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【極超短編小説】味噌汁飲みたかった

 あまりの頭痛と悪心で目が覚めてしまった。
 反射的に手を伸ばし枕元のスマホを探したが見つからない。
 彼女の部屋に忘れてきたのかもしれない。
 
 カーテンのない窓から差し込む日差しが恨めしい。今は正午を過ぎた頃か。

 頭痛の鎮静とアセトアルデヒドの除去。喫緊の課題だ。
 僕は二日酔いというより、まだ酔っぱらっているような足つきでドラッグストアへ向かった。
 
 頭痛薬とスポーツドリンク、そしてラッキーストライクをワンカートン。
 部屋に戻る前に、彼女のところへ寄る。レジ袋にさっきの煙草ワンカートンと昨夜のお礼のメモを入れてドアノブにぶら下げておいた。

 スポーツドリンクを一気に飲み干し、頭痛薬を倍量飲むとほどなく眠りに落ちた。

 夢を見た。彼女と公園での語らい。薄暮の散歩。洒落たラウンジでワイン。そしてふたりの将来を夢想しながら眠りにつく。

 トントントントン。
 僕はリズミカルな音で目を覚ました。
 ずいぶん寝ていたのだろう。今では頭はスッキリし、体からアルコールは抜け、食欲さえ湧いてきた。
 トントントントン。
 すぐに分かった。包丁の音だ。ネギを切る音だ。味噌汁の匂いが漂ってくるようだ。
 僕は毛布にくるまったまま、まだ起きない。キッチンに立つ彼女の後姿を容易に想像できる。

 僕は十分に想像を膨らませると起き上がりキッチンへ向かった。

 トントントン。
 彼女はいなかった。

 トントントントン。
 テーブルの上に僕のスマホがあった。

 トントントントン。
 イケメン君の料理動画チャンネルが再生されていた。
 

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