別サイトで書いたお気に入りショートショート3選②

お久しぶりでございます。そうでない方は初めまして。リマウチです。
今回も私が別サイトで書いたショートショートを3つ紹介する。

文字数は多くないが煮詰まっているはずである。おでんの時期なのでちくわぶでも食べながらどうぞ。


4.ぬるくなった缶ビール
コンビニから出る。ビニール袋の中には一本の缶ビールが入っていた。毎年、この日に買う缶ビールだけはなぜか習慣で有料化されたビニール袋ごともらってしまう。
こういった所から節約しないとな。
私はこの小さな反省が恒例になっていた。
少し歩いていってとある電柱の前に立つ。今年は少しの花が添えられているだけであった。
「もうあの日から10年も経つのか」
やけに町並みが見慣れないはずだ。
私はビニール袋から缶ビールを取り出し、電柱へ添えた。まだ冷えているのか缶は強い日差しを浴び、結露していた。
私の親友はバイクの事故で死んだ。ヘルメットも被らず外壁に頭から思いっきり突っ込んだらしい。
「じゃあ、俺も飲ませて貰おうか」
鞄から缶ビールを取り出す。それは鞄の中で完全にぬるくなっていた。
俺はいいんだ。お前と飲めるだけで。
一口のみ、少し拝んでから電柱を背中に帰路に着いた。


5.耳に委ねて
雪ががしとしとと降りつく庭。
窓の外を眺め、私はどのくらい積もるのだろうかとぼんやり考えた。
暖炉の火がパチパチと鳴る。ロッキングチェアに腰掛け、昨日に続きアガサクリスティーを読み進めた。
ひとしきり読んだところで私は立ち上がり、壁の標本を眺めた。その標本には生き物ではなく、脱皮したかのような人間の耳が入っていた。
これは私が数十年かけて世界中から集めたものであった。この耳を自身の耳に被せるとそれぞれ耳が記憶している音が聞こえた。例えばこの耳からはバザールでごった返す音が聞こえる。これはバザールに出店している店主から譲ってもらった。他にもざあざあと激しい滝の音、かこーんと木を斧で切っていく音など数多く持っていた。
「さて、今日は誰の耳を借りようか」
私は一つずつ丁寧に標本から耳を取り出し、腰掛け、音に身を委ねた。それは私のお気に入りの時間だった。


6.こんな素晴らしい夜に
トポトポトポ

ワイングラスに赤ワインを注ぐ。その深紅に私の瞳は囚われていく。ああ、なんと美しいのだろう。

私はワイングラスに口をつける。口腔から食道へ、雨垂れよりも激しく私の喉をつたっていく。

なんと素晴らしい夜だ。ワイングラスに満月を透かして覗き込む。美麗、耽美、流麗。それらの言葉が陳腐に思えるほどの素晴らしい光景がそこにはあった。

深紅の海から神々しい光を帯びて現れる月。こんな日にはぴったりの祝福であった。

私は足元のモノをハイヒールで蹴りあげる。

もちろん動きはしないし、息もない。モノだから。

その事が途端に面白く思えてきて、私は笑みをこぼす。

「やっぱり赤がお似合いね」

私はそのモノに赤ワインをぶちまける。床にはより深紅が広がっている。そのまま私はこの部屋をあとにした。

部屋に残っていたのは転がり落ちたボトルの赤ワインと月光に照らされた真っ赤な死体だけであった。


どうだったであろうか。おでんのおすら出てこなかったであろう。しかし、しみしみであったのではないだろうか。特に最後の作品は赤ワインでしみしみになっていることだろう。

解説を書こうと考えていたが、物語は人によって解釈が違うのでやめる。人は尊重が大事であるから。

とりあえずここまで見ていただいた方とおでん。本当にありがとう。よければ好きなおでんの具か感想をお願いする。

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