!ちょ、ちょっと落ち着いて、なんなの、どうしたのよ、急に。やめ、て、ちょっと落ち着いて、ねえったら、暴れないで」
「う、うへえ、高野がキレたー」
「ちょ、ヤバくない、うわアイツ、目なんかちょっとヤバい、なんかイってる人見たくなってる」
「おい、誰か、止めろって、ヤバい、アイツなんか手に持ってるし」

「歌えバンバン、歌えバンバン、歌えバンバンバンバーン」


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