2022年に読んで印象に残ってる本10冊+α
今年もたくさん本を読みました。転職や引っ越しでバタついた時期もありましたが、気になるな~って本を好きなタイミングで読めた1年だったんじゃないかと思います。
あまりにもベタな企画ですが、良かった本を振り返る意味で記事にします。
印象に残ってる本10冊+α
あらかじめお断りしておくと、ジャンルはほんとにバラバラです。
ザ・ダークパターン ユーザの心や行動をあざむくデザイン
企業の利益増につながるようにユーザを誘導するいわゆる「ダークパターン」について解説する1冊。事例が豊富で、実際のwebサイトの例も出してくれるので非常に理解しやすいです。
例えば、契約はしやすいが解約に非常に手間がかかるなどユーザを妨害する「オブストラクション」。または大事な前提をあえて小さな文字で書くミスディレクションなど。「現代の契約書はシェイクスピアの小説より文字数が多い」というのは笑ってしまいました。
こうしたダークパターンは誤った数値目標(解約率など)に基づくもので、本来は製品・サービスの魅力で勝負すべきだろうと考えます。
一例として、Netflixはこのダークパターンを踏襲せず「いつでも解約できる」「サービス再開も容易」「サービス利用してないユーザには中止を促す」といった方針で成功をおさめています。
山奥ニートやってます
最寄り駅から車で2時間、和歌山の山奥の元・小学校の校舎を利用して十数人のニートが共同生活を送っている話です。良書だったので記事に感想をまとめてます。ニート志望者じゃなくてもおすすめの本です。
防災アプリ 特務機関NERV
速く正確な災害情報の発信を続けるアカウント「特務機関NERV」の開発秘話です。Twitterで、地震などの災害情報を流す「NERV」のアカウントを見たことがある方は多いのではないでしょうか。
中の人は飛び切りの技術者で、3.11で親族を亡くした経験から情報発信を改善し続けています。当初はごく小規模な災害情報botだったが、3.11を契機に認知が広がって、エヴァ公式にも許諾をもらうことに。災害が多発する現状で、関係者全員の熱意が伝わってくる良書でした。
ライズ・オブ・eスポーツ ゲーマーの情熱から生まれた巨大ビジネス
近年のeスポーツ業界の発展を語る一冊。eスポーツの熱量を解像度高く語っていて、ゲーム好きの端くれとしては読んでいて気分が良かったです。
単なるeスポーツ賛美だけではなくて、eスポーツ業界の問題(薬物、八百長、性差別、人種差別)にもきちんと切り込んでいます。海外ゲーマーが葉っぱキメながらゲーム配信するって話はお国柄を感じましたね…。
文章がめちゃくちゃうまくて、著者もゲーム好きなんだな~ってことがよく伝わってくる内容。一部引用します。
プロゲーマーのプレイは職人芸、アートの域に達しているものも多く、いわばアスリートの練習風景を日常的に見ることができるのがゲーム配信の魅力だと思います。まだ歴史が浅いというだけで、eスポーツはゆくゆく他のスポーツや囲碁・将棋などと大差ないカルチャーになっていくんじゃないでしょうか。
10分後にうんこが出ます―排泄予知デバイス開発物語
排泄のタイミングを予測するウェアラブル端末の開発秘話です。著者は「お漏らし」の経験をきっかけに、排泄の予測の社会的意義に気づき、開発をはじめたそう。
今日では大人用おむつの売れ行きは伸び続け、介護の仕事では排泄介助は大きな負担となり、「お漏らし」の不安から外出が億劫になって健康を損なう高齢者が存在します。そうした現状の改善を目指して、著者らは超音波を使って尿便の量を計測する端末を開発して、介護施設での実証実験も行っています。
今後は空腹や生理を予測する端末の開発も視野に入っているそう。この手の人をちょっと幸せにする先進技術は、がんがん開発していってほしいですね。
看護師に「生活」は許されますか 東京のコロナ病床からの手記
コロナ対応に携わる看護師の手記。医療関係者が受けた差別を可視化しています。感染リスクが相対的に高いゆえに受ける偏見や、ある種過剰なまでの感謝・応援を受けて、著者が疲弊する姿が描かれてます。
極端な例でしょうけど、コロナ初期に看護師が受けたいわれない差別がたくさん例示されてます。タクシー乗車を拒否されたとか、不動産屋で「あなたは医療関係者ですか」とアンケートに答えさせらられるとか(yesなら賃貸を迂遠に断られるそう)。家族やパートナーから「感染リスクが高い、世間体が悪いから看護師を辞めて」と言われる例も。
看護師は英雄でも白衣の奉仕者でもなくて、ひとりの労働者だと著者は言っています。想定外の事象(今回ならコロナ)のせいで、平時より高い負荷がかかる職業人に対しては、せめて処遇を改善するとか、精神論じゃない対応が必要だと感じます。カネがすべてじゃないですが、目に見える数字が有効な対価、ねぎらいになることも多いですから。
語学の天才まで1億光年
謎の幻獣探し、麻薬地帯への潜入など、数々の探検をくぐり抜けてきた探検家による語学エッセイです。25以上の言語を使ってきた秘訣は、とにかくネイティブとの実践につきるそうです。
「現地人に受ける」とか「マイナー言語話せるのは格好良い」だの「先住民の幻覚剤を使ってみたい(?)」とか、動機は不純でもいいから現地で話すのが肝要で、とにかく実践がないことには身につかない。
また、ひとくちに言語学習といっても、文字がない言語とか、媒介言語(お互いがわかる共通言語)がない手探りの学習とか、バリュエーション豊富で読んでてめちゃくちゃおもしろかったです。著者の高野さん、やることが突き抜けすぎててエッセイが全部可笑しいんですよね。
脱毛の歴史 ムダ毛をめぐる社会・性・文化
体毛の扱いから、社会に満ちた暗黙の価値観を読み取る一冊。脱毛・除毛の技術革新や、なぜ毛が処理されるようになったかの歴史が載っていて読み応えがあります。
個人が自発的にひげ・髪以外の体毛を除去するようになったのは、歴史的にはつい最近になってからとのこと。毛深さは獣に近く倒錯した・不衛生なものとみなされるようになった経緯や、除毛は規範の押し付けとして反対するフェミニストの活動なども紹介されていました。
そもそもなぜ人間は毛が薄い動物として進化したのか、って議論は面白かったのでもう少し深掘りしてほしかったな~と思います。まぁそれは人類進化の過程についての本を読めばいいのか。
白の闇
不意に目が見えなくなる病気が蔓延した国を描く長編小説です。失明のパニックというよりは、視覚を奪われることで現れる人間の本性が描かれています。
失明の影響は、単に生活が不便になることに留まらず、お互いを信用できなくなることを意味しています。たとえば作中で盲人たちが収容された精神病院では、人数を偽って食料をちょろまかしたり、徒党を組んで食料を独占する輩が現れるようになります。
インフラも止まり、どんどん不潔で獣のようになっていく人々の中で、清潔さと人間らしさを維持しようとしていた主人公たちが印象的でした。
本作は100分de名著「パンデミックを超えて」でも取り上げられています。
言語が違えば、世界も違って見えるわけ
言語は思考や知覚に影響を与えうるか?(言語が変われば思考や知覚も変わるか?)との疑問に答える一冊。
過去の研究の歴史を振り返りつつ、「『青』を表現する言葉がなかった古代人は、青い色を知覚できていなかったのか?」とか「あらゆる方向を、上下左右ではなく東西南北で表現する民族は左右という概念が理解できないのか?」といった誤解を解いていきます。
たとえばグーグ・イミディル語という言語では、前後左右を表す言葉が存在せず、すべての方向を東西南北で示すそうです。彼らは方位磁石なしで東西南北を把握できます。ただし、母国語に存在しない概念は理解できないというわけではなく、グーグ・イミディル語の話し手も、英語を話すときはrightとleftの概念を完璧に理解しています(言語は思考の牢獄ではない)。
先駆者たちの研究を、後世の研究者たちが覆してブラッシュアップしていく様がエキサイティングでした。
番外編 リウーを待ちながら
日本でもしペストが流行したら?を描いた漫画です。全3巻。ペストはコロナとは違いますが、感染症が広まったときの群集心理や医療サイドの考え方など、感染がおさまらない現状を考え直すヒントが多く詰まっていました。
まとめ
書いてみると、ノンフィクションばかりになってしまいました。小説も読んでないわけじゃないんですが。
やはり自分はノンフィクションが好きなんですね。きわめて複雑で多層的なこの世の一部分を、凡人でも見えるように切り取って提示してくれるノンフィクションが大好きです。
今回の記事は以上です。良いお年をお迎えください。
最後までお読み頂きありがとうございました!