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まさか同級生だったとは、なんと失礼な旧友だろう・・・

それは私のことである。今から20年ほど前の話だ。

私が最後に勤めた会社は大企業の100%子会社だった。

ある時、親会社がある事業から撤退することになった。その事業を担当していた事業部の社員には、子会社への転職という選択肢が与えられた。

事業からの撤退を控えた数ヶ月前に、当該事業部の部長が当社を訪れた。

当社の所属長が会議室に集められ、各自自己紹介した後に部長から今回の事業撤退に関する簡単な説明と、それに伴う社員の受け入れの依頼を受けた。恰幅がよくいかにも大企業の部長がよく似合う人物だった。

話が一通り終わって会議室を出ようとした私に、部長が後ろから声をかけてきた。

「〇〇(私の名前)、俺や! (仮称)中村や! (仮称)晃や!」

驚いた。

何を驚いたって、聞いたことがない名前の人物に親しげに呼び止められたからである。私の記憶の中に中村晃という名前は全く存在しなかった。

私 「どちらの中村さんですか?」
中村「〇〇高校の中村や!3年生の時に同じクラスやったやろ!」
私 「申し訳ありません。確かに私は〇〇高校の出身ですが、記憶がありません」
中村「そうか・・・、でも、まちがいなく同級生やで!」

どうやら、彼の言っていることは本当のようである、というか嘘を言う理由は微塵もないので、事実である。しかし、なぜか私には全く記憶がなかった。そして、これを書いている現在も記憶にない。

私は実家を離れるまでのアルバムは全て実家に置いていたのだが、その実家もすでに解体し、更地になっていた。従って、彼が高校の同級生であることを確かめる手立てはない。

久々の再会を喜び、親しげに話しかけてくる中村晃くんだったが、彼のことを思い出せない私は親会社の部長様以外の人物に彼を置き換えることはできずに、丁寧に対応せざるを得なかった。

中村「他にも〇〇校の卒業生がいるので、今度一緒に飲みに行こうぜ。」
私 「はい・・、承知いたしました・・・」

そんなわけで数日後、私は中村くんともう一人の〇〇高校卒業生3人で、会社の近所の居酒屋で飲むことになった。

ところが、中ジョッキで乾杯して一口飲んだところで、工場での火災発生の連絡が入り、急遽会社に帰ることになってしまった。

その後、中村晃くんと会うことはなかったが、噂によると彼は親会社の部長職を経て子会社に出向し、そこで所長に就任したそうである。

ちなみに、私にとっての中村晃くんは当然今でも親会社の部長様以外の誰でもなく、とても本人を目の前にして、「中村くん」などと親しげには言えない存在である。

ところで卒業から20年以上経って、高校の時の同級生の名前と顔って覚えているものなのだろうか。

私は、特に親しかった友人以外は誰も思い出すことができない。これって、普通なのだろうか、あるいは私の記憶力が極端に悪いのだろうか。

まっ、今となっては別にどうでも良いことだが・・・。

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