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【農業小説】第11話 天と地と|農家の食卓

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何をするべきか考えてみても答えは出なかった。だけど動かなくては…何かをしなくては始まらないという気もしていた。だから僕は地域の農家だけはなく全国で同じ志を持った農家とコンソーシアムを立ち上げることにした。
すでに生産者団体「天と地と」を立ち上げていたけど、この規模拡大といったことになるのだろうか。どちらにせよ特に営利団体というわけでもなかったから気軽に始めてみようと思った。
それに本当のローカルを知るためには徹底的にグローバルな視点が必要だ。僕たちは地方で農業生産法人やレストラン、食品加工工場、酒蔵、宿泊施設、学校法人など複数の法人を運営していた。
これらを首尾よく推進していくために経営戦略というものがある。しかし個々に戦略を策定しても特定の局面に基づいて組み立てているから、Aというケースでは成立しても、Bというケースでは成立しなくなることがほとんどなのだ。
それだけに、優れた経営手法のエッセンスと思考のフレームワークをよく理解したうえで足元の経営課題に当てはめて考えることは、課題解決の効率を高めるし効果的な戦略を生み出すうえで有効なのだ。
そしてグローバル化というのは、経営における重要なフロンティアのひとつで選択肢だ。世界には実に多様な国があって多くの人種がそれぞれで多様な生活を営んでいる。
そこには大なり小なり多様な経済が成立しているわけだ。その多様性を小さなお店の料理に取り込み効果的な調理を組み立てるという作業は挑戦的だと思えた。
そうなると日本の農場だけにとどまらないだろう。実を言えば、これから紹介していく世界各地の農場を僕が訪れてみたいと思うようになったのは、ずっと前のことなのだ。
僕がなぜ農業生産法人を作ったかという話にさかのぼる。
僕は40歳になるまでビール会社でサラリーマンをしていたんだけど、あるときワイン会社とTOBして僕がそのワイン会社のCOOとして内示が出された。
それまでビール市場しか知らなかった僕はワインの市場やマーケティング、あるいは生産の現場を知る旅にでることになったのだ。
その時はアメリカのポートランドでブルゴーニュワインの祭典が開催されており、僕はそのマーケティング手法に驚かされたと同時に日本でもこういった手法を取り入れた展開をしてみたいと強く思ったのだ。
そしてワイナリーを立ち上げるために農地を手に入れる必要があった。そこで農業生産法人を立ち上げたのだ。まぁ結局のところ全然違う方向性になってしまったのだけど、でも結構納得している。
あの時に世界のワイナリーを回って経験したことは全部自分の血肉となっていかされている。だから今度はブドウ以外の農場を見て回ろうと思ったんだ。
循環しているのは経済だけではない。この世のすべては分解されながら再構築されて最適化するのだ。今度は自分自身をそのフレームワークに落とし込んで改めて学ぼうと思ったのだ。
つまり僕は、現実的な疑問への回答を探し求める旅に出ることにしたのだ。また別の機会にこの度の話をしたいと思うけど、結論からいうとその経験から得られたいちばんの発見は、「自分の疑問が間違っている」という現実だった。
食材がどのように育てられているのか具体的に突き止めようとするたびに、まったく思いがけない実態が浮かび上がってきたのだ。
それぞれの農場で学んだことは、すべてがお互いに深く結びついて、関わり合って時間の経過と共にそれが土地独特の文化や歴史として定着しているということだった。
「自然資本経営のすすめ持続可能な社会と企業経営」でも話したように、この世の中で何かひとつ取り出そうとすれば、この世に存在する他のすべてのものに結びついているのだ。

僕の活動によって耕作放棄地だった景観がトウモロコシを栽培する農場の景観に取って代わった。その過程でトラクターに取り付けたモアで雑草を刈り取り、それを堆肥化させたりするときに自然の中の営みに変化を与えたはずだ。

こうした物事の複雑な仕組みを理解したければ、複数の細かい部分に分解することで答えが得られると科学は僕たちに教える。

これは伝統的な料理法と同じで、物事は重さや大きさを正確に測定すべきだなのだ。しかし相互作用とか結びつきがあって、自然界ではこれを生態系と呼ぶのだ。

これらは重さも大きさも測ることが容易ではない。たとえば森は「海の恋人」をキャッチフレーズに森林保全の活動を行っている畠山重篤さんという方がいる。

宮城県の気仙沼で牡蠣の養殖業を営んでいたところ、海水と河川の水が交わる汽水域での水産に重要な養分が河川の水源である森の豊かさにかかっていると気づいて、水源地である岩手県の根室山に広葉樹を植樹する「牡蠣の森」と名付けた環境保全運動がある。

このようにすべては繋がっていて循環しているのだ。もちろん土壌で育てる作物だってその健康状態によって穀物の成長、たとえば酒米の生育に影響をおよぼすけど、酒米はよい日本酒の醸造と切っても切れない関係にある。

僕たちは農場の畑から始まって、一皿の料理や加工食品で完結するプロセスをフードチェーンと呼んでいる。しかし実際のところ、これでは鎖など存在しないに等しい。

実際のフードチェーンはオリンピックの五輪のようなもので、輪はひとつにまとまっているのだ。それがわかったときに、正しい料理法と正しい農業は同じひとつのものだという事実を僕は理解するようになった。

優れた食材をつまみ食いするだけで、自分たちの手で持続可能な食事を創造できるという考えは思い上がりでしかない。そんな狭いとらえ方からは、食のシステムを変えるための発想は生まれないのではないだろうか。

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