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解り合うこと

「村の暮らしを理解しようとしていない」

映画「北の果ての小さな村で」(サミュエル・コラルデ監督)で、デンマーク領グリーンランドに赴任してきたアンダース(アンダース・ヴィーデゴー)に地元の女性が言い放つ。アンダースにはグリーンランド語がわからないが、批判されていることは伝わる。

アンダースはデンマーク本土から赴任してきた青年教師だ。実家の農業を継ぐ気がない彼は北極圏のグリーンランドを教師として訪れる。しかも首都ヌークではなく人口80人の村を選んで。

子どもたちは彼の話を聞こうとしない。騒ぎ、席を立ち、ふざけあっている。「静かにしなさい」と大声を出せば、それを真似て笑う。

1週間にわたって欠席する男の子がいた。自宅を訪ねると、祖父とともに猟に出ていたという。祖母に「彼にも将来がある」と学校に戻るよう説得するアンダース。しかし祖母は「この子の夢は漁師だ。必要なことは祖父が教える」と聞き入れる様子がない。

そこからアンダースがとった行動は。

この先の展開には、グリーンランドとデンマーク本土の歴史的な関係性が反映されていると思える。

グリーンランドはかつて、デンマークの植民地だった。第2次大戦後、植民地統治をやめたデンマーク本土はこの島を本土と対等な一地域と位置付けた。グリーンランドの住民も、対等な権限を獲得していくために努力を重ねた。一方で近代化の波も押し寄せた。犬ぞりに乗ってアザラシを探し、氷床の上を何週間も旅する。獲物を持ち帰れば家族で分け合い、また漁に出る。そういったイヌイットの人々の伝統的な暮らしは、戦後の近代化で失われていった。

短い夏は白夜が続くが、長い冬は太陽が昇らない。漁から離れ、コンクリートの団地で暮らすようになったイヌイットの人々はアルコール依存など、さまざまな問題に悩まされるようになっていく。

その中でグリーンランド政府は住民投票を繰り返して地元の人々の民意を発信し続け、国内での自治権を獲得する。さらにデンマークからの独立を目指して対話を重ねている。背景にはデンマークという国で保障されている多様性がある。自国内に歴史的にも民族的にも違うイヌイットの人々が暮らしていることを許容する寛容さがある。

わたしが暮らしている地域の、日本国内での位置づけについて考えさせられた。

この映画で象徴的な場面は二つある。

まず前半、アンダースが授業に地元の漁師を招いたことだ。それまでアンダースの話を一切、聞こうとしなかった子どもたちの表情が一変する。

もう一つは終盤、アザラシの肉料理を食べるアンダースが、漁師を夢見る少年アサーの祖母トマシーネに「作り方を教えて」という場面だ。トマシーネは何と答えるだろうか。

映画はコラルデ監督の得意とするドキュフィクション(ドキュメンタリー的要素のつまったフィクション作品)の手法で撮影されている。アサーが祖父から漁の仕方から道具の作り方まで、さまざまなことを教わる場面などほとんどドキュメンタリーだ。広大な氷床や幻想的なオーロラなど、グリーンランドの雄大な自然にも圧倒される。

http://www.zaziefilms.com/kitanomura/

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