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経営に活かしたい先人の知恵…その21

◆上意下達型組織の弊害◆


 
昨年の話で恐縮だが、「経営層が若手社員に教えを請うリバースメンタリングが最近広がっている」(日経新聞2023年3月29日夕刊)との記事があった。そこには「新発想で下意上達に」とのサブタイトルがつけられていた。

 大企業や有名大学のスポーツクラブで不祥事が次々と起こった数年前、盛んに上意下達型組織の弊害が指摘されたものの、現状なかなか是正されているとは言えない。その反省もあってか、下意上達に目が向くようになったのだろうが、「今さら」という気がしないでもない。

 中国・戦国時代「キングダム」の世に生きた兵法家、尉繚子は、「下達上通(上意の下達、下意の上通)こそが、組織統治では一番大事」と言う言葉を残しており、これは古今東西を問わず真理と言っていいだろう。

 サラリーマンの生態を客観的に見ていた作家の橋本治さんは、「情報は、上から下への流れと、下から上への流れが循環していないといけないのだが、ダメな組織には、下から上への流れがない」(『上司は思いつきでものをいう』)と、指摘していた。ここに日本企業の生産性の低さが、起因するのではないだろうか。

 同書で橋本さんは、大意次のようにも書いている。「第二次世界大戦後、日本の会社は現場の声を聞いて大きくなった。日本の『技術力』は、現場の声を反映して高められた。現場の声を聞かない会社は駄目になる」。

 まさにその通りだと思うが、現状どうか。上から下への流れも、下から上への流れも、途中で堰き止められている企業が多いのではないだろうか。

 経営層に聞くと、大抵の場合、情報はオープンに下に流していると答えるし、現場の人間は、上司に自分の意見は伝えてあると言う。しかし、現実には、双方ともに伝わっていないことが多い。

 ピラミッド型組織では、階層を経るごとに幾何級数的にコミュニケーション・ロスが増えていくとされているが、この事実に気づいていないのではないか。上意下達ができていない組織に、下意上達ができているとは思えない。

 組織が真剣に取り組むべきは、「下達上通」の組織づくりだと考える。それでも、それだけでは十分とは言えない。上から下へ、下から上への流れだけでなく、外部も含めた横への流れを循環させることが重要になってくる。

 心理学者のギルバート氏は、「人的能力が発揮されていない問題の半数以上は、情報が伝えられていないことが主たる原因となって起きている」と言うが、何もこれは自社内のことだけではない。サプライチェーンが重要な要素になっている昨今の経営環境では、チェーンの中での情報の流れにも留意しなくてはならないし、クライアントへも、適切な情報を流すことが大事なことはいうまでもないだろう。

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