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富田砕花賞に文月悠光さん

 第34回富田砕花賞に、文月悠光(ふづき・ゆみ)さんの詩集『パラレルワールドのようなもの』(思潮社)が選ばれました。
 選考評では「抽象語や観念語を排して、たえず具体的な書き方をして、今、自分が生きている世界(=世相)にもしっかり眼差しが注がれている」などと評価されました。
 ことしの応募作は115編だったそうで、最終候補は5冊だったとのこと。10月4日に芦屋市が発表しています。

 『パラレルワールドのようなもの』は文月さんの6年ぶりに発行された第4詩集です。文月さんは1991年、北海道生まれ。2008年に16歳で現代詩手帖賞を受賞。2010年に第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(ちくま文庫)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞しています。受賞作は2022年に出版されました。

 選考委員の講評は芦屋市の富田砕花賞公式ホームページで発表されています。以下のようになっています。

 文月悠光の『パラレルワールドのようなもの』は詩とは何かという自分自身への問いかけが全篇にみなぎっている。抽象語や観念語を排して、たえず具体的な書き方をして、今、自分が生きている世界(=世相)にもしっかり眼差しが注がれている。同時に自分の書きつけた一行に誘われるように積算しながら物語をつくっていくなど好詩集である。

富田砕花賞/芦屋市 https://www.city.ashiya.lg.jp/gakushuu/saika.html

 ここで指摘されている「自分自身への問いかけ」に満ちた詩集でありながら抽象的な言葉や観念的な言葉を排して、なおかつ世相にも向き合っているということが、いかに難しいことか。詩を書いている方ならおわかりと思います。

 自己の内面を掘り進むことはモノローグに特化した現代詩としては王道的な手法だと思いますが、観念的になりやすい落とし穴があります。そして自己の内側に視点を向ければ向けるほど、社会との関わりが希薄になりがちです。そういった相反するともいえる数々の点を両立させ、それぞれの作品を詩として成立させていく、そしてそれらを一つの詩集として形作っていくこと。これができれば、生み出された詩は確実に読み手に届き、心に響くものになるのは間違いないのではないでしょうか。

 選考委員は季村敏夫さん、たかとう匡子さん、時里二郎さんの3人です。この3人をしてこういった高い評価を得たことは、文月さんがこれまで書いてきた詩やエッセイなどの文章を思い返すと、納得する部分が大きいように思います。

 文月さんの公式ウェブサイトで「この惑星(ほし)に呼ばれて」という詩を読むことができます。

わたしたちは、まばたきする度
故郷の夏を燃やしている。
潤んだ黒い瞳で滅ぼしている。
おかえりなさい。
惑星を守り、惑星と暮らそう。
きみが虹になって
わたしのなかへと
帰ってくるように。

「この惑星(ほし)に呼ばれて」(一部抜粋)/文月悠光ウェブサイトより

 壮大なスケールで世界を見つめ、なおかつ小さな命に寄り添う視点を失わない文月さんの創作姿勢があらわれた詩だと思います。
 文月さんはさまざまなものと闘ってきた担い手だと思います。早熟であったからこそ、闘わざるを得ないものが多かったのでしょう。詩壇のシーンによどんでいたものを吹き飛ばし、新たな地平を切り開いて詩の可能性を追求しているプロの詩人なのだと思います。
 今後の詩業にも大いに期待して、フォローしていきたいとあらためて思います。

 贈呈式は11月16日、芦屋市立美術博物館で開かれるそうです。
 また、今回応募された115冊の詩集が、芦屋市の富田砕花旧居で展示されるそうです。応募全詩集を1年間展示というのは、おもしろいですね。この賞独特の取り組みのように思います。
 そのほか、賞の詳細については芦屋市の公式ページで発表されています。

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